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Spotifyで話題のkolmeとリミックスでコラボした、制作者的セルフライナーノーツ。

2月22日(金)、現在10代〜20代を中心にSpotifyで話題となっている女性3人組ユニット「kolme」さんと、リミックスという形でコラボレーションを果たしました。

彼女たちは作詞作曲に止まらず、ダンスも自分たちで考えて表現活動を行う非常にアクティブなユニット。22歳のメンバーの皆さんが、ステージで表現する姿に心を打たれ、今作のアイデアにも大きく影響を受けました。

そして、楽曲はこちら。彼女たちの2018年リリースシングル「Hello No Buddy」を、Spotifyで注目されているプロデューサーたちがリミックスする、というこの企画。僕は最後のリリースとして楽曲が世に放たれました。

早速!この楽曲はSpotifyの人気公式プレイリスト「J-Tracks: Brand New」に入れていただきました。そして今回、僕が参加した楽曲では初めて、Apple Musicのプレイリストにも入っています。

なお、3月には他のプロデューサーの皆さんのリミックスもまとめたアルバムが発売になります。DE DE MOUSEさん、Yunomiさん、MATZさん、Aiobahnさんと立ち並ぶ人気プロデューサーの方々のリミックスも是非聴いてみてください。(それぞれのバージョンは既にリリース済。)

今回はavexの皆さまのご協力もいただきながら、この曲を作った際に意識したこと、工夫したことなどをセルフライナーノーツとしてご紹介しようと思います。kolme好きの方も、DTM好きの方にも是非読んでいただきたい記事です。ご一読ください。

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なお、本記事の基本構成は僕自身の主観によるものです。レーベルからのご依頼でプロモーション責務を背負っているわけでもなく、あくまで自発的に、音楽プロデューサーであるKotaro Saitoの尺度に準じて書き進めます。

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原曲の印象から導き出した齊藤的ゴールイメージ。

まず、よろしければ是非原曲を聴いていただきたいです。

この楽曲を最初に聴いた時、僕は「横ノリのグルーヴがとても気持ちいい楽曲だなぁ。」と直感的に思いました。フィンガースナップのグルーヴが拍より少し遅れ目に鳴る、心地の良いビートが印象的なこの曲。20代前半のkolmeさんが、自身の意図をしっかり持って制作に参加している姿勢を強く感じました。まず、そこに多大なるリスペクトの念を抱きました。

僕はどんな楽曲を作る時も、まず「元となる才能や楽器、素材の魅力は何なのか」をとても強く意識します。今回で言えば、このグルーヴ感と彼女たちのストレートで等身大の表現に満ちた歌声がその根本にあり、僕から見て「大人っぽくしたいであろう、10代〜20代特有の背伸び」に感銘を受けました。(実際kolmeの皆さんにそう聞いたわけでも話したわけでもなく、単に僕の感想です。)

僕がせっかく関わるからには、より大人びて洗練された印象を、彼女たちの個性を基調に、より活かす形でサウンドとして形にしたい。と強く思いました。そのために僕ができるであろうことを意識した時に、

・引き算による「粒立ち」を狙う。
・1音1音が気持ちいい、「最高の音色」を求めて。
・リズムの押し引き。
・初春の空気を醸し出す。

という狙いを自分の中で持ちました。これらをどうやって構築していったかを、これから順に書いていこうと思います。


引き算による「粒立ち」を狙う。

リミックスということなので、僕自身が解釈したこの曲の魅力を形にしていくために、「強いメロディを際立たせる」というアプローチを試しました。原曲でないと言う強みを活かすべく、大胆にサビのメロディを割愛させていただきました。「Hello No Buddy」というタイトルをしっかり頭に焼き付けていただこうというのが狙いです。

また、昨今の世界照準型のポップミュージックで使われている、「シンプルなコードに若干のテンションを乗せたリフのループ」という定番アプローチを今回のリミックスに活かしました。もともと、J-POPならではの良い意味で複雑で彩り豊かなコードワークが魅力のこの曲を、

4度(D flat)→5度(E flat)→6度(Fm7)

という極めて定番的でシンプルな構造に作り変えつつ、4度と6度にテンションコードとして9thを乗せた形で、シンプルながら飽きのこないコードワークを意識しました。僕としては「テンションの乗せ方」が曲のクオリティを左右する、と思っています。

なぜならば、コードワークのループだけでも「ずっと聴いていて心地よく、飽きないもの」か超重要だからです。それを叶えられるかどうかは、根本のコード進行における「一般的な期待感」「外さない程度の軽めの”裏切り”」のバランスの妙だと僕は考えています。

もちろん、そこにどれだけ工夫したとしてもずっと同じだと飽きがきます。そしてそんな風に思っていただきたくないので、数多の趣向を凝らします。その点については次章にて。


