見出し画像

【東京都(東京都庁)Ⅰ類A】 事務 専門記述試験 過去問解説 民事法(令和6年~平成21年)

割引あり

このコンテンツでは、東京都1類Aの専門記述試験「民事法」の過去問解説を詳しくご提供いたします。東京都1類Aは情報が非常に限られている試験ですが、本コンテンツでは他にはない充実した解説が含まれており、安心して試験対策を進めることができます。価格は少々お高めですが、その価値は十分にあります。市場には出回っていない貴重な情報をお届けしますので、ぜひご活用ください。


令和6年度

問題

【問1】
 次の文章を読み、〔設問1〕及び〔設問2〕に答えよ。
 不動産業を営む個人事業主のAは、事業上の資金として緊急に1億円が必要となった。そこで、まずAは、2022年2月1日、同業者で知人のBとの間で、所有する甲土地を時価5,000万円でBに対して売却する旨の売買契約(以下「本件売買契約1」という。)を締結した。本件売買契約1において、売買代金は、同月15日までにAの指定する銀行口座(以下「本件口座」という。)へBが全額の払込みをし、Aがこの払込みを確認後、3日以内にAからBへの甲土地に係る所有権移転登記手続がなされる旨がそれぞれ合意されていた。
 次に、Aは、2022年2月2日、同業者で知人のCに対して甲土地を担保として5,000万円を借り受けたい旨を相談したところ、Cは、甲土地にCのための譲渡担保権を設定することを条件に5,000万円をAに貸し付けることに同意した。この結果、同日、AはCとの間で、Aを借主、Cを貸主、貸付額5,000万円、利息1.0%(年利・単利)、弁済期2023年2月2日とする旨の金銭消費貸借契約(以下「本件金銭消費貸借契約」という。)が書面にて締結され、5,000万円が現金にてCからAへと手渡されるとともに、本件金銭消費貸借契約より生じるAのCに対する一切の債務を担保するため、甲土地につき、Aを譲渡担保権設定者、Cを譲渡担保権者とする譲渡担保権設定契約が締結され、併せて、2022年2月2日付けで、AからCに対する、甲土地に係る譲渡担保を登記原因とした所有権移転登記が経由された。
 もっとも、C自身も事業の資金繰りに苦慮していたこともあり、甲土地に係る所有権の登記名義人がCであることを利用して、資金を調達することを考えていた。
このため、2022年2月10日、Cは自身の顧客であり不動産投資用の土地を探していたDに対して、甲土地を5,500万円で売却する旨の提案をしたところ、Dとしては時価よりもやや高額であるとは思いつつ、甲土地の収益性を考慮した将来の値上がりの可能性も踏まえ、この提案を受け入れることとした。そこで、翌11日、Cの事務所において、Cは、Dとの間で、甲土地を5,500万円でDに対して売却する旨の売買契約(以下「本件売買契約2」という。)を締結し、その場で、DからCへ5,500万円が現金にて手渡されるとともに、同日付で、CからDに対する、甲土地に係る売買を登記原因とした所有権移転登記が経由された。なお、本件売買契約2を締結する際、Dは、甲土地の所有権に係る登記名義人がCとなっていることを確認し、Cが甲土地の所有権者であることを信じつつも、AからCへの甲土地に係る
所有権移転登記の登記原因が「譲渡担保」であることに気付いていた。しかし、「譲渡担保」が登記原因となっている点につき、特段、Cに尋ねることはしなかった。
2022年2月14日、Bは、本件売買契約1に基づき、5,000万円を本件口座へ払込み、その旨を書面にてAに通知し、この通知は翌15日にAに到達した。しかし、同月20日になっても、Aから何らの応答もないことに不審を抱いたBはAの事務所を訪ねたところ、Aは不在であり、それどころか、行方不明になっていることが判明した。慌てたBは、甲土地につき調査したところ、2022年2月11日付で、Dを所有権者とする旨の登記がなされていることを気付くに至った。
〔設問1〕
Bは、甲土地の所有権に係る登記名義人をBとするべく、Dを相手取って訴訟を提起しようと考えている。いかなる請求原因に基づく、どのような請求が可能か。当該請求の当否について、判例の趣旨に照らし、D側のあり得る反論も踏まえて答えよ。
 なお、請求の日は「2022年2月21日」とする。
〔設問2〕
〔設問1〕において、請求の日を「2023年2月5日」とした場合、結論及びその法的根拠は変わるか。理由を付して答えよ。

