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アルバム制作日記vol.2 Primavera

皆さんこんにちは。作曲家で音楽プロデューサーの齊藤耕太郎です。

今回は、先日発表した7月リリース予定のニューアルバム「Voyager」より、先行シングルとして公開した楽曲「Primavera」について。

まずは是非、改めて新曲を聴いてみてください。

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この曲ができた背景

年明けから、僕と内山肇さん(詳しくは前回の記事を)は、CMの仕事と同時並行して今後の活動方針の議論や楽曲制作に明け暮れていました。

当初の活動方針的には、

・春までにEPを完成させて4月にリリース。
・リリースを皮切りに、ライブを展開、夏にフェスに出てみたい。
・とにかく、生で僕たちの音楽を届けていこう。

という意気込みで動いていました。しかし、昨今の自粛ムードで大きく活動計画を変更せざるを得ない状況だっただけでなく、とは言いつつも2月に楽曲をリリースしすぎたこともあり(僕が関わる作品が毎週出ていた)、これ以上一気に制作するのは止めて、リリースする一つ一つの楽曲を丁寧に作って伝えていこう、という方針に変更しました。

5月20日(水)リリース予定の「Mother Spaceship」というアルバム先行シングル第二弾。これは元々、肇さんの誕生日である3月10日前後にリリースするつもりで作っていました。

還暦の記念に、自分の曲を世に出したい。

そんな思いを持っていた肇さんにとって、何かそれに代わる作品を作りたい、という気持ちが芽生え、僕はそれをサポートすることにしました。

スクリーンショット 2020-05-02 15.57.06

たまたまこの話をしていた日、僕らは肇さんの自宅スタジオで料理を作りながら打ち合わせをしていました。Spotifyプロフィールの右側、リビングでご飯を食べていたその時、急に肇さんが

こうたろうくん、僕、歌うわ。自分で。

って言い出したんです。

CMを万単位の作品数作曲している巨匠だから、仮歌はこれまでとんでもない量歌ってきているし、女声域まで原曲キーで歌いこなすスキルもお持ち。でも、ご自身で歌う楽曲を世に出すのは、初めてだそう。

やっと、
新しい自分になれるチャンスが来たんだ。
自分の曲を自分の名前で聴いてもらえる機会がやっときた。
だから、それを記念して、歌ってみたい。
手伝ってくれないかな?

巨匠は(当たり前だけど)人一倍自分の音楽へのこだわりも強く、自分が少しでもピンとこないと、優しく「うん。そうだね。もう一回やろうか。」って普通に言ってくる人(笑)その巨匠が、自分で歌った歌を出したいと言ったこと、察するに相当の勇気が要るのではないか。

もちろん、僕は快諾しました。普段から肇さんの仮歌を聴いてきていたし、肇さんがご自身の名前を冠する楽曲としても、すごくいいものになりそうな算段もつきました。何より、「より進化していく!」というその姿勢を強く感じて、心を惹かれました。


作り進めていく過程

歌のメロディ&ギターリフ

そのリビングで楽曲制作を決めたその瞬間、「例えばこういうのどうですか?」って僕が弾いたフレーズが、この曲の冒頭のトップライン(歌メロ)です。それを肇さんが気に入ってくれたので、そのあとを作る!とその日は一旦ご自宅を後にしました。

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数日経って、肇さんに呼ばれてご自宅まで伺い、そこで初めてこの曲の原型を聴きました。クラシックギターと、肇さんのボーカルハーモニーのみが入った楽曲。なんて美しい旋律だろう、というのが第一印象でした。

この時のギターはスペイン製のクラシックギター。裏面、側面は希少種と言われるハカランダという資材を使用しており、弾けば弾くほど音色が美しくなるそうです。余談ですが、昨年12月、そして今年2月にリリースした「Lotus」「Before I Know」もこちらのギターで演奏されています。

ピアノ

で、そこでふっと思いついたんです。肇さんのスタジオで、10年ほど開かずの蓋と化していた、アップライトピアノを弾いてみようと。

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これが、まさにその日、しばらくぶりに蓋を開けてもらえたピアノの写真。ここにすぐさま、オフマイク(楽器から遠目にセッティングして、響きを録音するためのマイク)を立てて、曲の全景も全く把握できていないまま、僕はピアノを弾き始めました。

10年ぶりの音は、生ピアノだと当たり前なのですが、調律なんてブレブレ。でも、それが物凄く味に思えた。僕らはその日その瞬間の想いを大切にするので、曲の構成も理解できないまま弾いたその音を、32セント(ピッチの高低)上げた形で一発OKテイクとして今回も採用しています。

エレキギター

Helloを弾いてもらった、1974年のFender・ラージヘッドストラトキャスター。これの音が、僕は本当に大好きなんです!

