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日英間のリモートワーク。音楽制作の未来。

みなさんこんにちは。作曲家で音楽プロデューサーの齊藤耕太郎です。世間は不安定な情勢を迎えつつありますね。僕の仕事にも、少しずつですが影響は出始めているように思います。

そんな中でも、音楽はストリーミング配信、そして映像配信という形で人々の心を明るく照らしていけるものだと信じています。僕は下を向く気はありません。できることは山ほどあると思っているし、今だからこそ音楽は必要としてもらえ、自分にとってとても必要なもの。そのスタンスで、楽曲を作るスピードは、絶対に止めません。絶対に。


国をまたいだリモート制作楽曲、完成。

日英での、「対面レス」で完結したコラボレーション。

3月27日(金)、新曲「Supernova」をリリースしました!

Appleはこちらから。

その他配信サイトはこちらから。

是非、今回の楽曲をBGMに、ループしながらこのnoteをご覧ください。


コラボレーションのキッカケ。

確か、最初のコンタクトは去年の夏前のことでした。僕の代表曲の一つである「Cactus」がSpotifyの人気プレイリストであるRoad Trip to Tokyoで紹介してもらえた際に、一気に欧米のリスナーの方が増えた頃。一通のメールが、僕のウェブサイトの問い合わせ欄に飛んできました。

齊藤さんの楽曲、Cactusを聴いて連絡しました。
齊藤さんのトラックで歌を歌わせて欲しいです。

なんだこれ?急にどうした?

そんな風に思って半信半疑でメールを読んでいると、英語そして日本語(!!)でとても丁寧に、僕の楽曲を普段から聴いてくれていたこと、その中でもCactusのようにスロウテンポのチルトラックが好きだということを、ジェントルに書いてくださったイギリス人のアーティストの方でした。

そう、彼がPhoenix Troy氏。アートディレクターの仲間とともに、Phoenix and The Flower Girlとしてロンドンを拠点に活動しているシンガーの方です。各種SNSはこちら。

彼のアーティスト写真も添付します。

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楽曲を聴いていただくと分かる通り、非常に低音の声域を持つ、セクシーな方です。かっこいいなぁ、なんて思いながら、一聴して「これはめちゃくちゃいい。絶対コラボしたい。」と。あまり後先のことも考えず、すぐに条件面の提案をし、承諾いただきコラボを決めました。

話を進めていくと、どうやら以前東京に住んでいたことがあるそう。だから日本語も上手なんだな、なんてことも分かってきました。どんな曲がいいのかな、去年の真夏くらいからそんなことを考えながら他の楽曲やクライアントワークを進め、ことあるごとに彼のことを考えては思案する日々でした。


会わずに曲を完成させる難しさ。

ただ、実際作るとなると、一体どんな曲がいいのか、最初の一歩を踏み出すのにかなりの時間を要しました。

何せ、メールでの会話しかしていないため、フェニックスがどんな人なのか、なかなか感覚的につかめない。どんな楽曲を歌いたいのか、何が好きなのか、普段の本人が持つバイブスはどんなものか、全然分からずに曲を書くのは僕にとって至難の技です。

(もしかしたら僕の彼への認識、今も違うかも、くらいのレベル。)

普段僕が、特にボーカリストの方相手に楽曲を書く際は

・楽曲ストックは行わない。
・ボーカリストや演奏者に合わせてフルカスタムで曲を書く。
・楽曲は個々人の魅力が一番際立つ形でアレンジする。

という3点をすごく大切にしています。そのためには、対話がものすごく大事。人となりだけでなく、その人が今抱えている課題や想い、得意な表現を歌う前に細かく見極めます。それができて初めて、その人の得意な音域、得意な歌い回しが分かるし、何をメッセージしたくて、どう伝えていくかが見えてくる。僕が作っている他の楽曲は全てそれらを大切にしています。

しかし今回、顔を合わせたことのない、しかも別の国の方。声の魅力で判断するしかなく、その方が何を思い、何を大切にして歌いたいかをコミュニケーションするのは、僕にとってアプローチが難しかった。

なので、まずはじっくりフェニックスの声を聴き、どんな間合いで歌を歌うのが最も艶が出るのかを考え、トラック先行で作り始めました。


実際、どのように作ったか。

①トラック制作

このチルな空気を漂わせる楽曲の一歩目を作り出したのは、2019年8月のお盆時期でした。同時期に、9月にリリースした「Ginger」を制作しました。

ちょうど僕にとって今、欠かせない存在となっている最高のアナログシンセ、Juno-106を購入して間もない頃だったはず。なので今作「Supernova」でも、かなりJuno-106を多用しています。

なお、僕のシンセに対する詳しいことは前記事でかなり色濃く語っています。より興味を持っていただいた方はこちらをお読みください。

それでは、Supernovaのセッションファイルを公開して、楽曲の作りを説明していきます。画像クリックでズームできるので、ディティールも是非。

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上のAuxトラックはミックス時に各ステムの分離感を強めるためのテクニックとして使っているもので、基本はピンク色のエリアから、

