今日がその日。

初めて会った時、きっと私は君を好きになることを知っていた。
君には言えなかったけれど、「一目惚れだった」って笑う君とずっと同じ気持ちだった。


夏の終わり、この街で一番大きなお祭りで私と君は出会った。
小さな街の、全校生徒が180人ほどしかいない学校で、これまで出会わなかったことが不思議だった。
私は高校一年生、君が高校三年生の受験の夏だった。

観光協会の手伝いでうちわ配っていた私のところに、部活の先輩と君が来た。初めまして、名前は、きっとそんな程度しか話していない。
塾の合間をぬってお祭りに来たはずなのに、君はうちわを売るのを手伝ってくれた。君を連れてきた先輩はとっくの前にどこかへ行ってしまったというのに。

あの時君と何を話したかは覚えていない。
なんとな自己紹介の続きをしたり、街のことを話した気はするけれど。

最後の花火が上がって、お祭りが終わった。
寮生だった私はその日だけ遅めに設定された門限に間に合うように急いで坂を登った。なんとなく、ふわふわした気持ちの中に、君の存在が残っていた。

お祭りの熱気が冷めないままに、同じ部屋の先輩と話をしていた。
その頃私には気になる相手がいた。ただ外見がタイプだった。
だけど、君と出会ってから頭から離れなくなって、どうしようもなく仲良くなりたいと思った。
悶々としている私を横目に、携帯を触りながら先輩は言った。
「LINEしちゃえばいいじゃん。」

そこからは一瞬だった。


毎日、LINEをする。電話もするようになった。
いつの間にか名前の呼び方が変わった。
二人だけの呼び方で、友達にだって言わなかった。
敬語から、タメ口混ざりの敬語に。
気付いた時にはタメ口でしかなかった。

電話だけじゃなくて、直接話すようにもなった。
とってもシャイな君は学校で話しかけられたくなさそうだったから、塾の休憩時間に外で話すようになった。
星が綺麗だねって、君と何回話したか覚えていないくらいに何度も。

受験勉強はどう?
そっちのテストは何点だった?
そんなありきたりな話。

いつも通り、外に出た日。
君はわかりやすくらいに緊張していた。
なんとなく察してしまったけれど、気づかないふりをして君に返事をした。
まっすぐ私と向き合ってくれる君を大切にしたいと思った。


毎日は、相変わらずだった。
変わったことは、「好きだよ」の言葉が増えたこと。
手を繋ぐようになったこと。

部活をしていた私と、受験勉強漬けの君。
会えるのは塾の休憩時間と、テスト期間の放課後、それから夜。
私の寮の門限ギリギリまで一緒にいてくれたね。
夏に出会った君と、寒くなっても一緒にいられることが幸せだった。

シャイな君は、なかなか面と向かって言葉をくれなかったし、
写真も一緒に撮ってはくれなかった。
想像していた青春とは、また違った世界だった。

あの頃の私は、君に求めてばかりだったと思う。


君が進学して、遠距離恋愛になった。

最後に会った日、君が泣いたことに驚いたのを今でも覚えている。
でも、大丈夫だと思っていた。
いつか、また一緒に過ごせる日が来ると。


遠距離恋愛。私は島で、君は本土。
なかなか会える日はなかったし、君は少し特殊な進学だったから連絡だって週に2回あればいい方だった。

頑張る君の声を聞いて、何度も頑張ろうと思えた。
勉強だって、部活だって、君に頑張ってる自分を見せたかった。

記念日には手紙が欲しいという君に、手紙を書いた。
いつの間にか、何も見なくても君の住所をかけるようになった。


でも、いつからかどこかすれ違っていた。
優しすぎる君と、求めてばかりの自分、終わりのない遠距離。


君と離れることを決めたのは、君と出会って2年目の冬だった。
嫌いになったわけではなかった。
でも、このままの関係にどうしようもできなかった。

好きってなんだろう、と
今だってわからないことを考えていた。


あれからもう少しで、また2年が経つ。
未練があるわけではないけれど、この2年間好きな人はできていない。

君との思い出はまだまだ鮮明に思い出せるし、
最近の便利な機能が君のことを思いださせる。
Googleカレンダーが君の誕生日をリマインドしてきたり、LINEのキープ機能に君からもらった言葉が残っていたり。

足だけ入って、何時間もぼーっとしていたあの海。
寒くても、手を繋いで一緒に座っていたベンチ。
いつもぎりぎりまで一緒にいてくれた寮の裏道。
何度も星を見ていた、塾の前。
遊びに来た君を見送った、新大阪駅のホーム。


もう戻れないことを知っている。

よかった、幸せな恋だった。
大好きな人に、大切にされることがこんなにも、
こんなにも愛おしいことなんだと
教えてくれたのは君だった。

確かにあの頃の私はまだ17歳で。
子どもだったけれど、それでもわかった。


今も元気にしているといいな。
君が大事にしたいと思える人に出会っているといいな。

君からもらった時計が、なぜか動かなくなった。
きっと、これが本当の最後なんだと思った。

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