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今回のアルバムでも、このギターの出没率は物凄く高く、「Primavera」でもこちらを弾いていただいています。この後半から現れる清らかなアルペジオ、「Hello」で少年が勢い任せに弾いているかのようなエッジの効いたサウンドも、このギターの魅力です。実に150本ほど所有する肇さんのギターの中で、最近僕が見る限り、上のクラシックギター、このストラトが頻出しています。肇さんの気分なのでしょうね。

超特殊な「6弦ベース」

今回、影の主役となっているのは、肇さんの秘密兵器、Fender VI(シックス)という特殊な6弦ベースです。

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元々、このベースはジョン・レノンが歴史名曲「Let It Be」で演奏しているもの。肇さんが所有するモデルは、エリック・クラプトンが参加していた名3ピースバンド「Cream」のジャック・ブルースが弾いていたモデルです。メーカーは、肇さんが広告塔も勤めている日本の名クラフトメーカー、「Fullertone(フラートーン)」です。

これは完全なるフルオーダーメイドベースで、世界に1本しか存在しない逸品。ベースの内部はフェンダージャパンで、塗装やピックアップの位置などをFullertoneが完璧に再現されたそうです。弦も非常に特殊な弦を使用しており、日本で入手できない物を海外から取り寄せて使用されています。

柔らかく、低域も非常に豊か、それでいて押し付けがましくないこのベースがサビからふわ〜っと芳醇に鳴ることで、冬から春へと移り変わる季節の儚さが表現されているなぁと、第一印象で感じました。


シンセとリズム

ようやく、僕が作業する段階に。

今回の曲は、僕がLINE電話で肇さんと話しながらアレンジを詰めて行きました。肇さんは僕のリズムの音色をかなり深いレベルで理解してくれているので、LINE電話でもある程度の判断をしてくれます。

肇さんは僕が3月にリリースした「Supernova」がすごく好きで、それもあり、今回のリズムはそのセッションから移植する形で組んでみました。お気づきでしたでしょうか?

この曲最大のポイントは、サビで突如、4分の3拍子に変化すること。

この多幸感をリズムでもしっかり示していこうと思い、前後から3連のハイハットにピンポンディレイ(左右にやまびこになるエフェクト)をかけたり、サビから高音域のライドシンバルを入れるなどして、ドシっとした低域と上に伸びる高域の両極端を取り入れて作っています。僕らはそれを、「NEO ドンシャリ」と呼んでいます(笑)

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そして、シンセは制作当時、並々ならぬ想いで手に入れた最強の相棒、Roland Jupiter-8のパッドを初めて使いました。弾いた瞬間に、暖かく柔らかな中域が音楽中を包み込みました。優しい音色が、クラシックギターと絡み合い、更に春の多幸感を示してくれました。本当、Jupiter-8という楽器はフィルターを閉じた時と開けた時の音のキャラがまるで違うのが面白い。


ボーカル録音と、歌詞

これらの楽器を駆使し、バックトラックのレコーディングは全く滞りなく終了。肇さんはそのテイクを持って、箱根のサテライトスタジオに向かい、1人集中してボーカルテイクを歌い切りました。

ご自身の課したクオリティの壁を越えるのに、ハーモニー含め延べ6時間歌い続けました。肇さんの楽曲の真髄ともいえる、折り重なるボーカルハーモニーをご自身で再現するのに、相当な時間と体力を要したそうです。


今回の歌詞は、「Before I Know」、そしてアルバム「Voyager」の楽曲でも歌詞を書いてもらっているKurt Jessenさんに参加していただきました。普段、肇さんの手掛けるCMソングにも、Kurtさんは多く参加されているそう。

肇さんがこの曲を歌う背景として、ご自身がライフスタイルで大切にしている「花」をテーマにしたいとおっしゃっていました。

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毎朝、花の水を替え、ご自身が作った朝食をしっかりと食べてから仕事を始める。ご家族もアーティストで、芸術活動のためポルトガルに移住しているため、肇さんはこのようなライフスタイルに。野菜ひとつひとつを、包むように丁寧に洗い調理するその姿勢に、僕は日々物凄く感銘を受けています。

花が美しく咲き誇る季節、ご自身のレーベルであるPRIMO RECORDSとのダブルミーニングで、「Primavera」というポルトガル語で春を意味する言葉をこの曲のタイトルとして名付けました。歌詞もまさに、その世界観の中で、Kurtさん、肇さん、僕とで議論しながら紡いでいきました。

Primavera

You stay here
And wait for me, Om

But now it’s time
To make you leave alone
Don’t waste your life
It’s not yet behind

Distant path
Ends at last
Please understand

※Chorus
Open your mind
Bloom your flower of light,
Primavera lover
You and I have all the answers
To make the world better, forever
Om
Om

