見出し画像

これからの時代は何を売るのか?

先日初めてハヤカワ五味ちゃんに会い、色々な話をした。僕が料理人として何を考えどう行動していこうと思っているか。働き方を変える事でしか見えない何かがあると信じて、これからの生き方を変える事。今の時代は情報に溢れすぎていて、本当に重要なものの取捨選択ができにくくなっている事。どんどん増え続ける商品やサービスに僕達は本当に大切なものを見失いかけているかもしれません。


今までの価値観ならレストランは美味しい料理を提供し、幸せな時間を過ごして頂く場所。しかしレストランの数が増えた今、美味しいは当たり前になり、美味しさ以上の価値を提案できなければ生き残っていけません。これはレストランに限らず全ての職種に言えると思います。


『付加価値を付ける』


それは料理人の僕で言うなれば、他の料理人とは違う明確なアイデンティティ。この料理はここでなければ食べられない、このサービスは他にはないなどのもの。僕がシェフになって最初に意識をしたのが、自分にしか表現できないことは何なのかという事。そしてそれを如何に簡潔に届け、知ってもらう為に何が出来るのか。SNSを使いながら必死に世の中に訴えていた。


認知度による評価の変化

少しずつ認知度が上がり、業界の中で評価も上がっていった。同時にプレッシャーも増していったが、より多くの人に食べてもらえることがとにかく嬉しかった。しかし、評価が上がるごとにより個性を出さなければと奇抜さを追い始める自分に気付く。

『美味しさは当たり前。もっと自分らしい表現をしなければ』

この頃から自分の料理は誰かの幸せの為のものから、自分を表現する為のものへと変わっていった。そしてゴーエミヨというレストランガイドブックで期待の若手シェフ賞を頂くことに。ある種自分のしてきたことが間違いではなかったと証明され、受賞の瞬間は心の底から嬉しかった。


しかし評価というのはただの言葉だ。この賞を取る前と後で自分の料理が二倍美味しくなるわけではないし僕自身も何も変わらない。承認欲求が満たされ、幾分かの自信が持てるだけ。だけれども周りの評価は一変する。当たり前の事だが取材は増え、仕事も増えた。嬉しい気持ちと共に何か気持ち悪さを覚えた。結局は認知度で世の中は変わるのかと。勿論それに伴った実力があるのが前提だが、その本質的な部分は素人には分かりえない。それは美容師などの他の職種で評価を得ている人の力を、僕が推し量れないことと同じだから。


僕は一定の評価を得られたことで色々なことに気付くことが出来た。常に変動する周りからの評価に一喜一憂するのではなく、自分の中にある確固たる信念のもとに生きていこうと。エゴの為ではなく、生産者と消費者の為に本質を捉えたプロダクトを生みだしていきたい。

モノが溢れる時代とどう向き合うか

そして、タイトルにも書いた『これからの時代は何を売るのか?』

ただ美味しいだけの店ならいくらでもある。その中でしっかりと本質を捉え、料理の『その先』を届けられるか。僕は自分の作る料理も様々なプロダクトも食べる事をゴールにしていない。食べる事でその人や空間がどうなるのか。プロダクトの背景にあるストーリーを感じてもらう事で、何かその人の人生にプラスに働かないか。

これは僕の知人のシオタアツシさんの言葉ですが、


『UI,UXを突き詰めると、その先にはUEがある。そこまでデザイン出来て初めて価値が生まれる』


UEとは、User Emotion。ただの経験ではなく、心揺さぶるほどの感動をとどけられるか。そしてそれは消費者だけではなく、生産者と作り手まで同様に感動できるかが肝になってくる。価格が安く消費者だけが喜ぶのでは意味がなく、作り手だけが利益を得るのもダメ。生産者の作り出したものを、正当な評価で仕入れその価値を120%引き出し製品にする。そして僕達作り手も自分たちの技術を安売りすることなく価格を定め、その価値が真っ直ぐ届くようにデザインする。その上で心を揺さぶる事が出来て初めてインパクトが生まれる。


物作りは本当に大変だ。情報過多の世の中では、良いものが良いものとして届きにくい。だからこそ今まで以上に伝える努力を皆が意識しなければならない。様々な価値観は驚くほどの速さで変化していく。その変化の波を捉えなければ生き残っていけないだろう。


八月からレストランを離れ、料理人として何が出来るのかを試してみる。きっと今までの価値観ではない新しい何かが生まれるだろう。そしてその価値を真っ直ぐ届けるために僕は自分の人生をかけてみようと思う。時代の変化もあるけれど、自分が時代を変える気概で走り続けて行こう。

皆様の優しさに救われてます泣