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美味しい野菜炒めに必要な『ほんの少しの塩』の話。

昨年末こんなツイートを見かけた。

舞茸だ。ただの舞茸。料理をする人から見たら何を言ってるの?分かるでしょ?っと思うはず。僕もこの時は『タカヤ・オオタまた悪ふざけか』と思っていた。(お会いした事ないのにごめんなさい)これくらい誰でも知ってるでしょ?と。そうゆう前提で生きていたから、今まで僕はツイッターで色々なレシピをツイートしてきた。

どれも分量書いてあるし、難しい作業もないから『役に立つ知識』だと思い込んでいた。勿論料理を好きでやっている人には簡単に分かる。でも、そもそも料理をやらない人には共通言語がない。そんなのは当たり前のことで、例えば音楽の楽譜。学生時代に勉強したとはいえ、僕は多分ほとんど分からない。Macの使い方だってろくに分かってない。21世紀だけど。英語だってなんとなくしか知らない。

なのに、何故料理はみんな分かると思ってしまったのか?毎日口にするものだから?身近なものだから?自分が仕事にしていて当たり前だからか?これは大きな勘違いだった。料理って身近な様で全然身近じゃなかった。でもやってみたい人は沢山いる。でもこんな事聞いたらバカにされるかな?とかみんな当たり前に知ってそうだから聞けない。という人が多い気がする。

僕はラフにツイッターをやっているつもりだけど、やはりシェフという肩書きが邪魔をしていて聞き難いらしい。だったらもっとみんなが聞きたいけど聞き難いことを発信していったら良いんじゃないかと考えて、昨日ツイートをし、今noteを書いている。少しでも多くの人に役立つものを書いていければなと思います!


レシピ本は本当に役に立っているのか?

世の中には本当に沢山のレシピ本がある。簡単なものからプロ向けのものまで様々だ。なるべく簡単に作れる様にシンプルに書いてあるが、そもそも共通言語がない人からすると中火って何?小さじって何グラムなの?家のティースプーンで良いの?人参中サイズってどのくらい?の様に謎ばかりだ。

料理に慣れている人は自分の経験値から最適解を自分なりに導き出して料理を作っていく。自分なりの方程式を持っているからだろう。

ではそうじゃない人達は何を基準に料理を作れば良いのだろうか???

レシピ本って問題集の様なもので、問題とその答えが書いてある。(肉じゃが、その作り方と完成形)例えば数学なら解き方に加えて解くための方程式も書いてある。それが共通言語となり、皆が同じ様に答えを解いていく。

でも料理にはその方程式が圧倒的に足りてない。

『野菜を茹でる』

この言葉の中には様々な要素が隠されている。塩はどれくらい入れるのか、お湯の温度はどれくらいなのか、何分何秒茹でるのか、お湯に対してどれくらいの野菜を入れれば良いのか。野菜を下ゆでしておく、としか書いていなかった場合何をどうすれば良いかはほぼ情報がないと言える。

では何が必要かというと、料理の前に調理技術の共通認識を作る必要があると思うんです。勿論それが正解なわけではなく、基準を作りたいだけ。みんながある程度の基準が持てると応用や発展がきくようになる。


今回で言うならば、美味しい野菜炒めに必要なことはなんなのか。僕はたった3つの事を知るだけで誰でも美味しい野菜炒めができると思っている。少しづつ解説していこう。

塩ってなんの為にあるの?

このnoteにも書いたのだけれど、一番大切なのは塩だ。

塩の用途といえば塩味の為だと考える人が多い。でも使い方を細分化すると大まかに4つ存在します。

①塩味の為の塩
②脱水の為の塩
③甘みを引き出す為の塩
④下味の為の塩


①は一番当たり前の用途。でも本当に大切なのはそれ以外の要素です。

②塩は脱水作用があります。素材に振る事で水分を抜いてくれる。これは旨味が濃くなる(水分量が減るから)ともいえます。僕はこの事を旨味が煮詰まると表現します。特にスープなどを作るときはなるべく素材の水分を抜いてから液体を加えるべきで(じゃないと水っぽい味になる)必須のテクニックと言えます。