・ピンク:ボーカルとコーラス
・緑、青、水色:ガットギター、シンセ、フルート
・黄色:ピアノ
・紫:シンセベース
・赤:ドラム及びパーカッション
・濃い赤:キック

です。僕のトラックは往々にして、だいたいこれくらいの少ないトラック数でできています。各音色ごとに音にとてもこだわるため、1音1音の量感には自信があり、ダイナミックレンジ(音の迫力の濃淡)もかなり繊細かつ豊かに残せるからです。バックトラックの音色を細かく解説すると、

キック、スネア、クラップ:Sequential TEMPEST
ベース:Sequential Circuits Prophet-5(これが最高なんです)
シンバル系:Spectrasonics Stylus RMX(あえての)
ピアノ:Garritan Abbey Road CFX(設定はカスタム)
フルート:Eastwest Symphonic Orchestra Platinum
シンセパッド:Roland Juno-106
シンセリード:Juno-106, Minioog Voyager
ギター、ボーカル:生録音(ちなみにパッドのようなコーラスは僕 笑)

でした。ソフトシンセも結構使いましたが、それも毎回ながらアウトボードを何回も通して、質感を作るよう心がけています。

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ステレオ音像とは前後左右上下の立体だと僕は思っていて、その立体を菱形にした時、綺麗に四角の隅々まで音を行き届かせながら音の濃淡を作る、というのを僕は常に意識しています。図だと前後の関係が描けませんでしたが、僕は基本的にあまりコンプレッサーを使わずに帯域と音同士の位置関係で濃淡を作ることを心がけています。

もともとの音色にこだわって、削る必要があるところだけをイコライザで細かく削って作っていく。元の音色でしっかり音の空間を埋められる音を要所にポジショニングさせると、野太いアナログシンセのサウンドと独特のパシャパシャっとしたソフトシンセ(PC内で生成する音色)は、共存できると感じています。そうやって、僕はSupernovaを作り上げていきました。


②Phoenixへのボーカリング依頼

トラックが完成したところで、僕はフェニックスにこういうテーマで、こういう曲にしたいというイメージを英語で書き、自分なりのトップライン(メロディ案)を送りました。

しばらくすると、フェニックスからボーカルデータが送られてきました。すると、彼の素晴らしいリリック、Supernovaという秀逸なタイトル、そして僕が歌って送ったトップラインとはかなり異なる旋律が返ってきました!

相手のことが分からないなら、自由にメロを作り変えて貰えばいい。

歌ってもらうフェニックスが歌いやすく、グルーヴィなことが僕にとっては何より大切なので、僕は全くの迷いなく、自分が送ったものとは全然異なるこの名トップラインに「OK!」と伝えました。当初は歌詞と歌唱だけお願いするつもりでしたが、フェニックスには作曲にも大きく関わってもらいました。クレジットは、Music by Kotaro Saito & Phoenix Troyとしています。

せっかくなので、彼の書いた素晴らしい歌詞をここに記します。

Supernova

Dancing under the lights
She knows this could be her night
No care she’s just living her life

Lipstick high heels, perfume
Lingers around in the room
Dress is a violet hue

Pre-chorus
Shockwaves they float in the air (as she floats on by)
Things will get better in time (youRE brighter than they are)

Chorus
Supernova supernova supernova supernova
Supernova supernova supernova supernova

She transforms all before her, she inspires all around her
She’s a beacon and ignites fires,
Shine a light, don’t burn too bright

Pre-chorus

Chorus


③ミックス〜マスタリング

そして、フェニックスの歌声やハモりが入ったことでより低域が担保された楽曲に対して、再度ミックスをし直しました。僕の一存で進めたくなかったので、ミックスに関しても複数回フェニックスとやり取りをして、彼がいつも依頼しているエンジニアの方からの意見も参考にしつつ、最終的には僕の判断でマスタリングに進めさせてもらい、マスタリング後の音源に対して「I love it」と言ってもらえました。

全体を通じてですが、僕以上にフェニックスの人柄がとても温厚で、かつ非常にジェントルマンな対応をしてくれました。メールでサウンドや条件面のやり取りを、「母語ではない英語で」するのも結構緊張していた僕に対して、「僕はこう思うけど、Kotaroはどう思う?意見を聞かせてね」と最後につけてくれるだけでかなり感情が和らぎました。

会ったことのない相手が国籍や育った環境が違う状況で、必要なのはテキスト上で相手を強く思いやる気持ちなんだな、と僕は彼から強く学びました。


アートワーク、配信先の決定とプロモーション。

今作でフェニックスが僕に与えてくれた可能性は、とてもファッショナブルでセクシーな印象のものでした。それを全面的に生かしたいと考えた僕は、アートディレクターの伊藤裕平さんと議論を重ね、センシュアルな世界と春のような浮遊感を打ち出せるビジュアルを作ってもらいました。なお、この段階からはフェニックスは僕を信じて、基本一任してくれていました。

