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日本語を硏究する (3): 方言調査の種類

現行表記のタイピングはどうも齒應へが無く[*]、氣分がアガらないので、今囘(から數囘?)は舊漢字・舊かな遣ひで書きます。早速そっ閉ぢされないと良いのですが … 。

[*] 齒應への違ひを次に示します。(A2) のやうに打つ方が明らかに手閒取るのですが、どうにも已められません。

(A)
1. KEGONKYOU [けごんきょう] --> 華厳経
2. KWEGOMUKYAU [くゑごむきゃう] --> 華嚴經
(全くの餘談ですが、僕は [Y] の代はりに [J] を使ってゐます。)

(A2) のやうなタイピング (日本語入力法) に關心を持った方はこちらのサイトへ。千田俊太郎さん (ドム語 [パプアニューギニアで話されてゐる少數言語]、朝鮮語、日本語などの硏究者) が公開してゐるこの辭書をGoogle日本語入力に取り込めば、あなたもけふから舊カンジャー・舊カナーです。

前囘記事

前囘は、自宅でも利用できる日本語方言資料を擧げたのち (上の記事を公開した後ちに追記しました)、各地の方言話者に聞き取り調査をお願ひする方法を紹介しました。では、言語學者は方言話者に會って、何を調べて (或いは、敎はって) ゐるのでせうか。今囘から數囘はこのことを具體的に記していきます。

方言調査の種類

方言調査を調査項目の面から分類すれば、次のふたつに纏められるでせう。

(B)

  1. 語句の發音や意味を調べる爲の調査。こゝに言ふ「語句」とは、

    1. 發音ないし意味の面で共通語的語句とは異なるもの。たとへば、

      1. 'プラスチック' を意味する單語を「ぷらっちっく」と發音するか

      2. 'スターバックス' を意味する單語を「す↑た↓ば」といふ音調で (=「た」を髙く) 發音するか

      3. 「なおす」といふ單語を '物を所定の位置にしまふ' といふ意味で使ふか

      4. 散々語っておきながら、最後に「しらんけど」と附け足すか

    2. 發音や意味が現時點ではっきり分かってゐないもの。たとへば、

      1. 「ねぷた祭り」「ねぶた-」の現地發音。東北地方北部で話されてゐる傳統方言の發音を考慮すると、「ねんぷた-」「ねんぶた-」とも言ひさうだが、實際はどうなのか

      2. 「おとこども '男共'」「あくとーども '惡黨共'」などの「-ども」に對應する薩摩辯の /-dom/ (かな表記が難しいので、ローマ字表記で)。共通語的な「-ども」とは違って、次のやうにも使ふ。
        so-ge-n#kot-a#kyuu-dom-a#jo-ka-ga
        その-樣-な#事-は#今日-くらゐ-は#良-い-よ
        (上の例文では要素の切れ目 "-", "#" を對應させてゐます。)

  2. (B1) 以外を調べるための調査。たとへば、

    1. 或る方言を使ふ人の意識。たとへば、

      1. 「自分の母方言をよその人に聞かれるのは恥づかしい」といふ意識

      2. 「觀光客に〇〇縣らしさを感じてもらふために、縣外では通じない (場合によっては、自分たちも今は使はない) 方言語句を空港や土産物屋に掲げておかう」といふ意識

    2. 或る方言に對する印象。たとへば、

      1. 「あそこの方言は喧嘩してゐるやうで、恐ろしい」といふ印象

      2. 「京都の方言はハンナリしてゝ、品がえゝわあ」といふ印象

      3. 「博多辯、激萌え」といふ印象[*]

    3. 或る方言に纏はる思ひ出や出來事。たとへば、

      1. 「1950年頃は、學校で方言を使ふことが禁止されてゐた」といふ思ひ出

      2. 「ある土地に轉勤族が増えた結果、そこで話されてゐた方言が殆んど消えてしまった」といふ出來事

[*] 餘談ながら、實際に萌えてゐる對象は、自分が接した博多辯話者だったり。

方言調査の難易度

「(B1) の硏究こそが言語學」と考へる人もゐるでせうが、言語學はそんなに狹い學問ではありません。個人的には、(B2) の硏究を上級言語學と見てゐます。(B1) のやうなことを (更には、社會狀況や地域史も) 知らなければ、(B2) のやうなことは調べられないからです[*]。

[*] 困ったことに、現實には、(B1) を調べられないやうな人が、表面的な分かり易さに釣られてか、いきなり (B2) に挑戰して、殘念なことを言ってゐたりします。

僕の調査項目はもっぱら (B1) のやうなものです。(B1) を調べてゐる最中に (B2) を偶然知ることはありますが、(B2) の調査を中心に置いたことは有りません。よって、以降は (B1) に絞って、解說を進めていきます。

つゞく

しご]た ちん]ちん そつぁ たん]たん。もろ]た ぜんな] そつい] かえ]て [に]かと かっ とっの] がそりん]に しもん]で '仕事はテキトー、酒はグビ〴〵。貰った錢は酒に替へて、新しいのを書く時のガソリンにします' 薩摩辯 [/]: 音高の上がり/下がり