コロナ下でも積極採用。女性入職者も増加中「建設業のリアル」
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コロナ下でも積極採用。女性入職者も増加中「建設業のリアル」

2021年3月卒の新卒高卒者に対する求人数が激減するなか、産業として前年並みの求人数を維持した建設業界。外国人の入国制限が続き、人手不足は加速ている。新3K(給与が良い、休暇が取れる、希望が持てる)を掲げる建設業界の今と新卒高卒就職のその後に迫る。

取材・文◎澤田晃宏

「欲がないから、楽な仕事を探そうとする」

4月、ベトナム人のヴォ・タン・ダットさん(31歳)は都内の建設会社で働き始めた。

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ダットさんは2018年12月にとび職の技能実習生として来日。佐賀県内の建設会社で働くも、3年目で寮費を引いた手取り給与は約8万円だった。

「未経験の日本人に仕事を教えるまで技術は向上していましたが、3年経っても給料が上がりませんでした。現場で一緒になった別の会社で働く実習生に話を聞くと、手取りで12万円以上は貰っていて、自分の給料は低過ぎると思いました」

会社と給料の交渉をしても、話は先送りにされるばかり。ダットさんは20年10月に失踪し、大阪に住む友人を頼った。失踪後は在日ベトナム人ブローカーなどを介し、解体工事現場などの仕事に就いたが、仕事は安定せず、ベトナム人の支援団体を頼った。

目下、コロナ下で解雇されたり、帰国が困難だったりする技能実習生に対し、政府は最大1年の在留を認め、特定の14業種での就労を認めている。ダットさんのような失踪した元技能実習生も、帰国準備のために最大6か月の在留が認められ、週28時間以内の就労が可能だ。

ダットさんを保護し、就労支援をしたNPO法人日越ともいき支援会(東京都港区)代表の吉水慈豊さんはこう話す。

「コロナ下で外国人の入国制限が続くなか、人手不足の現場から『週28時間制限のある人でもいいから、紹介して欲しい』という問い合せが後を絶ちません」

吉水代表によれば、問い合わせが入る業種のなかで、最も多い業種の一つが建設業だという。ダットさんを受け入れた建設会社の社長(43歳)は、人手不足の現状をこう話した。

「ハローワークに求人を出しても電話は1本も鳴らず、有料求人媒体で募集をかけても、数件の問合せはあるが、採用につながってもすぐに辞めていく。いい車に乗りたい、お金を稼ぎたいと、昔は親方の姿を見て若者が入ってきた。5年ほど前から若者の気質が変わっているように思う。ずっとスマホをいじっていて、お金を稼ぎたいという欲もない。欲がないから、楽な仕事を探そうとする」

入社3年以内の離職率は45・8%

建設業界は目下、若手人材の確保が喫緊の課題だ。建設業で働く労働者は現場の管理・監督を行う「技術職」と、現場作業を行う「技能職」に分かれる。特に技能職は60歳以上が全体の26%を占める一方、29歳以下の労働者が11・6%と、若手人材の確保が急務だ。

労働者数

コロナの影響で21年3月卒の新卒高校生に対する求人数が前年同期比で約2割減少するなか、建設業は前年並みだ。若手の技能労働者の確保を外国人技能実習生に頼ってきたが、コロナ下で依然として外国人の出入国に大幅な制限がかかり、現場での人手不足はより悪化している。本誌記事で触れたが、建設業界は普通科の高校生へのアプローチを始めるなど、若手の人材確保に本腰を入れ始めている。

いったい、なぜ、建設業界に人が集まらないのか。
厚生労働省が建設会社1122社を対象に行った調査によれば、「企業が考える若年技能者が定着しない理由」のトップは「作業がきつい」(42・7%)だ。

建設業の年間の労働時間は年間300時間以上と長く、入社3年以内の離職率は45・8%と、全産業平均39・5%を上回る。他産業では週休2日が当たり前となっているが、休日の少なさも若者に敬遠される理由になっている。3K(きつい、きたない、危険)職場のイメージが、ぬぐい切れない。

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こうした状況に対し、建設業界が何も対策を打ってこなかったわけではない。国は新3K(給与が良い、休暇が取れる、希望がもてる)を掲げ、週休二日を定着させる取り組みを進め、建設現場の安全管理徹底し、建設業における災害死者数は09年の371人から、19年には269人と着実に減少している。

給与も職種や企業により異なるが、建設業全体で10年前の500万円から20年には573万円に増加。現場作業員の平均日当も同期間で約1万3100円から、2万200円に大幅アップしている。

将来的なキャリアが見えないことも建設業界の大きな課題の一つであったが、19年4月から「建設キャリアアップシステム」の導入を開始。技能者に「建設キャリアアップカード」を交付し、労働者の資格や社会保険の加入状況、現場の就業履歴を蓄積し、それが待遇に活かされる仕組みづくりを始めている。

女性の入職者は増加中

人手不足に悩む建設業界だが、明るい兆しもある。
国交省と建設業界は14年、建設現場のトイレや更衣室等の整備などの具体策などを盛り込んだ「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定。広報活動の成果もあり、建設業界の女性入職者は14年の9・8万人から19年には13・4万人にまで増えた。肉体労働のイメージが強い建設業界だが、技能職として活躍する女性も増えている。

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湯澤奈々実さん(25歳)は14年、茨城県立大洗高校卒業後、鉄筋工事業の大平組(茨城県水戸市)に入社した。建設業界は第一希望だったという。