解答

【設問1の解答】

1. 請求原因に基づく請求

BがDを相手取って訴訟を提起する場合、考えられる請求原因は以下の通りである:

  • ① 所有権移転登記請求

    • 請求原因: Bは、2022年2月1日にAとの間で甲土地の売買契約(本件売買契約1)を締結し、売買代金5,000万円を2022年2月14日に本件口座へ払込んだ。このため、Bは所有権移転登記手続きを請求する権利を有する。

    • 請求内容: Dに対して、甲土地の所有権移転登記をB名義に変更することを求める。

2. 判例の趣旨に照らした請求の当否

所有権移転登記請求においては、以下の要件が問題となる:

  • ① 所有権の取得

    • Bは、本件売買契約1に基づき、売買代金を全額払込んでいるため、所有権を取得していると主張できる。

  • ② 先に登記を経由したDの善意性

    • Dは、甲土地の所有権移転登記を受けた際に、登記原因が「譲渡担保」であることに気付いていた。このため、Dが善意の第三者であるかどうかが問題となる。判例においては、善意の第三者であることが所有権の取得に重要な要素となる。

3. D側のあり得る反論

  • ① Cからの正当な取得

    • Dは、Cからの売買契約(本件売買契約2)に基づき、5,500万円を支払い、所有権移転登記を受けているため、正当な所有権者であると主張する可能性がある。

  • ② 善意の第三者

    • Dは、所有権移転登記の際に「譲渡担保」の登記原因に気付いていたものの、Cが所有権者であると信じていたため、善意の第三者であると主張する可能性がある。しかし、この点については、Dの注意義務が問われる。

4. 自己の見解

Bの請求は、Bが売買代金を全額払込んでいること、Aからの所有権移転登記手続きを受ける権利があることから、所有権移転登記請求は正当であると考えられる。しかし、Dが所有権移転登記を受けた際の善意性が問題となるため、Dの反論を考慮しつつ、Bの請求が認められるかどうかは裁判所の判断に委ねられる。


【設問2の解答】

1. 請求の日を「2023年2月5日」とした場合の結論

請求の日を「2023年2月5日」とした場合、結論及びその法的根拠は以下の通りである:

  • 時効の問題

    • 所有権移転登記請求においては、請求権の時効が問題となる。民法上、不動産の所有権移転登記請求権の時効は、権利行使可能時から10年である。2022年2月14日に売買代金が払込まれた場合、2023年2月5日時点では時効は成立していない。

  • 善意の第三者の保護

    • 2022年2月11日にDが所有権移転登記を受けた際の善意性が問題となる。Dが「譲渡担保」の登記原因に気付いていたことから、善意の第三者として保護されるかどうかが裁判所の判断に影響する。

2. 理由

  • 時効の未成立

    • 所有権移転登記請求権の時効が成立していないため、請求自体は有効である。

  • Dの善意性

    • Dが所有権移転登記を受けた際の善意性が問題となる。Dが「譲渡担保」の登記原因に気付いていたことは、善意の第三者としての主張を弱める可能性がある。

3. 自己の見解

請求の日を「2023年2月5日」とした場合、Bの請求は依然として有効であるが、Dの善意性に関する問題が解決されなければ、裁判所の判断がどうなるかは不確定である。Bが売買代金を全額払込んでおり、所有権移転登記手続きを請求する権利があることは変わらないため、Bの請求は認められる可能性が高いと考える。しかし、Dの反論を考慮する必要がある。

ここから先は

75,613字

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?