What’s to come?
What’s beyond? Om

Let your heart
Unite with my leaves
Next to my limbs
Close to my skin

Distant path
Ends at last
Please be the one

※Chorus repeat

Omというのは、ヨガで唱える言葉。自身に内在する神との繋がり、正しい道へ導いてくれる存在とのこと。意味は非常に深いのですが、この言葉を、肇さんはすごく大切にされています。


NoLによるアートワーク

4AM」、「Lotus」、そして2月にリリースされた「Hello」に続き、今作のアートワークもイラストレーターのNoL(ノル)にお願いしました。

彼の作風的には、モノクロの線画描写がこれまで多く、今作の大胆な水彩画は僕自身も全く想像していませんでした。ただただ美しく、華やかで優しい。僕らの楽曲の一部として、楽曲の表紙として活躍してくれています。

ここまで呼んでいただいた方々に、今回のnoteをザーッと流し見していただきたい。そうすると見えてくるのですが、今回の楽曲を仕上げる全プロセスは、華やぎに満ちていて、色鮮やかな物で生まれています。日々、僕ら、特に肇さんが生きている時空のムードが、色濃く出ている楽曲だと感じます。


ステイホームのお供になるために

今回の楽曲を作り始めた時、まさか世の中がこのような状況になるなんて思いもしなかった。日に日に事態は変わっていく中、僕たちがこの曲の質感、世界観をどんなふうに皆さんのライフスタイルに活かしてもらうか、考えました。期せずして、世の中は #StayHome のゴールデンウィークに。

リリースのタイミングも重なったことで、おうちでこの曲を聴きながら、僕ら自身がやりたいことを企画してみました。

①Primaveraの塗り絵に没頭する

今回、NoLに協力してもらい、この細密なアートワークを1からリアレンジし(NoLさん本当にありがとう・・・)、ゆったりとした時間の中で集中して自分の心に向き合える、オリジナル塗り絵を制作しました。

塗り絵

ご覧の通り、かなり細密な線で描かれた作品。NoLさんから

いやー激ムズな塗り絵できたわ。

って送られてきただけに、これ塗っているうちに1日が平気で終わりそう。

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この塗り絵のアイデア、原点はお正月に箱根で「Hello」などをレコーディングしていたときに、NoLさんがわざわざダルマの塗り絵を作って持参してくれたことがきっかけでした。年が明けて、元旦にこの絵に没頭している時、自分たちの中にとても神聖な存在が降り立ったような気持ちになりました。

僕らの音楽は元々、映像の世界観を彩る音楽として機能してきました。その精神は、オリジナル音楽作品とて同じ。僕らの音楽を聴いてくれる先には必ず人がいて、その人たちのライフスタイルをどう彩れるか、が僕たちの音楽ができ得ることであり、試されていることだと考えます。

僕らが元旦に感じた、長く使える贅沢な時間を一番いい形で使えたことを、皆さんとも共有できたら嬉しいです。


②肇さんのギターを譜面にします。(後発になります)

お家に、クラシックギターやアコギがある方、結構いらっしゃるかと思います。今回の楽曲のギターは、同じリフレインを丁寧に繰り返したり、その上から新たなギターが重なるなど、非常にシンプルな旋律を組み合わせて構成しています。なので、きっと耳コピも簡単!キーも、ギターで肇さんが作っただけに、ギターで弾きやすいD Majorです。

譜面化が少し遅れてしまっているので、一旦コードだけ、こちらに記載しますね。よかったら、曲を聴きながら一緒にコードで弾いてみてください。

Primavera コード進行

イントロ(4/4)
2小節リズム
Dmaj7

1番Aメロ
Dmaj7 add9  Dmaj7 add9  Gadd9
Dmaj7 add9  Dmaj7 add9  Gadd9
Gadd9  Gadd9

1番Bメロ
Bm7 F#m7  Bm7 F#m7
Bm7 F#m7  A

1番サビ(3/4)
Dmaj7 add9  Dmaj7 add9  Gadd9  Gadd9
Dmaj7 add9  Dmaj7 add9  Gadd9  Gadd9
Dmaj7 add9  Dmaj7 add9  Gadd9  Gadd9
Dmaj7 add9(4/4に戻る)

2番も同じ

Add 9thが頻発するのは僕らの曲あるあるなのですが、面倒であればなくても合わせられるかと思います。楽しんでもらうことの方が大事なので、是非弾いてもらえれば幸いです。こちらは譜面が出来次第、追記します。


今後の予定

今日、まさに肇さんが箱根のサテライトスタジオに籠もってギターをレコーディング開始しています。ギター録音に集中してもらった後、時間ができたところで、僕もその場でギターのテイクをインスタライブで聴いてみようと思っています。インスタライブの時間は巨匠のテイク次第なので(笑)インスタストーリーズやTwitterにて告知させていただきます。

僕らのインスタ、Twitterはこちら。(巨匠はほぼインスタしか見てない)

みなさま、素敵なゴールデンウィークをお過ごしください!



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