1音1音が気持ちいい、「最高の音色」を求めて。

これが、今回僕がアレンジした"Hello No Buddy"のリミックスセッションです。僕は特に深い理由もなく、DAWを本格的に始めた頃からずっとPro Toolsで楽曲制作を行っていて、この画面はミキシングエンジニアの鎌田岳彦さんにお渡しする直前の状態のセッションデータです。トラックカラーは上から

ピンク:ボーカル
グリーン:ギター
イエロー:ピアノ、エレピ
ブルー系:シンセ(水色はバッキング、青緑はリード)
パープル:ベース
レッド:ドラム
ネイビー:Fx

という並びで作っています。ご覧の通りですが、僕は基本的にソフトシンセをそのまま使いません。ソフトを使った場合も必ずアナログ回路を通します。と言うか、ほとんどのトラックはハード(シンセを中心とした楽器)で作りこんだ音を使っています。ラップトップだけで音楽を作るのがクールな時代に、完全に逆行してシンセなどを何台も並べて作ります。笑

今回の曲で一番の要になるのは、ボーカルの始まりとともに鳴り続ける「フワッ、フワッ」と鳴り続けるシンセのコードワークかと思います。それが、このトラック。

こちら、最高のループになるまで、ひたすら手弾きでベストバランスを狙い続けた4小節をコピペして作っています。この音色で織りなすループだけで聴き続けられなければ、この曲の世界観は3分も持たない。そう考え、ここにかなりの時間を要して作っています。

Photo by Kota Sasaki

この音色は、僕が所有するシンセの中でも一番のお気に入りで、自分のサウンドを支えてくれる1台、Sequential Circuits(現Sequential)のProphet-5で作っています。これらは打ち込みで作っているわけではなく、シンセのつまみのうち音の立ち上がり、長さ、減衰具合を調整する「エンベロープ」や帯域カットに使う「フィルター」を細かく調整しながら、これだ!と思えるトラックを産み出せるまで手で弾いて「レコーディング」しています。

ちなみに、この曲のシンセパートはほとんどProphet-5で作っていて、Bメロ以降登場するブリッとした心地の良いシンセベースもコレ。僕、個人的にこの音、大好きなんです。サビで「ウニョウニョ」という、ダブステップなどでよく使われる「ワブルベース」もProphet-5のモジュレーションの切れ味を活かして弾いて作っています。これも、結構大変。

ベースに関しては特にですが、今作は全体的に原曲特有の「ちょっと遅れ目に来る心地よいグルーヴ感」を大切にしたいという思いから、MIDIによる打ち込みは根幹部分には使っていません。全て、手で弾いたものを調整して使っています。ベースも、気にいるループができるまでひたすら弾いて。ちょっとしたことが、ものすごくトラック全体の印象を分け、繰り返し同じリフを聴く際に差が出てくると僕は思っています。

ベースといえば、この曲のサビ部分、ラスサビ前にかけ上がるところで使っている優しく野太いキックには、同じタイミングで低域をふくよかに彩るための「サブベース」を活用しています。一瞬脱線しますが、サブベースの必要性について先日、こんな記事が話題でしたね。

エレクトロやヒップホップの楽曲で、音が少なく聴こえるのに「ズーン」と壁を揺らすように迫力満点に聴こえるのは、超低域を彩るサブベースが聴こえないけれどもガツンと効いているからです。キックが持つ「パン、パン」というアタック音は中高域にある音色で、それとキックの低域、サブベースを組み合わせると、パンチもあり、ズシンと壁が揺れる「あの音」に。

Photo by Kota Sasaki

そんなサブベース、そしてロングトーンのブリブリのベースを頻繁に担当してくれる僕にとっての頼りになる相棒といえば、Moog社の美しいシンセ、Minimoog Voyager(通称ボイジャー)です。

こいつの好きなところは、その高貴で野太い低域、突き抜ける高域の魅力もさることながら、とにかく見た目がカッコイイ!音に直接関係ないじゃん?って。そんなことはありません。このシンセで音を奏でるだけで、僕は爆裂アガります。そのアガった魂は、サブベース、そしてトラックのセクション終わりに「ビュゥン」とベンドダウンするベースにも込められています。何せ、手で弾いているので。(もちろん音が好きなんです。本当に。)

この2台をメインに、シンセだけでもコード進行における様々なサウンドバリエーションを生み出し、メロディに対して飽きのこないトラックを目指して作っています。

そして、エレピなどの生音系はKorgのフラッグシップシンセKRONOSを使っています。生音系、そして何気にTR-808などの電子ドラム系の音色も、このシンセのサンプリングクオリティの高さはとてつもない。丁寧に設定すれば、細かくパラメータも調整できる。歪み、リバーブ、ディレイも中々いい感じです。最初に買った鍵盤でしたが、仕事すればするほどこの楽器に助けられます。まだまだポテンシャルを活かしきれていない気がするほど。

