静かで冷たくあたたかなエンディング

凍えるような寒さの中、幸せそうにくっついて歩くカップル。
何もなけりゃ"幸せそうだなぁ"なんて暖かい目で見られたのに、独りになってしまった夜には、まるで氷の剣を突きつけられているかのように感じられる。

私もあんな風に腕を組んで街を歩きたかった。寒いねって笑い合いたかった。「寒いし家で鍋にしようか」なんて言いながら、帰り道にスーパーに寄って、私がカートを押しながら、あなたがお肉を選ぶの。そんな何気ない日々に憧れていたのにな。

2人でしたかったこと、何一つ叶えられないまま独り街を歩く。


街の音を閉ざしたくてつけたイヤホンから、音楽が流れていないことに気づいたのは、家に着いてからだった。

「あ、再生押すの忘れてた…」

しんと静まり返った家でイヤホンを外し、玄関に座り込んで苦笑い。家に着くまでの数十分間、音のない静かな世界で、思い出だけが再生されていた。


2人出逢った日も、大きなバスタブのある部屋で缶ビールを飲んだ日も、偽りの愛の夜も、すべて思い出になってしまったのだ。思い出だけでは暖まれやしないのに。


哀しんでいたってどうしようもない。どうしようも無いのがまた切ない。思い出だけじゃ暖まれないけれど、もう少し思い出に包まれていたい。


頰をつたう涙の温かさを知った、恋物語のエンディング。

忘れた頃に、また始まるのだろうか。
似たような物語が。



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サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。