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『膝枕外伝』 短編小説 「幽浜」

 こんにちは、ノアです。

 今回の作品は今井先生の膝浜を創作させていただきました。なるべく簡潔にまとめようと試みましたが、書いてるうちにどんどん想像力が膨らんで、いつか間にか結局長くなってしまいました。

 これは食べ放題でバイキングに行って、あれもこれも食べたいと言って思わずとり過ぎてしまう感じです。つまり収拾がついてない状態なのですよね?笑勢いと幽☆遊☆白書への愛、プラス今井先生のご好意で書いてます。

 よってノアの文章が長いと思ったら、適度に飛ばして読んで下さい。今回も(いつもですいません)温かい目で見守って下さい。よろしくお願いします。

「おい、いつまで寝てるんだ!※1さあ、お仕置きの時間だ!俺を怒らせた罪は重い」

 と蔵馬は言って、勢いよく飛影の布団をはぐ。  

「お前、誰に向かって口聞いてやがる?」

小柄のツンツン頭の男は、不服そうに答える。 

「お前だよ。オ・マ・エ。飛影、とっと起きて働け!」 


蔵馬は端正な顔を歪めて言った。 彼は毎朝続くこの不毛なやりとりにうんざりしている。

「ほー。貴様。命はいらないようだな。※2邪眼の力を舐めるなよ!炎殺、黒龍波!!」

 しびれをきらした飛影は、3つ目を開けて必殺技の体勢に入ろうとする。

「単細胞バカ(飛影)はこれだから困る!」

 冷ややかな目つきで蔵馬は飛影に鋭く言い放つ。

「仮に渾身の力を振り絞って黒龍波を放って、俺を丸焦げにしたとしてもその後どーなる?人間界から永久に追放されるだろうな。いやそれどころか地獄の中でも最も過酷な冥獄界に落とされるだろうな!一万回かけて苦痛を与え続けられ、それを一万回繰り返す。そして最後に待ってるのは完全なる無だ。まあお前の最後にはふさわしいかも知れないが。雪菜ちゃんが気の毒だな!」

しみじみとした口調で蔵馬が言った。

「この卑怯者め」

「※3褒め言葉として、受けとっておこう。ちゃんと頭を働かせてよく考えてみろ!今は地味に人間のふりをして普通の生活をしていた方が、お互い得だろ?お前は※4雪菜ちゃん、俺は母さんを見守る目的でお互い合意してここで暮らすことに決めただろ!そうと決まれば善は急げだ。今日もお仕事、頑張って。飛影」

この言葉にはさすがの飛影もぐうの音も出ない。思わずいたたまれなくなり、手で顔を覆う飛影。どうやら蔵馬の方が一枚も二枚も上手である。指さずめ女房の尻に引かれている亭主と言ったところか。

「あー!分かったよ。行きゃあいいんだろ?どこに朝から真面目に働く魔族がいるんだよ」

ここにいるだろ」

右手の人差し指で飛影を指す。そして次に手順よく左手で膝枕を磨くヤスリを飛影に渡す。余裕の笑顔で蔵馬は浜に行く飛影を見送る。

 もう既に皆さん、ご察しの通り彼の職業は膝枕職人。彼の腕は日本一なのである。そうこれには海より深い理由がある。ほぼ毎日蔵馬に強制的に起こされ、働かせられているからだ。本来彼はプライドがエベレストよりも遥かに高い。無論人に命令するのは大好きだが、人に命令されるのが大嫌い。でも今は雪菜の為、蔵馬の言うことを聞くしかない。だからこのやり場のない怒りを仕事に向けるしかなかったのだ。それはまるでバーサーカー(狂戦士)の如く、もの凄いスピードで仕事をこなしていった。毎朝浜に行って一心波乱に膝を拾ってきて、それを飛影は器用に加工して見事に様々な細工膝枕を完成させた。そういう訳であっという間に彼は一流の膝枕職人になっていた。彼の作る膝枕は種類も豊富である。まず飛影の黒滝波膝枕は、かっこよく黒い龍がお洒落に刺繍されているので、男性に大人気。この膝枕を持っているだけで、自分が強くなったようなヒーローの気持ちになれるのだ。更に一部のマニアな大人の女性には、幽助の母さん膝枕が大人気。元気がない時に、気合いを入れてくれる。彼女を見てると小さな事で悩んでいる自分が馬鹿らしくなってくるのだ。もっとコアはファンには※5桑原の姉さんの膝枕なんて物も売れている。

しかし何と言っても不動の1番人気は蔵馬の膝枕。年齢層も幅広く女性に愛されている。膝枕界のプリンス、現代の俳優に例えると※6北村匠海君と言ったところか。絶妙の沈み込み、華やかな甘い香りの中に爽やかさがある。1度寝たら魔力に取り憑かれたみたいに、なかなか起きることが困難になる。新たな膝枕廃人続出である。

 ある日の朝いつものように蔵馬に起こされ、ふてくされて浜に行く飛影。朝日の光に思わず、目を細める。(全く何で俺が?こんな健康的な暮らしを?これも雪菜の為)呪文のように心の中で繰り返す。すると心の声が神様、いや閻魔大王に通じたのだろうか?海面に何かぷかぷかと浮いている物体があった。飛影はそれが何であるか既に分かっていた。それは漆黒の膝枕だった。彼はそれを身見るとスイッチが入った如く俊敏な動きで黒い膝枕を丁寧に拾うと、他の膝枕には目もくれず、一目散に自宅に帰って来た。勢いよく玄関に辿り着き、蔵馬をスルーしようとしたが、そうは問屋が卸さなかった。