ちなみにアコギも友人からTaylorの高級ライン、914ceを借りて弾いてみたり、僕が好きな楽器の音色を求めて、ただひたすら妥協なく音を選び抜いて作ったつもりです。先日の記事でも書かせていただきましたが、僕は現代の音楽における最大の個性は「音色」だと思っています。

こだわりぬいた音色を武器に、セクションごとに音のポジションや登場のさせ方を考え抜いて表現することで、ただのループに聴かせない表情を得られたのではないかと自負しています。


リズムの押し引き。

これが、今作のリズムセクションのデータです。キックを3色使っていること以外は、今回特に音を重ねたりしていません。

キックは僕のリズムセクションにおける要とも言える、Dave Smith Instruments(現Sequential)のリズムマシン、TEMPESTを使っています。こちらはアナログシンセで、キックの音色もシンセをいじる要領で細かく調整ができます。今作のキックは、僕が自分仕様に気に入って作ったキックの音色を基調としながら、セクションごとにフィルターカットしたキックを3層用意してシーンごとに使い分けました。低域がどっしりしている割に、音自体が抜けよく、スマートな印象なのが好みです。

今回のリズムの要といえば、シェーカーで作る裏打ちの抜き差しと、それに呼応するハイハットの高速スライスかと思います。ハイハットの高速スライスは、ここ最近の世界規模でのポップミュージックのスタンダードな手法。

使っている箇所はとっても少ないですが、その分その存在がグルーヴの印象をバリエーション付けてくれることを期待して入れています。ベース、そして元からいるフィンガースナップやサビで登場するクラップ音と重なって、STOP AND GO的なリズムを作ってみようと思いました。

両側でフワッと鳴るシンセの「ピタッ」と止まる間も含め、リズムを入れすぎないことで「止めの美学」を追ってみようと意識しました。特に、2番のBメロはキックのオンオフで結構な時間悩みながら、今の形にしています。語りすぎず、足りなすぎず。この感覚を皆さんと共有できたら嬉しいな。


初春の空気を醸し出す。

この楽曲をリリースした2月22日も、とっても暖かく春の陽気でしたね。そんな春らしさを、このトラックを作った年始の頃に思い浮かべて盛り込んだのが、儚げなピアノの音色です。

ピアノは僕が好きなソフト音源、Garritan社の「Abbey Road CFX Concert Grand」という音源を自分仕様にカスタマイズして使っています。これ、結構自由が効くので僕はとてもオススメです。

ピアノは自分自身でグランドピアノを買うまでは、基本的には自分が気に入ったソフトを使おうかなと思っているので、これをSSL社のマイクプリアンプにセンド・リターンして使っています。

サビ部分にピアノの旋律、そして元からいただいていたボーカルのコーラストラックを持ってきて、全体的に4分打ちでサイドチェインコンプを軽〜くかけて揺らしています。このピアノが持つ空気感で、春風が吹いたような清涼感がトラック全体に響き渡りました。イメージは、2019年版ケツメイシの「さくら」です。笑(トラックはあえて参照しません 笑)


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いかがでしたでしょうか。こうして、旋律、ハーモニー、リズム、起伏、構成が連なってできた、kolme "Hello No Buddy" Kotaro Saito remix。かなり細かく解説してみましたが、トラックの裏側で起こっていることを思い浮かべながら聴いてみると、これまでとは違った面白さを見出してもらえるのではないでしょうか。


最後に。

僕のサウンドは、そもそも僕が使っている楽器、アウトボード、そしてKotaro Saitoサウンドの要を担ってくださる巨匠ミキシングエンジニアの鎌田岳彦さんの熟練技あってのものなので、ここに僕のテクニックを書いたとて、僕の音にはなかなかならないと思っています。各トラックに対して様々なテクニックを駆使して、音像を立体的に、かつさりげない妙を随所に入れ込み仕上げてくださった鎌田さんの技がなければ、僕の音楽は完成しない。

一連の作品を通じて、そんな楽器の素晴らしさや巨匠のテクニックの素晴らしさを知ってもらえたら嬉しい。だから今後も、機会を見つけてセルフライナーノーツを書こうと思います。僕自身、アナログ機器や高級ハードシンセなどに出会ったことで開けた価値観が沢山あります。この魅力を多くの、特に同世代や歳下の音楽制作好きな方に知っていただきたいですし、この思いに共感してくださる方とコラボできたらいいな、って思っています。

日々、マーケティングのことばかり書いていますが、僕の最も興味あることは机に楽器に向かい音楽を作ることです。ちょっと今日は、そんな一面を割と強めに 笑 出してみました。

改めて、是非"Hello No Buddy Kotaro Saito remix"を聴いてみてください!


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http://urx.red/PZFP / 作曲家・音楽プロデューサー / Spotifyなどで自身の作品毎月展開中 / サブミッション、CM音楽やタイアップ、取材のご依頼はWEBSITEへ。https://www.kotarosaito.com/

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