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都庁はどのようにしてスタートアップと協働し、未来の東京を創造していくのか

既存の仕組みへの挑戦を恐れず、新しいビジネスモデル・新しい価値の創造を目指すスタートアップは、都庁と共に社会課題を解決し、未来を実現する重要なパートナーです。

2022年2月4日、東京都はスタートアップと協働を進めるにあたっての戦略の「たたき台」として、「スタートアップ協働戦略 ver.1.0」を公表しました。今回のnoteでは、戦略を公表する事になった背景や過程、今後の展開をご紹介します。

スタートアップ協働戦略 ver.1.0の位置付け


今回の戦略は、スタートアップやアクセラレーター等の皆様への調査を踏まえて、東京都が取り組むべき当面の対応策をまとめたもの、いわば「たたき台」です。

これをベースにして、再びスタートアップやアクセラレーターなどの皆様と対話を進めながら、取組を改善し、戦略をアップグレードしていきます。


なぜスタートアップとの協働に取り組むのか


東京都は、明るい未来の東京を切り拓くための都政の新たな羅針盤として「未来の東京」戦略を策定しており、そこでは、都庁自らがイノベーティブな存在になるとともに、スタートアップ等の多様なプレイヤーとのコラボレーションで社会課題を解決し、未来の東京を共創するビジョンを掲げています。

ビジョンを実現するため、これまでも、都庁の様々な組織が多様なスタートアップ施策を展開してきました。

【スタートアップ施策担当局と主な取組】

ただ、それぞれの所管局が個別に事業を展開しているため、東京都のスタートアップ施策の全体像を把握することが難しかったり、他の都市に比べて東京都の取組が見えにくいというご意見をいただくこともありました。

また、スタートアップと協働して社会課題の解決に取り組むにあたり、まず協働のパートナーであるスタートアップの意見を聞き、東京都の制度や仕組みで協働の障害となっている課題を整理し、その解決策を考えることが求められていました。

そこで、2021年8月12日に発表した「シン・トセイ加速化方針」において、スタートアップとの協働に向けた戦略を策定する方針を公表しました。


プロジェクトチームの立ち上げ


都庁が一丸となってスタートアップ施策を推進していくために、庁内のスタートアップ関連施策の担当局が集まり、2021年9月15日に「スタートアップ協働戦略プロジェクトチーム」を結成しました。

【スタートアップ協働戦略プロジェクトチーム】
・政策企画局
・総務局
・デジタルサービス局
・産業労働局

プロジェクトチームでは、戦略のコンセプト、戦略の柱、スタートアップへの調査内容などを議論しました。

まず、スタートアップへのヒアリング調査により、
 ① スタートアップへの理解・職員の意識変革
 ② 制度の見直しや仕組の検討
 ③ 効果的な情報発信
の3つの観点で定性的な評価を把握することにしました。

あわせて、アンケート調査を実施し、東京都のスタートアップ施策の認知度や評価、協働をする上での課題、東京都への要望などに関して、定量的な評価を把握することにしました。


スタートアップへの調査

【ヒアリング調査】
○期間:2021年11月5日-12月3日
○対象:スタートアップ、アクセラレーター、スタートアップと連携してオープンイノベーションに取り組む大手企業など、42社・団体
○方法:オンライン

ヒアリング調査は、当初アポ取りで数十社以上に断られ続けました。ヒアリングに応じてくれたある方から、「公務員は時間で給料がもらえるが、我々は成果を出さなければお金にならない。」と言われ、改めて「時間」という資産に対するスタートアップと都庁側の感覚の違いを認識するとともに、こちらの問題意識や意見交換の意義を上手く伝えきれなかった事を反省しました。

【アンケート調査】
○期間:2021年11月15日-12月3日
○対象:スタートアップ、アクセラレーター、ベンチャーキャピタル等
○方法:オンライン
○回答:316社

アンケート調査は、facebookのスタートアップグループへの投稿、Twitterでの周知、メールや電話での個別の協力依頼など、様々なルートや手段を駆使し、多くの方に拡散していただいたおかげで、316社から回答を得ることができました。ご協力いただきありがとうございました。

これらの調査結果について、主なものをご紹介します。

■都庁との協働にあたっての課題や要望

ヒアリングでの主な意見

○VC、中小企業、大手企業など複数の関係者が連携する事業があると、ビジネスの可能性が広がるのでありがたい。
入札資格の格付けは、社歴の浅いSUの参入にハードルとなる。キングサーモンプロジェクトのような柔軟な取組を増やすべきだと思う。