③塩は甘みも引き出します。例えば人参や玉ねぎは塩の分量次第では先に甘さが引き立ちます。かぼちゃなども。(スイカに塩も近い)塩は一定量まで素材の甘さを感じやすくする。ただギリギリのラインを超えた瞬間に甘みが一気に塩味に変わります。こうなってしまうと元には戻せない。塩加減って本当に大切。

④は②③と連動するのですが、下味です。それ単体だと塩味は感じないが素材の味が輪郭を持つ状態。この判断は結構シビアなのでプロだけ分かれば良いところですね。

①塩味の為の塩とは、スープなどの最終的な味を決めるものと、肉や魚に最後にかけるちょっと粒の大きな塩。だと考えてます。味覚の決定権の塩とでもいいましょうか。最後の最後、ゴールを決める塩。噛んで欲しい塩もそうです。高級な塩のほとんどが結晶です。素材に馴染ませるのではなく塩の味をダイレクトに足すもの。




ちょっと小難しいのですが、この前提があった上でお話ししていきます。

野菜炒めを作るときに大切なのは、当たり前だけどどうやって野菜を炒めるかです。炒めるとはどうゆうことかと言うと、熱によって水分をどの様に調節して、温度をどう与えるかです。熱したフライパンに油をしいて野菜を入れる。

この単純な行為の中には科学が詰まっている。火を入れるということは、素材の水分を膨張させつつ細胞を壊して変性させるという事。

焼き色をつけるというのはその面の水分を飛ばして、旨味を煮詰めるという事なんですね。じゃあその野菜を焼くにしてもどこまで焼けばいいのか?アメ色とかキツネ色って正解はどこなの?その答えの一例がこれ。

焼き色って美味しさなのでしっかりつけていいんです。でもみんなかなり手前でやめてしまう。

焼き色をつけるというのは、水分を抜いて味を濃く、感じやすくしつつ、焼いた旨味をプラスしていく事。野菜はちゃんと焼く事で本当に美味しくなる。この事を知っているだけでも野菜炒めの作り方は変わっていく。なんとなく炒めてタレをかける野菜炒めからはサヨナラしましょう。

そして野菜を焼くときにさらに大切なのがをする事。それは素材ごとにしてあげることが大切です。塩をすることで細胞が壊れ、水分と旨味が出やすい状態になる。ほんの少しでいいので塩をする事で、焼くために必要な水分と旨味を煮詰める作業が格段に早くなるんです!

塩は塩味の為ではなく、水分と旨味を煮詰めやすくするために使うものだと考えましょう。


話が長くなってきましたので、とりあえず野菜炒めを始めましょう。

最初にするのはニンニクを炒める事。ニンニクはそれ自体がとても旨味を持っているものです。ニンニクの香りを嗅ぐだけでお腹が空いたり美味しそうと思った経験は誰にでもあるはず。中火で温めたフライパンに油を入れて刻んだニンニクを入れます。温度が上がるとフツフツと水分が踊りだす。

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加熱が進むと色がだんだんと変わってきます。

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小さな粒から火が入るので、なるべくサイズを整えるのも大切です。

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この写真の一番色が濃い部分をきつね色と言います。大きい粒はまだ色付きが足りませんが、これ以上加熱すると嫌な香りになってしまうので、ここを目安にします。ここから野菜を入れていきましょう!最初は玉ねぎから。

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玉ねぎを入れたらすぐに混ぜます。ニンニクが焦げないように玉ねぎに火が当たるようにする。(玉ねぎのカットの違いで味が変わる話をしたので切り方がバラバラです。玉ねぎは横に輪切りにした方が細胞が壊れる断面が多く甘みや旨味を感じやすくなる)

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そしてすかさずひとつまみの塩をします。今ひとつまみがまた問題。ひとつまみってどれくらい?って話ですね。

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基本は三本指です。

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こうして

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こうして

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取り方にもよりますが、大体0,3~0,7gくらい。まあ微差です。野菜に直接塩をする場合、物によりますが100gに対して0,3~0,5%くらいの塩(0,3~0,5g)なので、ひとつまみかけるといい塩梅です。ほんのちょっとの塩が野菜の味をかえる。

