囚人のジレンマとは何か?原因や適応例も解説。試験やレポートにも役立つ!



問:囚人のジレンマについて、150字以内で説明しなさい。






ダメな解答例:
囚人がジレンマに陥るんじゃない?知らんけど。





解答例:
囚人のジレンマとは、ゲーム理論の一つで、個人の最適化を図ろうとした選択が、結果として全体の最適選択とはならないことを示唆するものである。別室で尋問される二人の容疑者の例からこう呼ばれる。個人が自らの利益のみを追求している限り、必ずしも全体の合理的な選択に結び付くわけではないことを示している。(146字)


《囚人のジレンマの代表例》

 囚人のジレンマの説明としてよく用いられるのはこのような例である。

同一の事件で逮捕された2人の囚人が、互いに意思疎通をできない牢獄にいる。そこで2人に対し、個別に提案を出される。「自白すれば司法取引※1により釈放されるが、もう1人も自白した場合は2人に懲役3年が科せられる。1人が自白し、もう1人が黙秘した場合、自白した者は釈放され、黙秘した者は懲役5年が科せられる。また両方が黙秘した場合は、懲役1年が科せられる。」※2

※1 司法取引
他人の犯罪を明かす見返りに、容疑者や被告の刑事処分を軽くすること。アメリカでは一般的であるが、日本においては2018年6月から施行されたばかりの制度である。

表にするとこのようになる。

画像1


※2 懲役の年数に関しては大した意味合いは無いので、大小関係が分かれば多少変わった例が出ていても問題ない。5年でも10年でも50年でも同じ結論に達する。

 この場合、全体としてみれば、2人の囚人の黙秘による懲役1年(左上のマス)が最適な選択であるのは明らかであるにも関わらず、自白をした場合、自分にとって釈放という最適化があるため、自白か黙秘かの選択にジレンマが生じてしまう。
個人にとって最適なのは、自分の自白と相手の黙秘によって釈放されることである。しかし、相手も同じことを考えて自白してしまうと双方に3年の懲役が科せられる。その一方、もし自分黙秘し相手も黙秘した場合、双方が自白した場合の懲役3年より短い懲役1年となる。しかし相手が自白した場合、自分にとって懲役5年という最大不利益を被ってしまう。


《パレート最適》

 誰も不利益を被ることなく、全体の利益が最大化された状態(それ以上利益を出すためには誰かを犠牲にしなければいけない状態)を「パレート最適(またはパレート効率性)」と呼ぶ。
囚人のジレンマの場合は「お互いに黙秘を貫いて懲役1年で済ませること」がパレート最適である。


《ナッシュ均衡》

 ナッシュ均衡とは、ゲーム理論において、プレイヤー全員が互いに最適の戦略を選択し、これ以上自らの戦略を変更する動機がない安定的な状態(均衡状態)になるような戦略の組み合わせのことをいう。数学者ジョン・フォーブス・ナッシュによって考案された。

 個々のプレイヤーの立場で考えてみると分かりやすい。容疑者Aの気持ちで考えてみよう。Bがどう行動するかがわからないのであるが、仮にBが黙秘するのであれば、自分が自白すれば釈放される。また、Bが自白してしまうのであれば、自分だけ黙秘して懲役5年になるのは馬鹿らしい。お互いに自白して懲役3年にした方が賢明だろう。このように、Bがどのように行動したとしても、Aにとっては自白をするメリットがある。
 そしてそれはBの立場から考えても全く同じことが言えるのである。つまり、ナッシュ均衡はお互いが自白するという右下のマスに存在する。個々のプレイヤーが極めて合理的に判断した結果、パレート最適は実現できず、非効率的な結論に達してしまうところが“ジレンマ”なのである。ナッシュ均衡とパレート最適は必ずしも一致しない。


《情報と信頼の不足》

 個々のプレイヤーが合理的に判断した結果、全体として見ると非効率的な結論に達してしまうということがこの理論の中心であるのだが、どうすればこの非効率を解決できるのであろうか。
 例えばこの二人の囚人がお互いに連絡を取れる状態であれば、「双方黙秘」という結論に達する確率は上がるだろう。また、日頃からとても密接な信頼関係が築けていれば、お互いの黙秘を信じることができるかもしれない。あるいは、釈放後もこの二人は協力関係を維持しなければならないのであれば、自分だけが自白するという裏切り行為を選択することは難しい。
 情報と信頼が十分にあり、長期間に渡る協力関係の構築ができれば、このジレンマを解消できる可能性が高まるのである。



《現実の政策課題とゲーム理論》

 経済学において囚人のジレンマが適用されるのは寡占市場の値下げ競争の例である。寡占状態の企業がシェアを獲得しようとして値下げをすると、他社も同様の戦略を取り、原価割れギリギリまで値下げをしてしまうというものである。
 この他にも、例えば地球温暖化対策としての温室効果ガス削減にも似たようなことがいえる。関係各国は環境汚染を顧みずに利潤追求をすることも、積極的に環境対策をすることもできるとして、関係各国が協力してみんなで不便を我慢してみんなで削減努力をすればパリ協定の環境目標くらいはすぐに達成できるのであるが、現実にはなかなか対策が進まない。相手国が環境対策を頑張ってくれれば自国はその恩恵を受けつつ利潤追求をすることができ、相手国が利潤追求をすれば自国だけが環境対策をしていると経済的に不利になる。相手国がどう出ようと自国が環境対策を頑張ることで得にはならない。それは相手国から見ても同じことであり、結局は環境対策を頑張らないということになる。環境対策を頑張らない方にナッシュ均衡があるのである。
 多数者が利用できる共有資源が乱獲されることによって資源の枯渇を招いてしまうという経済学における法則であるコモンズの悲劇(共有地の悲劇)も似た概念である。たとえば、共有地(コモンズ)である牧草地に複数の農民が牛を放牧する。農民は利益の最大化を求めてより多くの牛を放牧する。自身の所有地であれば、牛が牧草を食べ尽くさないように数を調整するが、共有地では、自身が牛を増やさないと他の農民が牛を増やしてしまい、自身の取り分が減ってしまうので、牛を無尽蔵に増やし続ける結果になる。こうして農民が共有地を自由に利用する限り、資源である牧草地は荒れ果て、結果としてすべての農民が被害を受けることになる。また、牧草地は荒廃するが、全ての農民が同時に滅びるのではなく、最後まで生き延びた者が全ての牧草地を独占する。このことから、不当な値下げ競争による市場の崩壊とその後に独占市場が形成される過程についても、コモンズの悲劇の法則が成り立つ。これも、関係者がお互いに情報交換と信頼構築、ルール設定をすれば解決することではあるが、口で言う程簡単ではない。
 戦略的な市場の課題だけでなく、公共的な課題にも囚人のジレンマを始めとするゲーム理論は応用されるのである。



※ワンポイントアドバイス

理論自体はそれほど難しいものではないのですが、適用例が非常に多岐に渡るので一つ一つ整理しながら頭に入れていきましょう。全体としての最適かという視点と、アクター個人だったらどうするかという視点を同時並行で考えることがポイントです。

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大阪大学中退、京都府立大学卒業。得意分野は経済学、社会学、政策学。 かっちりとした学術系からエッセイ色強めのものまで、幅広く書いていきます。 普段は服屋で服を売っています。 勉強するのに理由なんかいらない。素直に学びたい人を素直に応援したい。

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