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ご質問にお答えします!『登場人物の過去の明かし方は?』

脚本家志望の方から、こちらのご質問をいただきました。

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ご質問ありがとうございます!
「登場人物が背負っている過去をどのように観客に伝えるか?」は、私も常に悩むポイントです。
まずは、この判断がなぜ難しいのか?というところからご説明したいと思います。


【登場人物の過去を明かす方法を決めるのが難しい訳】

なぜ私が「登場人物の過去の明かし方」で毎回悩むのかといえば、考慮すべき要素が数多くあるからです。
ざっと思いつくだけでも、以下のような要素で判断は違ってきます。
・メディアの種類(映画なのか、ドラマなのか、舞台なのか等)
・作品の長さ
・作品全体が誰の視点で描かれているのか
・登場人物のキャラクター
・過去を明かすのことで観客にどのような印象を与えたいのか
等々……

これらが複雑に絡み合うなかで、最も適切な過去の明かし方を模索するため、判断が難しくなるわけです。
ですので、「どうすればスムーズに登場人物の過去を明かすことができるでしょうか?」というご質問にお答えするとなると、
「ケースバイケースです」
という身も蓋もないお返事になってしまいます(笑)。

「効果的な登場人物の過去の明かし方」に、合理的な方程式のようなものはない、というのが私の考えなので、今回のご質問には、「この方法なら常にうまく行く」という手法ではなく、「過去を明かすシーンでやってはいけないこと」、いわゆる”べからず集”をお答えしたいと思います。

【登場人物の過去を明かす描写で、やってはいけないこと】

私が自分の作品内で登場人物の過去を明かす描写をする際には、「説明的にならないこと」を重視しています。
説明的な描写というのは、書き手が「ここまで説明をしたのだから、観客はこちらの意図を読み取ってくれるはずだ」と安心するための描写のことです。
言うなれば、「観客のためではなく、書き手自身のための描写」ということですね。

「この登場人物にはこんな過去があり、そのことが現在の性格や行動に影響を及ぼしているんです」
ということを説明しておきたくて、過去の出来事を単に「情報」として観客に伝えるだけでは、観客の心は意外なほど動きません。
描写が説明的であると、観客は頭でそれを理解してはくれるのだが、心は動かされない、ということです。

では、観客にとって「説明的な描写」とは具体的にどのようなものなのでしょう?
・登場人物自身のセリフで過去を明かす場合
・別の登場人物のセリフで過去を明かす場合
・回想やフラッシュを使って過去を明かす場合
に分けて、ご説明していきましょう。


【やってはいけない説明的な描写1)登場人物のセリフで過去を明かす場合】

登場人物のセリフは、劇中にいる他の人物に向けて投げかけられるものです。
ところが、書き手のなかに「説明しておきたい!」という気持ちがあると、つい、他の登場人物ではなく「観客に聞かせるためのセリフ」を書いてしまいがちです。

この場合、書き手は登場人物に、性格や心情に沿わない状況で、性格や心情に沿わない表現を使って自分の過去を語らせてしまいます。
例えば、
「寡黙なはずの登場人物に、大して親しくもない人を相手に、ペラペラと自分の過去を語らせてしまう」
「一刻もはやくその場から逃げなくてはならないような危険な状況下で、登場人物に、悠長に自分の過去を説明させてしまう」
といった問題が起きるわけです。

明かしている過去の内容は同じであっても、その登場人物らしいタイミングで、その登場人物らしい言葉で語らせているのであれば、それは観客にとって「説明」ではありません。
書き手も自然に登場人物の心情に寄り添うことができるからです。


【やってはいけない説明的な描写2)別の登場人物のセリフで過去を明かす場合】

質問者さんは、登場人物の過去を明かす手法の一つとして「第三者を登場させ、その人物に語らせる」とお書きになっています。
この「第三者を”登場させ”」という部分に、私は危うさを感じています。

上記の通り、書き手のなかで「説明しておきたい!」という気持ちが強くなりすぎると、描写が不自然になりがちです。
例えば、唐突に「登場人物の過去を知る人」を都合よく登場させ、過去を語らせる、といった描写をしてしまうわけです。
このような場合、「過去を語る人物」はストーリーのなかで、それ以外の役割は何も担っておらず、書き手の小道具のような存在であることが多く、こうなると、ますます観客にとって説明的な描写になってしまいます。

仮に、質問者さんがイメージされている「第三者に過去を明かさせる」という手法がこのようなものであれば、頭の切り替えが必要だと思います。
「それを語るにふさわしい人物が、語るにふさわしいタイミングで、その人らしい表現で過去を明かしている」のであれば、観客は説明的だとは感じません。
ぜひ、その点に留意してください。

【やってはいけない説明的な描写3)回想やフラッシュを使って過去を明かす場合】

回想は、「現在進行形のストーリーの流れを一旦止めて、過去を振り返ること」です。
回想が長くなればなるほど、ストーリーの進行が止まった状態が長く続くことになります。
これは観客が冗長さを感じる要因になるので、私は、回想を使う場合「極力短く」と心掛けています。
フラッシュ(登場人物の脳裏によぎった過去のある場面を一瞬だけ見せる)で済むものならば、できるかぎりにフラッシュにします。

ここでも書き手の「説明しておきたい気持ち」が強すぎると、回想が必要以上に長くなり、冗長、且つ説明的になりがちです。
「登場人物の過去」も、書き手にとっては「知恵を絞って考え出したこと」なので、つい「余すところなく伝えたい!」と思ってしまいがちですが、詳細に説明すればするほど、観客が感動するというものではありません。
むしろすべてを語りつくさず、観客に想像する余地を残すことで、より強く観客の心情を揺さぶることができる場合もあります。
この点も重要なポイントだと私は思います。

【「そもそも過去を明かす必要があるのか?」を考えることも重要】

さて、ここまで「登場人物の過去の明かし方」について、あれこれと考察してきましたが、
「そもそも、この過去を明かす必要はあるのか?」
「明かすことによって、どのような効果があるのか?」
ということを考えるのも非常に重要
だと私は考えています。

ストーリー内で起きている出来事すべてに対して、それが起きた原因を明かし、因果関係を解説しなくてはならない、というルールなどありません。
私は各登場人物のキャラクターの掘り下げのために、
「この人、中学高校の頃、部活はやってたのかな? やってたなら何部だろうか?」
「兄弟はいるのかな? いるなら何人兄弟? この人は何番目?」
といったことを考えることが多いです。
そうすると、「野球部で万年補欠だったこと」や「五人兄弟の一番上であること」が現在の性格や行動に影響している、という発想に繋がる場合もあります。
ただし、それらをすべて作品内で描写するわけではありません。
「作り手の頭のなかにある、登場人物の過去」のすべてをストーリーの”表側”で描く必要はないのです。
(”表”にしなくとも、登場人物がおのずと立体的になり、”実在感”が増すという効果があるので、考察する意味は十分あります。)

何を”表”にして、何を”裏”にするのか?ということは、作劇において重要なポイントのひとつです。
「この過去をどうやって明かそうか?」と考える前に、一度立ち止まって、
「そもそもこの過去を明かした方がいいのだろうか?」と考えることも重要です。

これからもお互いがんばりましょう!

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