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なるべく全体に均等にかかるように意識しましょう。これだけで水分が抜けやすく色がつきやすくなります。

日本の野菜は特に水分量が多いので、上手に水分を抜くだけで味が濃くなります。野菜炒めを作るときに一気にたくさんの野菜を入れると鍋に対して野菜の水分が多くなり、焼くというより、蒸すに近くなってしまう。そうなると焼き色が付かないので、少しずつ入れるのがいい。そして野菜ごとに火の入り方が違うので、そこも考慮できると更にいいです。次は人参を入れます。人参は薄くカットしてるので火の入りは早い。玉ねぎは少し大き目にカットして存在感を出しているので最初に焼いています。

人参のカットは好みで大丈夫です。説明すると、ヘタを落として皮をむきます。

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太い方と細い方を二つに切る。太い方をさらに半分に切り、それをさらに半分にしてカットすると銀杏切りになります。割とよく見る切り方。

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短冊切りにする時はこう。サイズを整えて縦にスライスします。(画像だと分かりにくいのと、これくらいで分かるだろうと思ったけど、もっと詳細に写真撮ればよかった)

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こんな感じになる。これで3センチくらい。

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カットしていて人参が細くなり、切りにくくなったら横に倒します。これを。

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こうゆうふうに。(難しい。写真わかりにくい)

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で更にカットしていく。幅を揃えたい人は頑張って切りましょう。気にしない人は切りやすく早く作業できるやり方でいいと思う。

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ちなみに千切りは短冊切りにしたものを並べて切っていくだけ。

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同じ間隔になるように気を付けて。こんな感じ。

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人参を入れる前に玉ねぎを端に寄せましょう。人参にだけ塩をするためです。

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というわけで、野菜炒めの人参もサイズバラバラです。

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またひとつまみの塩をします。

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全体に、均一に。そしてさっと混ぜて炒めていく。玉ねぎも色付いてきましたね。

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次はキャベツ。入れる順番はいろんな考えがありますが、キャベツは水分が多いので、先に水分の少なく、かつ甘みの出やすいものを先に焼く方が僕はいいと思います。例の如く端に寄せて、塩をして。

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火加減はずっと中火です。


火加減についてはこのツイートを参考にしてください。

家庭ごとに火加減は違いますが、自分のキッチンでの火加減を掴みましょう✊

野菜炒めにシャキシャキの食感を求める人は強火で一気に焼いた方が良いかも。美味しさを重要視した作り方を提案していますw

水分の多い野菜を入れると、その水分で先に焼き色をつけた野菜の色は落ちます。ただ溶け出た旨味が全体に回るので、結果的に美味しくなります。

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最後の野菜はもやし。もやしは食感要員なので、最後に入れてさっと仕上げます。もう説明はいらないですね?はい、寄せましょう。塩をしましょう。

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玉ねぎ、人参、キャベツ。どれも甘みがある野菜です。さっと炒めてタレで調理すると、その甘みや旨さは引き出されにくい。それぞれの個性を活かすために適切な加熱をすれば、化学調味料は必要なく、塩だけで十分に旨い。最後は肉を入れましょう!🥓

肉の加熱も難しい。基本的に家庭では入れ過ぎくらい入れ過ぎてる。どんなに美味しい肉でも焼きすぎると不味くなります。スイーツの食感の話でも書きましたが、食べるという行為は食感が支配している部分が大きいので気を付けましょう。焼く前に先ずは下拵え。

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まな板に広げて、

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ちょうど良いサイズにカット。三分割。

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そしてバットに綺麗に並べて塩をします。(雑に並べても良いよ!わかりやすいように並べました)

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この肉が119gだったので1,1g(1%)の塩をします。肉は0,8~1,0%くらいの塩が良い塩梅。こちらもなるべく均等に振りましょう。この塩をするかしないかで仕上がりは全く違う。これは他の調味料を使うときも一緒です。その場合は塩分を少し減らしましょう。調味料で付けれるのは、調味料の味だけ。素材の味は出てきません。これ重要。

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そして例の如くです。端に寄せましょう。ここからは本当にあっという間に終わるので、手際に自信がない人は野菜を他の容器に移しておくことを推奨します。

