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一杯のお茶を楽しむために、わざわざ嬉野に

▶エリア:佐賀県嬉野市
▶文化財カテゴリー:食文化(お茶)
▶事業名:ティーツーリズムの推進事業 ~茶空間へ茶泊の定着を目指して~

九州究極茶産地の高付加価値化と、収益化と

佐賀県嬉野 。風情溢れる宿場町の面影 、少 し足を延ばせば広がる美しい茶畑 。大村湾を望む見晴らしのいい茶畑に設えた天茶台(茶塔)で、茶農家の茶師が最高のお茶を点て客人をもてなす。屋外で日本茶を楽しむ極上の空間と時間、加えて、400年以上の歴史を誇る「肥前吉田焼」、日本三大美肌 の湯「嬉野温泉」、これらの文化コンテンツを、時代に合わせ新しい切り口で魅力を融合させたティーツーリズム、茶空間体験といった価値の提供を行うのが、『嬉野茶時』の取り組みだ。

天茶台7

天茶台4

視察から見えてきた課題

コーチとして、初視察に向かったのが8月。嬉野での企画運営メンバーは和多屋別荘・小原嘉元さん、旅館大村屋・北川健太さん、茶農家は副島仁さん、そして6人茶農家、茶生産者たち。

天茶台の視察 、ヒアリングを行うと、現状の課題が浮き彫りに。それは、少数の有志メンバーで嬉野 茶時を展開しているため、プレイヤーの圧倒的な人材不足。
この嬉野茶時が始まった当初から、茶生産者が育てたお茶を、自ら茶師として淹れ、お客様に楽しんでもらうことが、最高のおもてなしだと考えて進められてきていた。ところが、1年の中で、茶農家が最も忙しいのは新芽のお茶を摘む4月から6月、茶農家でもある茶師が、準備~天茶台(茶空間)でのおもてなし~片付けまでの一連の作業を半日ほど、現業を離れて行うのは不可能に近い。

他方、来訪者の立場になると、新緑の眩しいゴールデンウイークから梅雨に入るまでの時期が茶空間体験のベスト シーズンであり、企画運営側は、この時期に積極集客・展開し、収益を上げたい。茶農家の繁忙期には、本業に専念しなければならず、茶空間体験『嬉野茶時』 が、開催できないため収益につながらないという、相反するジレンマが浮き彫りにされた。

繁忙期の収益化、導き出した答えは・・・

茶師・茶農家の拘束時間を極力減らし、負荷をかけずに、クオリティの高い茶空間体験を実現するには・・・。このジレンマを解決するために導き出した答えが、茶師が稼働できないときには、同等の一連の説明、所作、展開ができる人材の育成を提案した。 すなわち、茶空間体験・ 嬉野茶時を実施する際のサポートスタッフ、担い手を育成すること。これまで少人数で展開してきた嬉野茶時について、コアメンバーからサポートメンバーを含めて、プログラムの展開のすそ野を広げることを仕組化し、事業化に結びつけること。

▶コーチング1 地域人材掘り起こし、地域文化の言語化と継承。
サポートスタッフ・ 担い手育成のための教育プログラムをどのように構築するか。先行して、教育プログラムのテキスト・ 茶空間体験運営のためのマニュアル作りを行った。嬉野茶時の立ち上げメンバーや茶農家にインタビューを行い、その内容を文書化できる編集能力や仕組み化できる能力を持つ人材が必要とされたが、幸いにも、嬉野に地域起こし協力隊で、I ターンで入域した編集経験のある女性が引き受けてくれることに。テキスト内容には、お茶の知識、お茶 の淹れ方に加えて、焼き物もあるので窯元の方に来てもらってのレクチャー、今後のティーツーリ ズムの展開や、地域の連携についてなどを盛り込んだ。
一方で、この担い手・教育プログラムの参加者、募集対象の人材像を、逆算のマーケティングで固めた。嬉野在住、1時間程度で嬉野に来られる人、都会出身など。またソムリエやプロニート、嬉野茶時のリピーターで今度は、伝える側になりたい・・。そんな人もターゲットとして想定した。来年度より茶空間体験のアテンドインストラクターとして実践できるように育成することが目的なため、茶空間体験を人に伝えるコミュニケ― ション力があるかどうかを重要視して募集にかかった。

