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『解体屋ゲン』 #60 小さな小さな障害(三)

この頃よく出てくるエピソードとして、仕事がなくて苦しい、夜逃げ、合併や倒産などがあります。タイトルのグラフを見てもらえば分かる通り、建設業は1990年代をピークとして縮小傾向にあり、『解体屋ゲン』がスタートした2003年がほぼ底、その後は横ばいでした。

(リンク先で無料で読めます)

ところが…

これは昨年末のボーナスの記事ですが、建設業は全産業トップ(2位は自動車)なんです。今の日本でこれほど景気の良い業界って、訪日観光客の増えている旅行業界かAI(人工知能)をはじめとする一部のIT業界くらいじゃないでしょうか。

皮肉なことに2011年の東日本大震災に伴う復興需要により公共工事に2兆円以上が投入され、建設業は息を吹き返しました。

横軸が平成なので見づらいですが、2011年は平成23年、息を吹き返したとはいえ建設投資額は全盛期の4割減です。それで全産業のトップということは…


もしも建設業全体の景気が全産業トップなら、今の『解体屋ゲン』は現状との乖離が激しくてとても読めたものじゃなくなっている筈です。でも、Amazonの評価を見る限りそんなことはなさそうです。

もちろん読者には建設業以外の人も沢山います。つまり『解体屋ゲン』が今でも普通に読める…ということは、何を意味しているのか。

上記のボーナスの記事ですが、「東証一部上場、従業員500人以上の大手企業。建設業の調査対象は夏が6社、冬が8社」の平均です。つまり建設業のトップ中のトップ(0.3%)の平均であり、建設業の実態を示したものではないのです。

中小企業、零細企業に関して言えば、この20年間生活はまったく楽にならず…それどころか非正規雇用が増えつづけ、年金の支給はどんどん先延ばしにされ、税金・公共料金は値上げを続け、労働裁量性という名の元に残業代がカットされ(仕事だけが増え)、もう勘弁してくれ!という状況がずっと続いている、ということではないでしょうか。


非正規雇用者は20年で2倍に、高齢者の非正規雇用が一番増えています


単純にお金の問題だけではないのです。社会全体の締め付けが厳しくなり、(漫画を含む)色んな表現に規制が掛かり、諸外国の政治的なニュースは報道されず、知らず知らずのうちに洗脳されてゆく。

私は漫画業界で生きているので漫画の話しか出来ませんが、みんなが気づかないうちに(あるいは気づいているけど)漫画の多様性、社会性はどんどん失われていっていると思います。現代社会の問題点を描く漫画、批評性のある漫画はどこへ行ったのか。それはあるいは『ガロ』みたいな雑誌がその一部を担っていたように思いますがそれももうない。出版社に余裕がなくなり、単行本が売れる作品を優先する結果、その時代時代の流行を追いかけるようになり、類型化してゆく。

かと言って、『解体屋ゲン』がその役を担えるとは到底思えません。私達は最初からそんなつもりで書いていません。仕事帰りの労働者が缶ビールと一緒に買って帰り、風呂上がりにペラペラ頁をめくりながら「ゲンさんたち、またバカやってるよ」と言ってもらうために作品を作ってきました。

でも気づけばいつの間にか社会や政治を扱う漫画がどんどん淘汰されてしまい、どんどん姿を消していっているのが今の状況です。これを危機と言わずしてなんというのか。

おかしなことに、ちょっと社会的な内容を入れると「漫画に政治を持ち込むな!」みたいなことを言う人が常に居ます。

この程度の内容でも「作者のエゴなんて見たくない」みたいな意見が聞こえてきたり。いやいや、選挙も消費税もゲンさんたちの身近な問題です。しかも商業誌という枠組みの中で、自分の主張など見えなくなるくらいに何倍にも希釈した内容です。

Web漫画全盛の時代になったからこそ、もっと色んな漫画があっていい。私は自分のたちの生活、社会保障、選挙制度、労働条件、安全保障、天皇制、世界の枠組み、未来の日本について描かれたエンターテイメントの漫画が読みたい。そう強く願うのです。今回も内容に一切触れませんでしたね。<続く>


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漫画原作者星野茂樹です。現在『週刊漫画TIMES』にて「解体屋ゲン」(作画:石井さだよし)を連載中。他に『ことなかれ』(作画:オガツカヅオ)など。
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