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就活のES的、音楽家の自己分析シート。

はじめに。記事の概要
①音楽に興味を持ったキッカケとは?
②なぜ、映像音楽の仕事がしたいと思ったか
③自分の音楽家としての強み
④これからやってみたいこと

アルバムを作り終えて、目の前に待ち受けるクライアントワークを進めつつ、次に自分が何を作りたいのか、考えを巡らせる日々。こういう時間が実は、もっともクリエイティブだったりします。

今回のアルバムを通じて何をしたいのか、なぜそう思うのか、よく反芻するのですが、それって実は学生時代に経験した就職活動のエントリーシートに似ているかも?と思ったのはアルバム制作の終盤〜プロモーションを行うまでの期間。このプロセスで考えたことって、備忘録として残しておいてもいいのではないか?

そう思ったので、今回は面接で自分のことを聞かれた学生さんのように、僕の作風や趣向を言葉にしてみようと思います。

注:わかりやすくするために音楽の趣味をかなりざっくりに書いています。実際はさらに複雑なので、それは追い追い分野別にご紹介させてください。

キッカケは、インドで始めたクラシックのピアノ曲

前提として、僕は人から何かを押し付けられるのが得意ではなく、3歳のときに親に連れて行かれた音楽教室を2ヶ月でクビ(=もう来るな)と言われたどうしようもない子どもでした。

そんな僕が本格的に音楽にのめり込んだ最初の曲。ピアノ界の巨匠、Wilhelm Kempffの弾くベートーベンのピアノソナタ「月光」。中学時代、インドでこれに出会い、自分も弾いてみたいとたまたま自宅に置いてあった電子ピアノに向かい、家族にも知られぬよう夜な夜な練習しだしたのが中一のころ。半年ほどで弾けるようになり、そこから曲を作り出すまでに時間がかかりませんでした。周囲に天才扱いされて、調子に乗り楽しくなりました。

その流れに乗り、大きくハマったのがX JAPANでした。この曲はインディーズ時代の楽曲で、長い前奏の途中で、上記ベートーベンの「月光」のフレーズが飛び出します!おおお!すげえ。と思ったのを今も忘れません。この辺りから、徐々にディストーション(歪み)の効いたギターやドラマティックなドラムのグルーヴに魅了され始めました。この頃にはコードワークも覚え、一応きちんと曲として形にできるようになりました。

さらに、高校時代に度肝抜かれて以来完全に惚れ込み続けているQueen。この頃に、「ピアノが入っているハードロック」という僕の好きなスタイルが確立され始めました。X JAPANもQueenも、大音量で音楽をかけながら、自分でピアノのパートを耳コピして一緒に弾けたのが楽しかったんだと思います。参加欲の塊なのは、多分今もあんまり変わりません。

同じ理由でハマった、世代ど真ん中の音楽、Linkin ParkとEvanescence。ピアノがフィーチャーされながら、ヘヴィなギター、ドラマティックかつDJ要素やラップなどが折り重なる要素は高校〜大学時代の憧れの的でした。また経路はかなり違いますが、ピアノとおしゃれなロックスタイルを提案していたデビュー当時のMaroon 5も大好きでした。

X JAPANにハマったことで構築されていた、激しく耽美的なドラムへの羨望。超下手くそでしたが、高校時代に少しだけドラムも叩いていて、そんな中一生かかっても叩けなさそうだなと思ったのがレッチリのこれ。衝撃的でした。この頃初めて、音楽という要素に「Groove」という魅力を見出せたのを覚えています。

音楽にハマるきっかけは色々あるかと思いますが、僕の場合は自分がそこに参加してみたい、自分が作るのに参考にしたい音楽、という側面でハマっていったんだな、と思い出しました。

それらの要素が色濃く、今の自分がこだわりを持つ「電子楽器」と組み合わさって生まれたのが、今回の表題曲「Brainstorm」です。

映像音楽の道へ誘ってくれた、オーケストラ、歌なしの曲たち

入りがクラシックだったので、自然とピアノ以外の交響的な楽器にもすぐに興味を持ちました。特に高校時代に見た千住明氏音楽監督のドラマ「砂の器」や、Hans Zimmer氏音楽監督の映画「The Pirates Of Carebbean」の音楽には強く影響を受けました。

