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1999 働く姿勢(株式会社藤大30年史)

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 ◆ 働く姿勢(1997-1999)

 ハルコが自分の意志で事業をすると決めてから、不満や愚痴は大幅に減った。しかし、だからといって目の前の課題がなくなったわけではない。設備投資の借入金の返済がたくさんある。

「……私も給料ほしい」

 パートさんや内職さんの給料を封筒に納めながら、ハルコはたまに弱気になった。返済で精一杯、儲けを考える暇はなかった。(ただし、覚悟は決めていたので悲壮感はなかった)

 半導体に関わる仕事は、時代の変化をもろに受ける。せっかく設備投資した加工ラインの事業が収縮する。社会情勢によって流通が変動する。そのたびにハルコは対応を余儀なくされた。

 それでも事業がどうにか維持できたのは、夫が本業から人をつないでくれたり、取引先が新しい案件を任せてくれたりしたからだ。経験も人脈も浅いハルコには、人に助けてもらって全力で期待に応えるしか選択肢がなかった。

「精一杯がんばります。やらせてください」
 人からの紹介で何より大切なのは、熱意だ。与えてもらうことを待つのではなく、自分から積極的に関わりに行った。そんな態度が評価されて、「この仕事は藤田さんところに」と仕事をまわしてくれる人たちがいた。
 問題は、仕事をいただいた「後」である。

「そんなに仕事もろてきて、誰がやるんですか。うちらは定時で帰りますよ」
現場で働くのはハルコだけではない。全員が熱意と感謝で働いているわけでもない。決められた時間で仕事ができればいい人たちからすれば、仕事が増えることは負担でしかなかった。

 世間では「仕事だから」と押し切るところなのかもしれない。しかしハルコはそれが苦手だった。パートで働いている人も、人の縁で働きに来てくれている人たちなのだ。遠慮が入って厳しいことが言えず、立場が逆転することもあった。

「あんなキツイ言い方せんでもええのになあ」
 母(マリコ)からはよくフォローされた。少しずつ対応を考えることで、ハルコは勇気を身につけていった。そうしてお客さんの期待に応える使命感が強まっていった。

「仕事が増えるということは、お客さんに喜んでもらえてるということやねん」
「うちらは知識や技術でよそさんより未熟やから、熱意でがんばらんとあかんねん」
「手が空いた時だけでもええから、もうちょっと手伝ってくれへんか」

 従業員に対しても、ハルコは熱意をもって頼るしかできなかった。仕事のほとんどが、人にいてもらわないとできないことなのだ。その姿勢は、確かに取引先にも従業員にも伝わった。

「……わかりました。必要な時間だけ抜けさせてもらって、また戻ってきます」


↓つづく↓

(制作元:じゅくちょう)


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