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インターンりゅーじん 2022.1.21

小鳥書房の店主・かよさんは美味しいホットチョコレートみたいな人だ。やわらかい甘さ、内側からじんわりあったまる感じ、そして味わいの底にちゃんといるビターさ。よく考えたらわたしはホットチョコレートなんて飲んだことなかったような気もしてきたが、とにかくそういう感じ。あったかくて親しみやすくて、でもちゃんと世の中の厳しさを通ってきている人。谷保駅のちかく、ダイヤ街の一角にあるお店に入ると、いちばん奥のカウンターの向こうにベレー帽の頭がちょっと見えていて、まもなく「こんにちは」と柔らかい声で迎えてくれる、そんな人。わたしは底冷えのする冬のある日に、そんなかよさんがいる、カウンターの向こう側で過ごす機会をもらった。
 開店準備を少しお手伝いしてから、カウンターの向こうにお邪魔してゆっくりと言葉を交わしていく。自分のこと、かよさんのこと、小鳥書房のこと、そしてこの場所と繋がっている色んな人たちのこと。この日は子ども向け書籍の制作をお手伝いするために、鳥についてのクイズをひたすら考えるお仕事をさせてもらった。もう十何年ぶりかで手にするいきもの図鑑と睨めっこ。なかなか暖房の温もりは届いてこないけれど、足元でかよさんと融通しあうヒーターの熱があたたかい。作業の合間に制作中のグッズのデザイン案を見せてもらってあーでもないこーでもないと考えたり、おやつにおいしいチャプチェをご馳走してもらったり。その日はほとんどお客さんも来なくて、普段オープンしている二階の「まちライブラリー」もおやすみ。ふたりでゆっくり静かに、決して広くないカウンターの向こう側で過ごすその時間がひたすら、心地良い。かよさんは「いつもはもうちょっと色んな人が来るんだけど」と少し残念そうだったし、実際お店である以上人が来ないのは悲しむべきことなのだけれど、この日のわたしにとってはこんな感じがいちばん、ちょうどよかった。
 書店のこと、本をつくる仕事のこと、街にひらかれた場所づくりのこと、そしてそういう色々が気になりつつ、どうしたものか唸っている自分のこと。そんな色々を鞄いっぱいに詰めて飛び込んだはずだった。でも、帰ってきたいま自分が手にしているものは、なんだかよくわからないけれど幸せな気持ち、そして新しい居場所ができた喜び、そして鞄いっぱいのおみやげたち。なんだか、軽くなった。よくわからないけれど、あそこに行けばかよさんがカウンターの向こう側に座っていて、「こんにちは」と迎えてくれる。しかもそこには本があって、本をつくるナマの現場があって、本が好きな人たちが集まってくる。おまけに、なんだかやたらと居心地がいい……。そんな宝物みたいな場所ができただけで、十分すぎる収穫だった。大豊作。

 カネコアヤノさんの音楽が好きだという話をしたら、「うちに来る人、カネコさんファンが多いんですよ」とかよさんは笑っていた。なんとなく、どこかに似たような雰囲気の人が集まってくるのかもしれない。ここでこれからどんな人に出会えるのか、とっても楽しみだ。何より、この日かよさんに貰ったものを、色んな形でお返ししていきたいし、何か自分にできることがあるなら力になりたい。だからまたここに来る。何ならすでに、すぐ翌日もお邪魔する約束をした。この日手をつけた作業の続きを、お手伝いするのだ。小鳥書房は、かよさんという人は、ひとにそういう気持ちを強力に湧きあがらせる、何かを持っている。

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そんな人に、お店に、皆さん出会ってみませんか。お金や利害だけじゃない、あたたかい繋がりにたくさん、ふれることができるはずですよ。年齢も、性別も、どんな素性や状況であっても大丈夫、きっとあたたかく受け止めてくれるはずです。実際、ボソボソ喋る背骨の曲がった怪しい男が「インターンをお願いした者です」とノッソリ入っていっても、この場所は当然のように受け入れてくれましたから。ね。


1日インターン生/2022.1.20
りゅーじん


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