「宿命」は今考えれば、クラシックにおける主題となるメロディを効果的になんども聴かせていく「ソナタ形式」に近い構造の音楽かと思います。当時はこのオリエンタルなメロディも含め、構成美にただただ圧倒されました。何より、ドラマ自体が作曲家の壮絶な反省を追った内容であり、この曲自体がただのBGMではなくドラマの中核を担っていた。映像を音楽が動かしている!この感動が、僕の映像音楽への原体験になりました。

さらにみなさんご存知パイレーツは、映画音楽なのにこの分厚いドラム!という衝撃をただひたすら受けました。まるでハードロックのような質実剛健なグルーヴ感と、畳み掛けるような弦のリフレイン。壮大で勇敢な金管楽器、静寂とともに美しく天を駆けるような木管楽器。このBGMが流れるだけで、映画がダイナミックに。迫力ある映像美と圧倒的な音楽の力を感じ、映画音楽の作曲に強い憧れを持ったのもこの頃でした。

これらの音楽に触れたことで、クラシック、ロック、映画音楽が僕の音楽人生の柱となり、今もそれが変わらず根付いているように思えます。これらの影響を受けてできたのが、「INOCHI」「秒の間」なのかなと思います。

CM音楽などの映像の音楽作曲のフィールドで、日々弦楽器のレコーディングにトライできるようになった今、なおさら弦に関しては身近な楽器になりつつあることが嬉しい限りです。

生音、電子音、ノイズ。使う音を戦略立てて作るスタイルが強み。

僕の音楽スタイルをプレゼンするときにクライアントにお伝えするのが、音楽の作り方自体を戦略的に構築していくことです。

僕が音楽を作るときのコンセプトをそのままレーベル名にした「MuLogica(ムロジカ)」は、「音楽」と「理論」を楽曲の企画立案の根本に置こう、というコンセプトの元成り立っています。テーマは僕から提案することもあれば、クリエイティブや監督の方々から提示されたアイデアを形にしていくこともあります。

ここでは事例として、僕が音楽とサウンドデザイン(効果音を中心とした音響による課題解決)を担当したワコールの周年映像作品「Mode In Japon」を例にお伝えしますね。

3年前の作品ですが、こちらはMadonnaのツアーダンサーとして活躍されているダンスユニット「AyaBambi」のお二人、ファッション雑誌として不動の地位を築いている「Numero Tokyo」がワコールとコラボした映像作品です。

「(工場の象徴である)ミシンの音を使って音楽を構成して欲しい」というオーダーをいただき、どうやって効果的な使い方ができるのか検証して作ったものがこの音楽。ランジェリーがプロダクトであるという前提を担保すべきエレガンスをピアノで、工場を舞台に展開されるメタリックな質感を、スペーシーな効果音と鋭く尖ったソフトシンセのサウンドで表現しました。

リズムに機械が擦れるようなサウンドを応用するなどして、映像表現と音楽表現の相乗効果を狙って作ったのもこだわりの一つ。映像に対する音楽的な着地、という点では狙ったことができた思い出深いお仕事です。

映像だけでなく、人の日常をより彩れる音楽を作りたい

これまでずっと、映像やショーという視覚情報量の多いクリエイティブへの楽曲提供や課題解決を意識して行ってきました。この業務への理解はこれからもまだまだ深めたいと思えるものばかり。それほどまでに、僕の音楽における中心的な存在であり、なくてはならないもの。

そのカウンターパートとして、より音楽そのものがリスナーである方々と距離が近く、直接的に人の生活をより豊かにし得るサウンドを届けることを積極的に行いたいと考えています。

音楽の新しい楽しみ方として注目されている、プレイリストというスタイル。具体的な音楽ジャンル、アーティストがわからなくても、センスのいいセレクター・キュレーターと呼ばれる編集者の方々がチョイスする、時間帯や気分、場所に合うプレイリストを探すだけで、新しい音楽の発見や日常シーンの演出をしてくれる非常に豊かなスタイルだと僕は思います。

僕は作曲家であり、サウンドデザイナーです。「シーンに合わせて音自体をデザインする」というモノづくりが楽しいと映像音楽を通じて知れたため、これをより人々の日常に裾野を広げてみたい。音楽の楽しみ方がより身近になり得る中、「アート」としてだけでなく、「工業デザイン」のように音楽を世の中に提案してみたいです。

よろしければサポートをお願いいたします。サポートいただけましたら機材投資、音源制作に回させていただき、更に良い音楽を届けられるよう遣わせていただきます。