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行政がオープンデータ公開に取り組むべき理由 ― 「都庁デジタルセミナー」報告

DX推進の担い手を幅広く育成

都庁のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向け、民間から積極的にデジタル人材を登用していることは先日の記事でお伝えしましたが、東京都が目指す「バーチャル都庁構想」の実現には、デジタル人材のみならず、幅広い職員がデジタルスキルを身につけることが不可欠です。

そこで、都庁のDX推進を担うコア人材を育成することを目的に、都政の構造改革コア・プロジェクトの1つ「DX推進体制構築プロジェクト」の施策として、「都庁デジタルセミナー」を企画しました。

このセミナーでは、デジタル施策に従事する職員や関心のある職員、各局の構造改革担当の職員を対象に、シビックテックやデジタルサービスの仕組みや概念、用語などについて、その道のプロフェッショナルから講義を受け、デジタル化に向け必要となる基礎的な知識を効果的に習得することを目指しています。

12月2日に第1回が開催され、「オープンデータ」をテーマに、一般社団法人リンクデータの下山紗代子代表理事からお話をいただきました。

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下山代表は長年、国・自治体や市民のオープンデータ活用を支援しており、今年4月からは内閣官房IT室の政府CIO補佐官として、日本のデジタルガバメントの推進を担っています。ここからは、下山代表理事によるセミナーの模様をダイジェストでご紹介していきます。

当日の説明資料はこちら☟

行政データは公共財として公開すべき

オープンデータとは、インターネット等を通じて、誰もが無償で利用でき、営利・非営利目的を問わず二次利用可能で、機械判読に適した形で公開されているデータのこと。

13年にG8サミットで合意された「オープンデータ憲章」では、「税金を使って作られたデータはすべて公共財として公開すべきである」という考えを採用するなど、行政にとっては無視できないキーワードとなっています。

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「日本でも16年に『官民データ活用推進基本法』が施行され、国と自治体はオープンデータの公開に取り組むことが義務付けられています」と下山代表は説明します。

そうしたオープンデータの意義について、下山代表は、(1)官民協働による社会課題解決や経済活性化、(2)行政の高度化・効率化、(3)透明性・信頼性の向上を挙げます。順を追って見ていきましょう。

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公共サービスを民間に任せていく

まずは官民協働の必要性です。

これまでは行政が公共サービス運営の主体でしたが、今後多数の自治体で税収の減少が見込まれる中で、行政のみでは、今までのような公共サービスは維持できなくなります。では、どうすればいいのでしょうか。下山代表は「行政が保有する情報をオープンデータにして民間に提供し、民間が得意な公共サービスは任せていくことが望ましい」と話します。

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以前ご紹介したように、東京都でも民間団体と連携し、「新型コロナウイルス感染症対策サイト」など、オープンデータを活用した公共サービスを提供しています。対策サイトは3月にリリース後、すぐにオープンソースとして公開したことで、各都道府県の最新感染動向を伝える「新型コロナ対策サイト」が都道府県や民間団体等によって立ち上がりました。

セミナー3

一方で、11月8日時点でコロナ感染者関連データをオープンデータ化している都道府県は57.4%にとどまっています。また、11月8日時点で感染症対策サイトを24時間以内に更新できているかどうかについて調べたところ、都道府県がオープンデータに対応している地域の対策サイトでは、27件中25件が実施。オープンデータ未対応の場合は、20件中5件となっており、差は歴然としています。

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「特にコロナ禍のような危機においては、行政だけで何とかしようとしても限界があります。危機に対応する体制を作るためにも、国や自治体はデータを公開し、官民という組織を超えて得意分野を分担できる社会を作ることが急務です」と下山代表は繰り返し強調します。

また、行政が公開したオープンデータが民間企業でビジネスに活用されることで、経済活性化にもつながります。

300時間の業務効率化を実現した静岡市

2つ目は行政の高度化・効率化です。

オープンデータ化する作業の分、仕事が増えるのでは?と思われる方も多いでしょう。確かに、機械判読に適した形式にデータを整えるなど、事前の準備は必要です。けれども、「業務フロー全体を見ていくと、かえって効率化できる部分は多いです」と下山代表は力を込めます。

例えば、静岡市は、これまで情報公開請求件数の多かった食品衛生許可に関するデータを、15年からオープンデータとして公開しています。これによって16年の情報公開請求件数は14年と比較して年間100件以上も減り、約300時間の業務時間削減につながりました。

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また、オープンデータ活用の先進的な自治体である福井県鯖江市では、12年11月にリアルタイムでバスの動きが確認できるサービス「鯖江バスモニター」が市民の手によって作成されました。

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それまで、鯖江市営バスは降雪などの影響で遅延が多く、市民からの苦情が相次いでいました。これを解消するため、バスの位置情報などをオープンデータ化し、スマートフォンやPCでバスの運行状況を確認できる地図アプリを市民が開発。急なバスの遅れも把握することができ、市民からの苦情は減少したそうです。

オープンデータは組織の信頼につながる

最後は、オープンデータによる行政の透明性や信頼の向上です。

オープンデータとは、単に行政情報を公開するだけの話ではなく、組織内でデータを適切に管理できているかを示す役割も果たしています。「オープンデータ化にすることを前提にすると、(情報隠蔽など)組織内での不正の抑止力にもなるのです」と下山代表は説明します。

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また、下山代表理事の講演終了後には、構造改革推進チームのサブリーダーである宮坂副知事から、オープンデータ化を推進するよう呼びかけがありました。

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宮坂副知事からの呼びかけ(要約)
情報を餅(出来上がり品)ではなく米(材料)で提供することによって、外部の方が創意工夫して自分にあった料理(サービス)を作ってくれる。下山代表理事のこの話に尽きますが、オープンデータを餅ではなく米のカタチで提供することで、外部の方が新たなサービスを生み出したり、分かりやすいグラフを使って情報発信してくれたりします。リソースの限られる行政だからこそ、データをどんどん公開し外部の力を活用していくべきだと思います。
行政の透明性を増して都民の信頼を得るためにも、オープンデータは不可欠です。人が読むことを前提とした文書による情報公開だけでなく、現代社会最大の発明であるコンピュータ-が読めるデータでの情報提供が大事です。「コンプライ・オア・エクスプレイン」(遵守せよ。さもなくば説明せよ)という言葉に表されるように、私達は基準に則って原則データを出す。出せない時は理由を説明する、ということが行政の透明性の確保につながります。
良いデータを提供するために各局で必要な取組を進めてもらうよう、是非皆さんにお願いします。

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当日は会場での受講に加え、100名を超える職員がWEB上で受講しました

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12月23日に予定している第2回の都庁デジタルセミナーでは、オープンソースをテーマに、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの関治之代表理事に登壇いただきます。

職員1人1人のデジタルに関するスキルアップのため、人材育成についても強力に推進していきます。今後も都庁のデジタル化にぜひご注目ください!

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