それ単体でハイストリートなポップアートと呼べるビジュアル。数あるアートワークの中でも、僕は今回のものが一番「着たい」と思えます。いずれアパレルとして展開するつもりなこの作品、本当に素晴らしい。


配信先は、Not Found 404同様、+809

昨月にリリースしたORIVAくんとのコラボ作品、Not Found 404同様、ワーナーミュージックジャパンが展開する+809から配信しました。このレーベルについて詳しくはこちら。

今作は日英のコラボなので、僕としても海外でのプレイリスト選出が一つの大きなテーマ。その点において、+809でリリースできたことをとても満足しています。これから頑張って海外へアプローチしていきたいと思います。


作品の世界観をより多面展開する、MV

今回、仲の良い友人であり尊敬する気鋭のダンサー、YOHくんに事前に楽曲を聴いてもらい、一緒にコラボ作品を作りました。こちらは2日遅れて3/29(日)にリリース。

YOHくんとは非常に繊細な感覚的な話を常々共有できる仲。僕自身が彼の、性別を超越した色気あふれる表現にものすごく敬意を持っていて、楽曲制作を行っていた段階からずっと、このMVを作るなら彼とタッグを組みたいと考えていました。

歌詞はとある神がかった女性に出会ってしまった衝撃を描いていますが、僕はこの楽曲にビデオを作るのであれば、性の概念を振り払うほどの表現力を持った美しさ、スタイリッシュさを兼ね備えた人と一緒にやりたかった。歌詞に対する絵力の逆説性が、より色艶を帯びてくれると信じていた。結果、力強くもあり、儚げでもあり、男性性も女性性も感じられる淡く綺麗な映像作品が完成したと自負します。YOHくん、本当に素晴らしい・・・

監督は今回初めましての映像作家さん、神宮司秀将くん。感性が光っていて、撮影も色味も編集もお気に入り。白い帯を採用したことも目新しくセンス抜群だし、YOHくんの踊りに編集で加工を施したことも功を奏し、ギミックもまた見応えに繋がったと感じます。神宮司くんは元々ご自身がダンサーだったこともあり、踊る映像を非常に撮り慣れていることもまたこの作品を司る大きな鍵になりました。今後がとても楽しみ。


現時点での成果。

まだまだ動き出したばかりの楽曲リリースとプロモーションなので、一旦はプレイリスト周りのことだけを載せておこうと思います。今回も、Spotifyの手厚い恩恵を受けて、2日で2,000再生を超える、良き発進ぶり。

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人気プレイリストである「New Music Friday Japan」、僕にとってお馴染みのプレイリストである「Midnight Chill」(有難いことに3曲同時に入っています)、そして今回初めて、「Slo Down チル・ポップ」にも入りました。まさに!と言う感じのプレイリストで、たくさんの人のライフスタイルに溶け込んでもらえたら嬉しく思います。

そして、Apple Musicの方でも注目トラックに!今回初めて「ダンス」ジャンルに入っています。少しずつ、Appleでも押してもらえ出しています。

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Spotifyに関して、この曲は歌ものですが、僕の普段のインスト楽曲(歌のないもの)同様にムードやシーンに染み込む楽曲だと思うので、息の長いプロモーションが出来たらいいなと思っています。

その点、流行りのど真ん中で一定期間でプレイリストからいなくなってしまうポップの市場ではなく、パーソナライズされて聴き手の方の試聴傾向で長く聴いてもらえるPersonalized Editorialプレイリストに入ったのは有難い。(実際、こっち系のプレイリストで1年以上聴いてもらえている曲は僕の曲でも数十〜百万再生を超え始めています。)

成果については情報更新ができ次第、どんどん更新していこうと思います。


最後に。

僕にとってこういうチルR&B、シンセポップエレクトロ楽曲は、数ある曲調の中でも一番今の自分が好きなムードだし、インスト楽曲であれば自分一人でもマスター前まで完結できるから、どうにも外出しにくいこの時期にたくさん作ろうと思います。そして、作りながら「これはボーカルがあったらいいな」「ギターを入れてもらおう」など色々思いついたら、どんどん遠隔でRecしていこうと思います。

特に普段だとコラボに対してハードルの高さを感じがちな海外のアーティストの方々と、このタイミングで積極的にコラボレーションしていきたい。世界各国、それぞれの事情があると思うけれど、せっかくDTM(デスクトップミュージック)がこれだけ普及しているのだから、宅録でも世界最高峰のクオリティを目指して音楽を作っていきたいものです。

コラボのお誘い、お待ちしています。常に万全の体制でお迎えします!


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そして、こんな時期だからこそのチル要素を意識して、僕のディスコグラフィをSpotifyプレイリストにまとめています!是非こちらで、お家での時間を少しでも愉しんでもらえたら幸いです。



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