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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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2021年9月の記事一覧

《新古今集》ワンワールド

《新古今集》ワンワールド

行く末は空もひとつの武蔵野に草の原より出づる月影
       (新古今集・秋歌上・422・藤原良経)

 野に立ちぐるり見渡すと、360度の地平線。草原が彼方まで広がり空と接し、目線の高さに月が出ます。

 大きな大きな風景です。
 この歌の現場は武蔵野でなければなりませんでした。京の周辺は山がちですし、巨景が望めそうな北海道には京文化が及んでいません。そんな日本で遙かな地平を見渡す世界といえば

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《新古今集》有家の稲妻

《新古今集》有家の稲妻

風わたる浅茅が末の露にだに宿りもはてぬ宵の稲妻
        (新古今集・秋歌上・藤原有家朝臣)

 稲妻を歌う歌だ。
 稲妻の何が歌になるだろう。光?恐ろしさ?豊穣?

 歌人が歌にしたのはその刹那だ。雲がこすれて蓄えられた力が大地に向けて放出された光。その刹那の、短さ。せつなさ。

 稲妻の存在する時間は短い。その存在は短いから、風に吹かれて消えゆく露にさえ、宿り果てる、つまり最後まで宿るこ

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《新古今集》西行の夕立

《新古今集》西行の夕立

よられつる野もせの草のかげろひて涼しく曇る夕立の空
              (新古今集・夏・西行)

 雨が降ると、降られた僕たちには何かボンヤリした憂鬱が共有されます。でもそうはならない雨もあります。驟雨やにわか雨、村雨なんて呼ばれる雨たちです。近年ではゲリラ豪雨という概念に含まれてしまった気もしますが。
 夕立もそうした雨の一つです。急に曇ってざあっと降り、すぐさま降り止んで、夜が来る前に

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〔新古今集〕琵琶湖と月の和歌

鳰の海や月の光のうつろへば波の花にも秋は見えけり
           (新古今集・秋歌上・藤原家隆)

 9月に入り、暑さが少し和らぎました。夜の静けさも何か少し深まったように感じます。

 静かな秋の夜には月が似合います。中でも水面と月の取り合わせは静かさの中にも華やかさがあるようで、僕が一番好きな風景の一つでもあります。

 歌。
 「鳰の海」は琵琶湖の別称です。穏やかな水面が視界いっぱいに

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