「おい、随分早いお帰りじゃないか?お前が手にしている膝枕は何だ?」

 そこを鋭くつっこむ蔵馬。飛影は明らかに動揺している。

「‥‥こ、これは何でもない。不良品だ!ガラクタ当然の膝枕だ。二束三文の価値しかない。お前には関係ない!」

 どうやら飛影は嘘をつくのが苦手なようだ。思い切り関係ありますと顔に書いてある。その証拠に額に汗を掻いている。この様子に蔵馬は飛影を見て怒るより、笑ってしまった。人は嘘をつく時、普段よりも多弁になる。

「‥うん。明らかにこの膝枕が重要な物だと、お前の顔が語ってるが!ちょっと確かめたいので見せてもらうよ」

蔵馬はスムーズに飛影の手から話して、じっくり自分の目で観察する。

「これは結構な膝枕だな」

「俺が拾ったものだ。だから当然俺の物だ!」

飛影は悔しそうにぼやく。そうその結構な膝枕とは閻魔大王の膝枕だった。閻魔大王の膝枕は何と?300両。ざっくり計算すると当時の1両が今の10万円なので3000万円の価値があるのだ。

「とりあえず、これは俺が預かる。ここに置いておくとお前がくだらないものに使ってしまい、あっという間に無くなってしまうのが目に見えている!猫に小判。豚に真珠ってとこだな」

そう言いながら蔵馬は閻魔大王の膝枕を抱えて、大家さんのところに足早に向かった。ピンポンと呼び鈴を押す。 

「ワシに何の用じゃ?」 

中から人間の姿をした※6 コエンマが答えた。イケメンだが、口に咥えているおしゃぶりが玉にキズである。これは万が一の時にエネルギーを使う※7魔封環の為、こればかりは仕方ない。

「今日は大家さんに頼み事があって参りました。実はこの閻魔大王の膝枕を預かって欲しいのです」

貢物を献上するように蔵馬が、コエンマに閻魔大王の膝枕を渡す。 

「この膝枕はウチのバカ(飛影)が浜で拾ってきたものです。お恥ずかしい話なのですが、ウチに置いておくと、この枕をお金に換金して、当分働かないでしょう!そしてそのお金はあっという間に無くなってしまいます。この膝枕は300両の価値がある、高価な膝枕。これは大家さんに預けるしかないと思いました。すいませんが、よろしくお願いします」

頭を深々と下げる蔵馬。

「よし、分かった!そう言うことならワシに任せておけ!」

ぽんと胸を叩いて、快くコエンマは、鞍馬の頼みを引き受けた。

「お前も色々と気苦労が耐えんな。でもアイツ(飛影)と暮らすことは、まあこう言う事だろう」

しみじみとコエンマは言った。

 さてこの物語もそろそろ終幕。これにて一件落着といきたいところだが、もう少しだけ続くのである。

 今日もいつものように朝がやってきた。蔵馬は飛影を起こす。ここまでは同じパターン。しかし今朝は珍しく蔵馬が言葉を濁した。

「ちょっといいにくい話があるのだが」

「んっ?何だよ!今更俺に隠し事もないよな。用件があるなら、とっと話せよ!俺はお前のせい(コエンマに閻魔大王の膝枕を預けたせい)で真面目に仕事しなきゃならないんだからな」 

「分かった。お前がそう言ってくれると俺も話しやすい。実は1つ、細工膝枕の注文がある。とある女性からなんだ」

飛影は首を捻った。本当に心当たりがないらしい。

「あのなあー。1つぐらい仕事が増えたってどうってことねえよ!.ーで誰からの依頼だ?」

「雪菜ちゃんからだよ。随分長い間、兄に会ってないから、お兄さんの膝枕がほしいって!もう兄の顔さえ、うろ覚えらしい。」

飛影の顔が何とも言えない表情になった。

「お前の膝枕が欲しいって!こりゃ傑作だ!どーする?飛影先生?」

笑いながら蔵馬は飛影をからかった。

 思いがかず、とんでもない難題が飛影を襲う。彼は雪菜の双子の兄だが、諸事情によって雪菜に正体を隠して彼女を見守っているのだ。さてこの難題を彼はどうやってのり越えるのか?その話はまた別の機会に?それともこのまま謎のまま終わるのか?それは今は分からない。  完

※1 蔵馬の名台詞 ※ 2飛影の名台詞

 ※3 銀河英雄伝説 ロイエンタールの名台詞(作品違くてすいません。作者が銀英伝とロイエンタールが好き過ぎて書いてしまいました)     

 「卑怯者」← ロイエンタール「褒め言葉として受け取っておこう」 

※4 雪菜は飛影の双子の妹。諸事情があって彼女には自分の正体を隠して、遠くからそっと見守っている。 

 ※5 桑原は(幽☆遊☆白書主人公幽助の自称永遠のライバルであり、大事な仲間) 

 ※6 君の膵臓が食べたいで一躍有名になった北村君。DISHのボーカルでもある。ヒット曲は猫。2023年幽☆遊☆白書のドラマで主人公浦飯幽助(うらめしゆうすけ)を演じる。

※7  閻魔大王の息子。 霊界探偵をしている幽助の上司。

    







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