では焼きましょう。油は少しだけ足しても良いですが、豚からも出てくるのでそのまま乗せても大丈夫です。

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数十秒で色が変わるので、すぐにひっくり返す。手早く。

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この後野菜と混ぜて、お皿に乗せる間にも加熱は進みます。ここで丁度よく火を入れると、お皿に乗る時には火が入りすぎてしまう。

少し赤いところがありますが、混ぜている間に火は入ります。このくらいで鍋を混ぜましょう。

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仕上げに黒胡椒やごま油を少し足したり、味を見て塩が足りなければ塩をかけましょう。

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もし物足りないと感じる方は、全体の塩を減らしつつカエシ(麺つゆでも良い)を入れましょう。カエシは醤油、味醂、酒(基本的なものは砂糖。僕は酒を使う)を合わせたもの。作り方も色々ですが、僕は全て同量を鍋に入れ一度沸かしたものを使っています。


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鍋肌から入れて、少し香ばしさを出すのが僕は好きです。さっと混ぜたら完成。

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なんとも写真映えしません。でも心底美味しくなります。野菜の甘みを感じ、肉の旨味を感じる。濃い味のタレで誤魔化すのではなく、素材の味を感じれる。

ちなみに肉をしっかり焼くとこんな感じです。

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同じサイズの部分。これは味は濃くなると言えますが、パサパサで美味しいとは言えません。脂がほとんど出てしまった状態。

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ちょっと極端に焼きましたが、日常的にここまで焼いている人はいるかなと思います。

普段使っている野菜でも、調理の仕方を知っているだけでいくらでも美味しくなります。プロは美味しい食材を知っているから美味しいものが作れます。でもそれ以上に料理とは何か、美味しいをどう作るかを知っているから美味しくできる。

塩の使い方や、水分の抜き方、保ち方(野菜の水分を抜く、肉は水分を残す)、加熱の仕方(火加減の調節)。野菜の切り方や細かい技術はありますが、この三つを押さえるだけで料理は簡単になります。茹で方や揚げ方を知るともっと具体的なイメージが沸くようになり、自分なりの塩加減や火加減が分かると、更に甘味や辛味、酸味に対しても基準が出来ていきます。そして、レシピ本を見たときにどう作るかの、どんな味なのかイメージが沸くようになります。

ここまでくるには時間がかかりますが、塩と焼き方だけで料理が変わるならやれそうな気がしませんか?

細かい話を沢山しましたが、大切なのは『ほんのひとつまみの塩』。

1gにも満たない塩が素材の味を引き出し、甘みを感じさせ、旨味を呼び起こす。今まで食べていた野菜が美味しくないのではなく、美味しさを引き出す方法を知らなかっただけ。どんな野菜にも美味しさが隠れています。それは人と同じかもしれません。適切な方法を知ればどんな野菜でも人でも良さが現れます。ちょっとした知識だけで。

今回は野菜炒めでしたが、野菜はなんでも大丈夫です。好きな野菜を使いましょう。名前のない料理こそ素材の味を引き出すことが大切になります。

少しでも多くの人が野菜の美味しさと料理の楽しさを感じてくれますように。

また何か書きますね〜






因みにキノコの炒め方はこんな感じ!例の如く塩をして、

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強火でしっかり炒める。煙が出るくらい強火がポイント!(ですぎちゃダメ)

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キノコは水分が多いので火が弱いと煮た感じになって美味しさが半減する。

火加減を守ると色がしっかり付く。ある程度水分が飛んだら中火にする。

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しっかり焼き色がついてくると、ナッツのような香りがしてくる。それが美味しさの合図。

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キノコ類はそのまま使われることが多い(鍋に生のまま入れるとか)けど、ちょっと炒めてから使うと味が全然違います。手間はかかるけど。

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新しい料理人の働き方から、個人でどう生きていくか、どう価値を生みだしていくかを色々な視点で書き綴ります。月3~4回ほどの更新なので、定期購読がお勧めです。

曜日や時間、場所に捕らわれずに料理を自由に表現するためにレストランを辞めた料理人の働き方を変えていく奮闘記。 これから増えていくだろう料理…

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