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1階は本屋、2階は「まちライブラリー」。言葉と人が交差する語りの場

小鳥書房を訪れる人たちは、本を買わない。買わないどころか「悩みごと」を持ってきては置いていく。家庭の悩み、恋愛の悩み、仕事の悩み、人生の悩み、企画やアイデアの悩み…。本屋としてどうなの!とツッこみたくもなるけれど、新たな悩みごとが持ち込まれる瞬間が、店主である私も嫌いではないのだ。というかむしろ、そういう無遠慮な関係性をカウンター越しに築けることに微笑ましさすら感じているのだから、店として儲かるわけがない…。

インターン生のしずくちゃんは、小鳥書房にはじめて訪れた日のことを、こう振り返ってくれた。

「私はきっと、誰かに自分の話を聞いてもらいたかったのだと思います。
自分という人間のこと、その将来のこと、ウィズコロナの"今"のこと。
あらゆる不安を、ひっそり手渡しされた手紙のようなやさしさで、小鳥書房という空間が受け止めてくれました。このお店には、時計では計れない時間が流れているような気がします。それが私には、心地よく感じられました」

本屋という空間がそもそも受容する力がある場なのか、店主の個性ゆえなのかわからないけれど、ともかく感情を吐露できる場になれていることはうれしい。「本を読む」ことで感情や思考を日々揺さぶられるのだから、それを吐き出して形にする時間も必要だろう。そのお手伝いをすることもまた、本屋である小鳥書房の役割かもしれない。

本屋の2階に「まちライブラリ―」ができるなんて

一橋大学の名誉教授・林 大樹さんも、悩みごとを持ち込んでくれたひとり。「ちょっとお話、いいですか?」と、2020年の夏に小鳥書房を訪れた。林さんは当時、一橋大学にあるご自身の研究室に長年積まれた、大量の本の行き場に困っていた。そして、本をただ手放すのではなく、本を通したまちの居場所をつくりたいと考えていた。大学から離れて個人の立場でつくるので、場所探しや仲間探しもこれからひとりでしなければならない。行動していくなかで、もともと私と知りあいだった縁もあり、小鳥書房に寄ってみようと思ってくれたようだ。

当店にいらしたとき、林さんの手には賃貸物件情報のプリントが何枚も握られていて、「この物件なら手頃でいいと思うんですが、落合さんはどう思いますか?」と意見を求められた。プリントを見ると、国立市内ではあるものの駅からかなり歩き、マンション3階の狭小ワンルーム…といった物件ばかり。お風呂つき物件もあった。一般の賃貸物件なので初期費用も高くなるだろう。マンションの1室ではまちの人たちも利用しにくく、ほかの住人さんの理解を得ることも必須…。それらの物件では、まちの居場所として多くの人が愛してくれる場にはなりにくい気がした。

「うーん…。せっかくなら人が集まる立地で、駅から近くて、ある程度広さがあって、道に面しているほうがいいんじゃないですかね。たとえば小鳥書房の2階みたいな…」

「えっ、2階をお借りしていいんですか?」

「え?」

自分でうっかり口にしたくせに、林さんに食いつかれて一瞬たじろいでしまった。本を売っている本屋の2階に、本を売らない図書館ができたら、本屋の売上げが落ちてしまわないだろうか。いままでギャラリーとして貸していた分の利益もゼロになってしまう、と。考え込んだままふと顔を上げると、そこには期待感いっぱいの林さん。純真に輝くその瞳に、首を横に振る選択肢は豪速球で打ち砕かれた。考えてみたらうちの本屋はそもそも売上げがほとんどない!のだから全然問題ないし! もはやヤケクソだ。

「よかったら使ってください。いつからはじめますか?」

そうして、本屋の2階に「まちライブラリー」、という異色の2層構造ができたのだった。

偶然によって引き寄せられる交差点

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それから2か月後の2020年9月。「まちライブラリー@くにたちダイヤ街」は開室した。林さん念願の、本を通して人と人がつながる私設図書館の誕生だ。ささやかなオープニングセレモニーには、友人知人、小鳥書房のお客さん、通りすがりの人などが駆けつけてくれた。

しばらくは林さんひとりで運営していたけれど、スタッフになりたいと言ってくれる大学生が現れ、常連さんも徐々に増え、賑やかになっていく。大学生スタッフのあみちゃん&萌ちゃんによる「まちの小さな言論空間」という対話型イベントも、自然発生的にはじまった。そこでは年齢性別関係なく、さまざまな人たちが毎回異なるテーマについて話す。尊重しあいながら意見を交わすなかで互いを理解していく。

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小鳥書房のお客さんの層とは違う、まちライブラリーのお客さんが増えてきたことで、気づけば人の流れが交差するようになった。より豊かな会話が醸成されるようになり、場としての振れ幅が宇宙のように膨らんだ。

相変わらず本の売上げは少ないし、ますます悩みごとが持ち込まれる妙な本屋になったけれど、小鳥書房のあるべき姿がそこにある気がした。本を買う人も買わない人も、羽を休めて過ごせる場所。暮らしのなかに「、」を打てる場所。本屋を維持していく(経費の支払いに追われる)ことで見失いかけていた、「そうそう。こういう本屋をつくりたかったんだよね」という方向性を、まちライブラリーと林さんが思い出させてくれた。コロナ禍において逆風が吹き荒れるなか、2階を借りてくれる家賃によって経営的にも多少安定した。

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本との出会いは偶然で、かならず買いたい本に出会えるとは限らない。でも自分の家のように気楽に店の扉を開けてほしい。だから、必死に本を売らなくても続いていく本屋をつくれたら最高だ。そういうあり方を今後も模索していきたい。

必要なのは、ものやお金ではなく、言葉と人だと思うから。言葉と人が交差すれば会話が生まれる。いまこの瞬間にしか存在しない会話が、誰かの未来を変えていくかもしれない。

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冒頭で「小鳥書房を訪れる人たちは、本を買わない」と書いたけれど、もちろん毎回買ってくださる人もいて、そういうお客さんに支えられている。みなさんがいなければ廃業まっしぐらです。いつもありがとうございます。でもたまには、本を買わずに店主にクダを巻く日があったっていいんですよ。(とか言ってしまうから儲からないんだろうな…!)

店主おちあい


◆まちライブラリー@くにたちダイヤ街◆
https://www.facebook.com/machi.library.kunitachi/

◆まちの小さな言論空間◆

https://www.facebook.com/genron.1212/

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落合加依子が小さく営む出版社。「たったひとりが心から喜んでくれる」 本づくりがしたいと2015年設立し『ちゃんと食べとる?』 『モノポの巣』などを出版。 編集仕事に『怪と幽』ほか。小鳥書房文学賞を主催。文筆ファイター。 谷保の町で唯一の本屋と、地域に開いたシェアハウスも併設。