アンケート結果

○東京都との協働による実績づくり、社会課題解決、認知度向上を期待
○資金調達支援に加え、都でのサービス等の導入や実証場所の提供を求める声が多い

■制度や仕組みの課題

ヒアリングでの主な意見

○紙の手続ではなく電子申請、電子押印などを進めてほしい。
○スタートアップの製品やサービスの革新性や技術力を適切に評価するプロセスが重要だ。

アンケート結果

○協働する上で、相談役となる職員がいない情報入手、契約手続の煩雑さが課題
○協働に向けた都の担当者の熱意、知識・経験、レスポンスが重要

■情報発信の課題

ヒアリングでの主な意見

○情報が事業毎にバラバラに発信されているから、情報を探す手間がかかる。施策や事業についてまとまった情報がないので、カオス・マップなどがあれば良い。
○知人やアクセラ等からの口コミ、TwitterやFacebookのグループなどから情報を入手している。

アンケート結果

○東京都の情報発信の認知度は低い
○スタートアップコミュニティへの情報発信は重要

すべての調査結果は、「東京都オープンデータ・カタログサイト」で公開しています。


スタートアップ協働戦略の取りまとめ


耳の痛い調査結果でしたが、まずはしっかりと受け止めることが大切です。

調査結果を基に、プロジェクトチームのメンバーで戦略案を議論し、次の3つの取組の方向性をまとめました。

【戦略1】様々な協働の取組を更に推進

戦略1では、「様々な協働の取組を更に推進」を掲げています。

「UPGRADE with TOKYO」(都政課題解決に向けたスタートアップピッチイベント)や、「キングサーモンプロジェクト」(先端事業普及モデル創出事業)といった既存事業を徹底活用することに加え、都立大学との共同研究や大学保有の施設の活用などを進めることで、都庁とスタートアップとの協働の実践を積み重ねていきます。

【戦略2】協働の取組を支える仕組みを構築

戦略2では、「協働の取組を支える仕組みを構築」を掲げています。

業務プロセスの見直し(BPR)とワークフローのデジタル化に取り組むことで、契約・支出事務の効率化を進めます。また、政策目的随意契約※の活用を進めるほか、スタートアップ支援拠点への職員派遣や意欲ある職員の庁内公募を実施することで、契約や人事面からも協働の取組を支えていきます

※地方自治法施行令第167条の2第1項第4号に基づき、新商品の生産又は新役務の提供により、新たな事業分野の開拓を図る者として知事の認定を受けた者から随意契約により調達する仕組み

なお、政策目的随意契約の活用促進など、都庁の調達に関する改革については、契約・会計制度見直しワーキンググループにおいて「現場や時代のニーズを起点にした調達に関する改革の実施方針」として「スタートアップ協働戦略v.1.0」と同日に方針をとりまとめました。こちらもぜひご参照ください。

現場や時代のニーズを起点にした調達に関する改革の実施方針

【戦略3】スタートアップと都職員とのコミュニケーションを深化

戦略3では、「スタートアップと都職員とのコミュニケーションを深化」を掲げています。

今回の調査によって、都のスタートアップ施策の情報発信がバラバラ、情報がスタートアップに届いていないため認知度が低いなどの問題が明らかになりました。

そこで、都のスタートアップ施策を象徴するワンブランドネームを作り、ワンブランドでのスタートアップ施策の情報発信を進めるとともに、スタートアップと都職員とのコミュニティプラットフォームの構築や、スタートアップとの人事交流等を通じて、コミュニケーションを深化していきます。

議論の過程では、戦略の中身だけでなく、見る人に「伝わりやすい」よう、デザインについても何度も検討が行われました。

たとえば、都庁のスタートアップ関連施策支援メニューは、「東京都の施策はわかりにくい」というアンケート調査のご意見を踏まえ、「カオスマップ」として見やすい形でまとめなおしました。

東京都のスタートアップ関連施策カオスマップ

こうした議論を経て、2022年2月4日に「スタートアップ協働戦略v.1.0」を取りまとめ、公表しました。


今後の展開


今回の戦略ver.1.0をたたき台として、未来を共創するパートナーであるスタートアップの皆様との対話を進め、デザイン思考でその成果を反映させながら、共創の取組として戦略をアップグレードしていきたいと考えています。

ぜひ、「スタートアップ協働戦略v.1.0」をお読みいただき、多くのスタートアップのみなさまからご意見を頂けると幸いです。

スタートアップ協働戦略v.1.0

【ご意見募集】
「スタートアップ協働戦略v.1.0」に関するご意見・ご感想は、こちらのフォームより受け付けております。スタートアップ関連のみなさまのご意見をぜひお寄せください。

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(追記)スタートアップ戦略はその後も進化しています。