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100日後に死ぬ父。75日目。

 今朝、みんなで倉庫に行くと、ネズミの赤ちゃんは一匹も居なくなっていた。他の動物に襲われた形跡もなく、紙屑の巣も綺麗なままだったので、たぶんネズミの親が来て回収したのだと思う。もしかするとまた倉庫の方に戻っている可能性もあったので、隅々まで探してみたけれど、ネズミたちはどこにもいなかった。本当に親ネズミが回収したのかは分からいけれど、とりあえず僕らはそう思うことにした。
 ネズミの捜索を切り上げて、母と父は倉庫の掃除をはじめた。僕は残りのゴミを車に積み込んで、今日もゴミ処理場を二回往復してから仕事に向かった。

 仕事を終えて倉庫に寄ってみると、すでに掃除は終わっており、母と父は家に帰っていた。シャッターを開けて中を見回ると、どこもすっきりしていてとても片付いていた。今日だけでは終わらないと思っていたけれど、作業場と違って整理整頓するものが少ないので、その分はやく終わったらしい。
 それとなくネズミを探してみたけれど、やはりどこにも見当たらなかった。赤ちゃんネズミのことをここまで心配している自分が不思議だった。考えていみると、あれほど弱々しい生き物を見たのは生まれて初めてだったかもしれない。それに勝手に巣を動かした罪悪感もあったのだと思う。

 家に帰ると父は外出していた。てっきり疲れて寝ていると思ったけれど、母の話ではどうやらおじいちゃんの家に行っているらしい。おそらく自分の糖尿病のことについて色々と報告するのだと思う。
 僕は寝るまでずっとネズミの赤ちゃんのことを考えていた。僕にはネズミの赤ちゃんがどうなったのかは分かるはずもないのに、彼ら(彼女ら)が今どうしているのかを考えずにはいられなかった。そうして考えている間に、僕はいつのまにか眠りについた。
 

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