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有象無象

世界なんてものはひどく退屈で曖昧で、分かりやすい絶望も希望もあったもんじゃない不幸に満ち満ちている。日本人には不似合いな金髪に染めあげた髪は人形のそれみたいに感情を持たず、ツクリモノみたいなその温度はほんの少しだけ僕を救う。やわらかな黒髪なんてのは、きっと僕ら人間の最大の罪。

どこに行けるわけでもないのに、既に一日を終えようとしている街に出た。人生の何千分何万分の一の今日をどうにかして引き伸ばしてみたかった。なんてのは嘘。だってどんなにジタバタしたって、どうせもうどこにも何も落ちていないことくらい知っている。

家を出た時の足取りは軽くなんかない。好きでもないのに吸い始めた煙草の箱はポケットで拉げて潰れている。中途半端に煩くて静かな街、楽しそうに歩く人達にこの景色はどんな風に見えているんだろう。眼球交換でもしませんか、なんてのも嘘。僕は今の自分のままでいい。変わることは億劫で面倒だから。

遺伝子を組み替えられて小さく弱く作り変えられた動物は従順な愛玩具として主人に連れ添う。飯は美味いかい?家はあたたかいかい?散歩は楽しいかい?毎日は充実しているかい?お前にとっての幸福とお前らにとっての幸福と、正解とか間違いとかそういうものは一体どこの誰が線を引いて決めていくんだろう。反逆するタイミングはいつにしようか。その弱った牙でリセットできる時はもうすぐそこ、なのかもしれないよ。或いはもう手遅れだったりもしそうだけれど、お前らは種族のためにそうして自分を犠牲にしているの?

「生きていく」という誰もが平等に課せられたミッションを、皆が作戦を立てて遂行している。あの笑顔も黒髪も白い肌も全部全部全部がそうだ。愛されるというやり方を選ぶには、少々無理がある場合もあるかもね。

人類皆平等に愛を注いだどこかの神様、僕の生きる術は何でしょう。肌に刻んだ十字架は、何の意味も成さなかったよ。

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