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実践、防災対策DX:建設局河川部編

都内の中小河川では、集中豪雨などで急激に水位が上昇することがあります。中小河川を管理している東京都建設局では、河川の状況を分かりやすく提供し、都民の迅速な避難行動につなげるため、本年6月1日より、リアルタイムでYouTubeを活用した動画配信を開始しました。

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今回、建設局河川部で水防態勢の司令塔を担う「防災対策室」で水防災情報発信業務に携わる矢島さんと野地さんに、防災DXについて話をうかがいました。

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まずは自己紹介

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―――お二人はいま、どんな仕事をしていますか?

【矢島】私は電気職で、本年5月に再構築が完了した東京都水防災総合情報システムの保守、維持管理の業務を行っています。また、河川監視カメラの設計や来年度さらなる情報発信の強化に向けた検討を進めています。

【野地】私は土木職で、河川監視カメラ、水位計の増設に向けて、工事の計画、設計、施工監督を行っています。また、普段の水防業務に加え、災害復旧事業の担当として、被災時にも備えております。


河川の氾濫から都民を守るために

―――河川の氾濫の対策として河川部ではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

【野地】ハード対策として、洪水に備えて、川幅を広げる、川床を掘り下げる工事をしています。また、河川近傍の地下などに「調節池」を作り、一時的に洪水を貯留することで河川の氾濫に備えています。

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―――被害を軽減するためには、ハードの整備とあわせて情報発信も重要です。「シン・トセイ」戦略では、水防災に関する情報発信の取組が建設局の「リーディングプロジェクト」として選定されています。このDXの取組について教えてください。

【矢島】台風や大雨など自然災害が激甚化する中、デジタル技術を活用し、都民の避難行動につなげるべく、水防災情報を発信しています。

これまで、「東京都水防災総合情報システム」により、インターネット上で雨量・河川水位情報、河川監視映像、洪水予報など水防に関する情報をリアルタイムに提供してきました。また、水防に関する情報はTwitterでも提供しています。

本年6月から、YouTubeを活用し、河川監視カメラのリアリティのある動画をリアルタイムに提供しています。

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防災DXのきっかけ――令和元年台風19号(東日本台風)

―――河川部で防災DXの検討をはじめたきっかけを教えてください。

【矢島】最初は「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」等の災害で、防災事業の緊急総点検を実施した結果、情報発信力の強化が必要とされ、カメラの設置拡大などを検討し始めました。

【野地】そのような中、直接的なきっかけとなったのが「令和元年台風19号(東日本台風)」です。令和元年東日本台風では、多摩地域を中心に7つの河川で溢水(河川から水があふれること)が発生し、東京でも多くの被害が出ました。

【矢島】当時、江東治水事務所にいて、旧中川の水を、排水機場により荒川に排水する作業に関わっていましたが、河川氾濫にはなりませんでしたが、荒川の水位があんなに上がったのは、初めて見ました

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YouTubeでのリアルタイム配信について

―――令和元年東日本台風(台風19号)を受けて、どのような背景からYouTubeでの映像配信を始めたのでしょうか?

【矢島】元々、東京都水防災総合防災システムでは、5分更新の静止画を公開していました。ただ、都内の河川では、集中豪雨などにより急激に水位が上昇することがあるため、静止画では、その臨場感や切迫感が伝わりにくい状況が課題でした。

折しも令和元年東日本台風の被災状況をうけ、取り組みを加速させより一層の情報提供を行うべく、24時間365日のライブ動画の配信について検討をはじめました。

動画の配信は、静止画の配信に比べ、サーバー機器の要求仕様が跳ね上がります。配信プラットフォームを都が独自に用意した場合、莫大なコストと期間を要するため、水防災総合情報システムのような東京都のホームページからの配信ではなく、都民の皆様にもなじみのある民間のプラットフォーム「YouTube」を活用することにしました。

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これまで行政の水防災現場で利用されていた河川監視カメラの映像を都民の皆様にも「オープン」な形で提供しています。

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河川監視カメラの設置について

―――都民向けにリアルタイムの映像を発信するためには、都民にとって有益な場所にカメラを設置する必要があります。YouTubeでのリアルタイム配信を支える監視カメラですが、どこに設置されているのでしょうか?

【野地】令和元年東日本台風で溢水被害のあった南浅川など7河川を含め、2020年3月には25箇所だった監視カメラの公開を積極的に進め、本年9月末では、監視カメラの公開を3倍以上の78箇所とする予定です。

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―――カメラ設置にあたって苦労などありますか?

【野地】カメラの設置のため、現場の建設事務所と連携をとりながら、どこの場所であれば増水の状況が的確にとらえられるか、どの用地であれば利用できるかなどを考えながら、私も自ら現場で確認し、電気事業者や通信事業者等とも調整しています

河川監視カメラ設置に関する設計、施工については、用地の確保カメラ柱基礎の構築電気・通信の引込など、土木と電気の総合的な知識等を必要とします。また、工事の設計、施工監督を行うために、都内全域の現場調査施工の立会いなど、相当な時間や労力を必要とします。

これらの業務を、河川部防災課の土木・設備の職員をはじめ、各建設事務所の担当者や電気事業者、通信事業者のご協力を得ることで、工事の完了等を迎えることができ、設置拡大に向けて着実に成果を挙げております。

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令和3年8月の大雨について

―――今年、この8月の豪雨の際、東京都水防チャンネルへのアクセスが急激に増えたと聞きます。その際のエピソードなどあれば教えてください。

【矢島】アクセス数が一番多かったのは、8月15日の朝方でした。大雨で野川、境川、目黒川の水位が上昇するにつれて、アクセス数がどんどん伸びてきていました。その結果、6月開始以降の累積公開数の約1.7倍となる約17万アクセスを1日で記録しました。

【野地】この大雨による東京での大きな被害はありませんでしたが、YouTubeで公開していた動画に対して都民のみなさまから好意的な反響があり、「河川監視カメラの設置をどんどん進めてください」など応援のお言葉をいただきました。

今後も、都内全域の都が管理する河川を対象に、過去の被害状況や地元区市町村の要望等を踏まえて、設置拡大を進めていきます。

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今後の展望

―――今後の河川監視と水防災の展望を教えてください。

【矢島】東京都水防災総合防災システムとしては、ホームページをより見やすく使いやすくするため、一つの画面で必要な情報を全て確認できるような、情報の統合化等、利用者の視点に立ったより使いやすいシステムへの改善を行います。YouTubeでの発信と合わせて、水防災情報の発信を強化していきます。

このほか、今後、民間の情報提供事業者のアプリなどへの都の雨量計や水位計などの情報の提供や、過去の災害情報などのデータのアーカイブ化も検討しています。

【野地】河川監視カメラについても引き続き、設置拡大を行っていきます。大雨の際に河川に近づくことは、大変危険です。パソコンやスマートフォンで、リアルタイムの水位や映像を都民の皆様が確認できるようにすることで、一人でも多くの方の迅速な避難行動の手助けになれば幸いです。

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―――建設局河川部矢島さん、野地さん、ありがとうございました。
これから秋の台風シーズンです。ぜひ、今回ご紹介した水防災総合情報システムやYouTubeをご活用いただき、防災にお役立てください。
なお、河川監視カメラの映像は先日noteで紹介した「デジタルツイン」の3Dビューア上でもリアルタイムで見ることができます。ぜひご覧ください。
「シン・トセイ」戦略では、「防災対策のDX」というテーマで、今回ご紹介した建設局河川部の取組のほか、高潮等への防災力向上などにも取り組んでいます。これからも東京都の防災対策DXの取組にご注目ください。
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