「父が瓦屋根工事業を営んでいて、父の働く姿に憧れていました。体を動かすことが好きで、卒業後は建設関係の仕事に就きたいと思っていました」

だが、高3で進路を決める段階になっても、担任や進路指導担当教諭に、建設業で働きたいと言い出せなかったという。

「建設に行きたいというと反対されるんじゃないかとか、男友達にもからかわれるのじゃないかという不安がありました」

就職希望の意思を見せるため、先生に勧められたホテルの受付業務の会社見学に足を運んだりもしたが、建設業への思いは変わらなかった。

当社は父親の会社で働きたいと考え、母親も「それならいいよ」と建設業への就職を認めてくれたが、父親は娘と働くことを認めなかった。父方の母親からは「女の子のする仕事じゃない」と大反対された。

進路が決まらないまま、冬休み前に就職イベントに参加した。そのイベントに企業として参加していた会社の一つが大平組だった。鉄筋工がどんな仕事かわからなかったが、すでに社内で女性が働いているという言葉を聞いて、即決した。

「冬休みに現場に見学に行き、女性社員の人が働く様子をずっと見ていました。私にもできそうだと、すぐに応募しました」

冬休みが明けると、大平組から内定通知が届いていた。担任からは「建設で本当に大丈夫なのか」と、心配された。

「友人からも『休み少ないし、仕事つらいし、続かないよ』と大反対でした。だけど、そのときの友人の顔を思い出しても、新卒で入った会社で今も働いているのは私くらいです」

25歳で年収450万円。やりがいも大きい

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鉄筋工は、コンクリート建造物の骨組みとなる鉄筋を建造物の構造に従って、組み立てる仕事だ。ビルや橋梁、トンネル、高速道路など、あらゆる建造物の土台になっている。

重量物を扱う仕事だが、女性でも大丈夫なのだろうか。

「鉄筋を運ぶ作業は全体のごく一部で、一人で運ぶわけじゃない。女性であることのハンデは感じたことがありません」

建設業界に関心のある女子高生に向けたメッセージを求めると、こんな答えが返ってきた。

「男社会に飛び込む不安があるかもしれませんが、トイレや更衣室が準備されるなど、確実に女性が働きやすい職場環境になっています。建造物が完成すると鉄筋は見えませんが、それでも地図に残る仕事をしているとうやりがいを感じます」

湯澤さんは21年、鉄筋工事施工に関する技術や知識を認定する国家資格「鉄筋施工1級技能士」にも合格。資格給も含め、年収は約450万円。今後の目標を尋ねると、

「まだ一人で現場を仕切る自信はありませんが、現場を任せられるだけの知識と責任感を持った存在になりたいです」

本音は外国人ではなく高校生を採用したい

湯澤さんと同期入社の板橋公平さん(25歳)は、勉強は苦手で、高校に進学するつもりもなかったが、就職に強いという理由で茨城県立水戸農業高校に進学した。高校3年で就職活動が始まり、学校に届いた求人票のなかから、最も給料が高かったという理由で大平組を選んだ。

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入社時に比べ、月の手取り給与は10万円以上あがった。ボーナスも年間2か月あり、収入の不安はない。21歳のときには結婚し、昨年7月には子どもも生まれた。

高校時代の友人の顔を10人思い出したとき、新卒で入社した会社に今も働き続けるのは自分だけだと板橋さんは言う。

「会社見学や面接では表のいい面しか見えない。だから、自分と合わないと思ったら、辞めることも一つの考えだと思う」

多くの友人が離職する一方、板橋さんが今も仕事を続けるのは、今の仕事への誇りだ。

「鉄筋コンクリートの建造物には必ず鉄筋が入っていますが、完成すると見えなくなります。だけど、それがいいんです。型枠もトビの足場も完成すると撤去されますが、鉄筋はなくなりませんから」

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地域のインフラを守っている自負もある。取材日の現場は、水戸市内を流れる那珂川の水門工事の現場だった。19年に台風19号が直撃した際は、水戸市内に浸水被害が広がった。

コロナ下で、日常生活を維持するための、なくてはならない労働者を「エッセンシャルワーカー」と呼ぶ動きが広まったが、建設業も生活基盤を守るエッセンシャルワークと言えよう。

高度経済成長期から50年以上が経ち、道路橋やトンネルなど、地域インフラのメンテナンスの重要性は高まる。その点、建設業が担う役割や需要はますます大きくなる。

大平智彦社長(50歳)に単刀直入に聞いてみた。なぜ、建設業界は人気がないのか。

「3Kのイメージが強く、外の仕事が多いため、どうしても土日休みとはいかない。ただ、世の中の働き方や若者の変化に、建設業も合わせていかないといけません。弊社でも週休二日制にしたり、管理職に対する若者との付き合い方に関する講習を開いたり、働きやすい環境づくりに取り組んでいます」

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現在、大平組の従業員は51人。そのうち、9名がベトナム人労働者だ。コロナの影響で他産業が求人数を減らすなか、昨年度は5名の新卒採用を予定したが、1名しか採用できなかった。大平社長はこう話す。

「本音は日本の高校生を採用したい。建設は、日本人の生活を支える、なくてはならない職業です」

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株式会社大平組
【創立】1985年1月 【代表者】大平智彦
【本社所在地】茨城県水戸市開江町1590-4
1985年創立。本社は、茨城県水戸市。従業員は51人(うち女性社員3人)。創業以来、鉄筋組立、鉄筋加工、ユニット筋製作など、鉄筋工事全般に関わる業務を行っている。一般建築・土木工事から特殊土木・橋梁工事全般まで、様々な施工実績がある。13年度より新卒高卒の採用を開始。本年度も4名を採用予定。独身寮を完備し、県外からの応募も受け付ける

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