見出し画像

朝井 リョウ 『ままならないから私とあなた』

中学2年の夏、クラス対抗の合唱コンクールに向けて音楽の時間に練習をしていた。しかし女子に比べて地味目の男子が多い我がクラスは、例によって大きい声で歌うのが恥ずかしいという理由で誰一人声を出していなかった。私も含めて。

音楽の先生が「なんで全然歌わないの!」「こんなんじゃ優勝できないよ!」というものの、それくらいの年代は怒られたからってはいわかりましたと歌うわけもなく、みんなただただ下を向いて床の汚れを凝視しているだけだった。

するとその先生が

「合唱くらい大きな声で歌えなきゃ、この先の人生真っ暗だよ!」

別に特別正義感があったわけじゃないけど、何を思ったかこの言葉にむかっときてしまった私は、次の合唱の時にとにかく大きな声で歌った。これで良いのだろう、きっと「素晴らしい!みんなも見習って歌いましょう!」と褒められ、周りの友達も一人、二人と歌い出し、最終的には最高の合唱が出来上がり、そのまま練習がうまく進み、その時の俺の勇気にみんな鼓舞されクラスは一丸に。合唱コンクールでは見事優勝、最優秀生徒はもちろん私。音楽の先生にも「こんなに素晴らしい合唱は今まで味わったことがないわ!」と褒められ未来永劫語り継がれる合唱コンクールになりましたとさ。

となると思っていたら

「音程外れてる!大きい声出せば良いってもんじゃない!」

と怒られた。英雄気取って目立とうとした結果がこれだ。この人の言うことを聞いていたら人生真っ暗だと思って、そのあとはこの先生の言うことを聞くのをやめた。もちろん合唱コンクールまでクラスはまとまらず、なんとも言えない合唱コンクールになった。

朝井 リョウ 『ままならないから私とあなた』

「レンタル世界」「ままらならいから私とあなた」の2本からなるこの本。

「昔の学校には、クーラーなんてなかった」とか「昔は時間を決めて待ち合わせしてたんだよ!待ってる間のドキドキが良かった」などの昔は良かった話されても、「うーん、そうなんだ」くらいしか感想が持てなかった。だって今は違うからなーと。

だからと言ってその違和感のようなもの突き詰めていくとこうなりますけど、と提示された感覚。

正論は正しい。でも面白いかと言われるとそうでもない気もする。

それが正しいか正しくないかはわからないけど、私は主人公の気持ちが痛いほどよくわかったので、ままならない方を選ぶかなと思った。辛いことが起きる中で、主人公の優しい目線が心に刺さった。

読んでいただきありがとうございます。