『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第十三回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。
第3部 ストーリー設計の原則
12 編成
「ストーリー編成の原則」に関して、著者は具体例を挙げながら解説していきます。
【統一性と多様性】
「契機事件」とは「そのあとに起こるあらゆる出来事の発端となり、ほかの四要素――段階的な混乱、重大局面、クライマックス、解決――を始動させるもの」であると、こちらの章で解説されています。
この解説を読んで私は、カンヌ国際映画祭パルムドール、アカデミー賞作品賞を受賞の韓国映画『パラサイト』を思い浮かべました。
公開時にはSNSで感想を投稿している人も多く、「社会派ドラマであり、コメディーでもあり、サスペンス要素もあって、ジャンルが何だと言えない」という趣旨の投稿も何度か見かけたと記憶しています。
この「多様性」も『パラサイト』の魅力のひとつと言えるでしょう。
【ペース】
私たちは人生にペースの変化を求めており、「人生の隠喩」であるストーリーにも同じことを求める。
それならば、ストーリーにおける「ペースの配分」は、「人間の生理に合わせること」がコツなのだろうと、この解説を読んで私は感じました。
【リズムとテンポ】
「平均的な二時間の映画には四十から六十のシーンがある」とあります。
原稿の推敲時にテンポが悪いと感じた時などは、この数字とご自分の作品のシーン数を比較してみると良いかと思います。
ですが、こういった目安にとらわれ過ぎないことも重要だと感じます。
著者も、本書の冒頭で以下のように述べています。
「リズム」に続いて「テンポ」について、著者は次のように述べています。
音楽やダンスと同様に映画にも、「リズムとテンポ心地よさ」を感じることがあります。
脚本家は、観客が「心地よい」と感じるリズムやテンポを感覚的につかみ、それを作品に与えることが重要なのでしょう。
【進展を表す】
社会的進展 登場人物のアクションが社会に及ぼす影響を大きくする
このような作品の一例として、著者は『メン・イン・ブラック』を挙げています。
個人的進展 登場人物のアクションを、身近な人間関係や内面に深く影響させる。
こちらの具体例の一つとして、『普通の人々』が挙げられています。
【象徴性の高まり】
ストーリーのイメージのなかで象徴性を高め、個別を普遍へ、特殊を原型へと変えていく
行ったことのない場所が舞台で、自分とはかけ離れたプロフィールの登場人物が主人公のストーリーであっても、「主人公の心情が手に取るように分かる」と感じたことはないでしょうか?
これは、「象徴性の高い作品」において起きる現象なのではないかと私は思います。
自分と主人公の具体的な人物像はかけ離れていても、ストーリーに象徴性が備えられていることで普遍性が生まれ、感情移入が促されるのではないでしょうか。
このような作品の一例として、著者は『ターミネーター』を挙げています。
【アイロニー(皮肉)】
アイロニーの要素を組み込んでストーリーを展開する
ストーリーにおいてアイロニーは重要ではあるが、「登場人物に『なんという皮肉な事態なんだ!』などと言わせてはいけない」という部分が非常に重要だと私は感じます。
「観客に〇〇だと感じてほしい」「××というメッセージを観客に伝えたい」といったねらいが書き手の側にあると、ついそれを登場人物に直接的に言わせてしまう場合があります。
ですが目指すべきは、観客が自発的、かつ自然に「〇〇だな……」と感じることなのではないでしょうか。
書き手にとっては難易度が高くなりますが、その分、観客は深くメッセージを受け止めくれるはずです。
著者はここで六つの「皮肉なストーリーのパターン」を紹介しています。
シェイクスピア作の『オセロ』は、ヴェニスの貴族でムーア人の将軍オセロが、部下の策略により愛妻デズデモーナの不貞を疑い、殺害に至るというストーリーです。
彼は妻の自分への愛が真実のものであったことを知りますが、それは自分の手で妻を殺めた直後のことでした。
本来なら自分たちが手にするはずだった金を、強欲なビジネスマン・サムに奪われたサンディとその夫ケン。
サンディとケンは、サムの妻・バーバラを誘拐して身代金を要求しますが、サムはバーバラに嫌気がさして殺すつもりでいたため、身代金を払うどころか「さっさと殺せ」と返答してきます。
当てが外れたケンとサンディでしたが、人質であるバーバラは、意外にも誘拐後の監禁生活が気に入り、ケンたちに「わたしがサムからお金をせしめてあげる」と申し出ます。
主人公は画家のロートレック。
脚に障害を持つロートレックは、美しいミリアム・ハイエムと友人になる。
ロートレックはミリアムへの恋心を打ち明けられず、彼女が自分と共にいるのはハンサムな男性たちと出会う機会を得るためだと思い込みます。
ある日、酔った勢いでロートレックはミリアムをなじり、自らの人生から彼女を追い出してしまいます。
その後ミリアムから「あなたがいつか振り向いてくれるのを待っていた」という手紙を受け取るロートレック。
彼女はすでに別の男性からのプロポーズを受けており、ロートレックは酒浸りになって命を落とします。
俳優のマイケルは実力はあるが、完璧主義が裏目に出て仕事にあぶれています。
ある日、女優のふりをしてメロドラマのオーディションを受けたところ、合格。
撮影に入ると、共演者の女優ジュリーに恋をしますが、マイケルは撮影現場で”女優”であり続けなければいけないため、ジュリーに気持ちを伝えるわけにはいきません。
さらにマイケルは、ジュリーの父親から結婚を迫られてしまって……。
宣教師のヴィットソンは、娼婦のサディの魂を救おうと苦闘していたはずが、肉欲に負けて彼女を犯し、自殺に至ります。
無鉄砲な令嬢スーザンは、気難しい古生物学者のデヴィットを気に入って、つきまとうようになります。
デヴィットの方は何とかスーザンを遠ざけようとしますが、スーザンは粘り強くて……。
やがてデヴィットは、スーザンのおかげで人生の楽しみを知ることになります。
【移行の原則】
移行の蝶番となる「二つのシーンに共通する、あるいは対立する何か」の例として、著者は以下のようなものを挙げています。
☆「第3部ストーリー設計の原則 13 重大局面、クライマックス、解決」に続く
****************
脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。
****************
※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
Twitterアカウント @chiezo2222