研修2

▶コーチング2 茶空間体験の高付加価値化にむけて

茶空間体験において、既存の単価設定にも、工夫の余地があった。それは、天茶台でお茶を入れるだけで果たして、高単価になりうる内容になっているのか。企画運営する嬉野茶時メンバーの中でもモヤモヤした疑問となっていた。
そこで提案したのが、日本酒とのペアリング。嬉野茶の提供だけでなく、日本酒をペアリングアイテムに加えることで、高付加価値化、一展開あたりの単価向上を目指した。
元来想定していた、参加体験費用の2倍の単価設定にするために、嬉野温泉街の中心部に明治元年から店を構える嬉野温泉街唯一の酒蔵「井手酒造」や市内に蔵を構える瀬頭酒造・五町田酒造との連携を図った。「純米 虎之児( とらのこ) 」や「東長(瀬頭酒造)」 とのペアリングを企画推進することにし、嬉野の当事者が気付かなかった、外からの視点で、
嬉野地域に存在していた食文化の要素として、日本酒を取り入れたのだ。

室内1

実施展開、そして見えてきた課題

12月11日から4回にわたって、『嬉野茶時コンシェルジュ育成セミナー』 と題して教育プログラムを実施展開、担い手希望の参加者は、当初想定の近隣居住者、また福岡県からの参加者も含む11名が参集した。1日2時間、座学と、嬉野の街歩きを組み合わせ、嬉野の歴史、嬉野茶時のなりたち、お茶の知識、お茶の淹れ方と実技、肥前吉田焼の窯元からのレクチャー、今後のティーツーリズムの展開や、地域の連携などについても学んだ。

コーチング視点で、特に心がけたのは、茶農家や地元の人には日常の生活文化や関連する用語でも、来訪者にとっては初見で分かりづらいこともある。第三者目線、観光客目線で、日常にある文化をわかりやすく言語化していくことが必要で、来訪者の気持ちに寄り添った丁寧な説明、ハイエンド市場を狙う場合は、特に自然の中での空間価値、文化を言語化することが必要不可欠であると感じている。

天茶台3

今後期待すること、さらなる体験価値向上へ

2022 年につながる取り組みとして、お客様を迎えての実践は 4 月からスタートを目指している。新芽の時期には、摘み取った茶葉をその場で飲めたり、茶師からの説明を受けながら現場のリアルを体験することができたり、より高い付加価値を来訪者に対して、文化体験として提供することを目指したい。嬉野茶時のような、文化観光を推進するためには, 文化関係者だけではなく, 観光やまちづくりに携わる方々の参画が不可欠なってくる。運営組織を、法人化することよって取り組みを加速させられる可能性を感じている。

このコンテンツを体験したい「一杯のお茶を楽しむために、わざわざ嬉野に訪問」 という顧客を獲得することを目標に、茶師がお茶を入れる際の作法や茶器にも芸術性を持たせるレベルに昇華させていければと願う。文化観光が「文化についての理解を深めることを目的とする観光」 とするなら、嬉野という地域性を活かした究極の付加価値設計をより進めるために、地域住民と地域文化の理解融合を深め、文化振興を観光振興と地域活性化につなげ, これによる経済効果が文化の振興に再投資される好循環を創出できるステージの実現。
リスタート消費、外出時の消費が活発化するまであと少し!

天茶台2


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島田 昭彦
株式会社クリップ代表取締役

京都芸術大学特別講師、京都観光おもてなし大使。京都で代々続く紋章工芸一家に生まれ、2005年ヒト・モノ・コト・アート・文化とのコラボによるブランディングやマッチング、新事業・新業態の企画・開発会社「クリップ」設立。文化観光まちづくり、地域活性プロデューサーとして、サントリー「伊右衛門サロン」「京都市動物園」「東山将軍塚青龍殿ガラスの茶室・光庵」「エースホテル京都」「立誠ガーデン」等を手掛ける。



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