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p.p.p - 僕らが目指す、「心の平和」

みなさんこんにちは。作曲家で音楽プロデューサーの齊藤耕太郎です。いつもnoteや音楽作品を楽しんでもらえていて嬉しいです。

さて、今回はアルバム「VOYAGER」の5曲め、
「p.p.p (people play in peace)」についてです。

その他の配信サイトはアルバムリンクから。


この楽曲はまさに「THE KOTARO's Inst」と言えるインストゥルメンタルトラック。Lo-fiヒップホップの要素と、チルな空気感が混在している楽曲。僕が自粛期間中に東京で作り上げたシンセサウンドと、肇さんが箱根で弾いたエピソード深いアコースティックギターのミクスチャーサウンド。僕らなりの「グランピングTrack」ができました。


始まりは、2月末

この曲を最初に作りはじめたのは、実はコロナが国内で蔓延する少し前の2月末。ちょうど、Jupiter-8を清水の舞台から飛び降りて手に入れた頃。

ちょうどこの写真は「p.p.p」のイントロを弾いた時に撮った写真だったと記憶しています。ものすごく朝早くに目が覚めて、そのまま曲を作りはじめました。買って2日目。いてもたってもいられなくなり、とりあえずなんか作ってみよう。そんな気持ちで弾いたのがイントロのコードでした。

イントロの4小節が録れて、キックとスネア、ハイハットを作り込んだ時点で、この曲の何となくのイメージが出来上がりました。そしてその時はそのまま休眠することになり、しばらく経って4月の中旬ごろに「そうだ、この曲も作ってみよう」と思い再開したのがアルバム「VOYAGER」へラインナップするキッカケでした。


アルバム1、脱力系楽曲にしよう

この曲で目指したサウンドは究極にリラックスしたサウンド。アルバムには本当にいろんなムードの楽曲が揃っていますが、この曲で目指したのは魔が抜けるほどの脱力感です。聴いていて、単純に心が明るくなるもの。人々が、平和のもとに、(特に子供や家族と)戯れている姿を描きたかった。

最近だと、渋谷に新しくできた「Miyashita Park」なんかは特に、この場所のために「p.p.p」を作ったんじゃないかと思うほど僕の中ではBGMにしたい場所だったりします。以下、訪れた方々がインスタにアップしているものを引用させていただきます。

noteのインスタリンクは引用元がはっきりさせられて、すごく便利!

この曲で目指したかったのは、都会の中の緑に触れたり、都会の中心で生きる方々が週末に河口湖などにキャンプにいくようなイメージです。コンクリートジャングルと自然の木々、小鳥たちのさえずり。どちらに寄るわけでもなく、同居する姿を目指したかった。

子どもから大人まで、
優しい光に包まれながら
ワイワイと楽しむ姿を見ていたい。

この曲を作っていた自粛期間、なかなかそんな光景を目にすることはできませんでした。季節は徐々に暖かくなり、本来なら街に人が溢れ出す頃。今年は冷え切った床のように街から人がいなくなり、僕自身も外にはほぼ出ず、 #stayhome を貫いていた日々。あの頃だからこそ、こういう曲をポジティブに描いていきたいと思ったんでしょうね。日常だったはずの景色が時としてとても尊いものに思える。その記憶を頼りに作っていました。


楽曲の中心を担う、KORG MS-20

この曲の主役は、クロマチックスケールで降りてくる間抜けなシンセリード、KORG MS-20です。

このアルバムを作るために、僕はシンセを何台使ったんだろう(笑)

KORGが1978年に発売し、Roland SH-101らと共に低価格アナログシンセとして欧米のダンスミュージックシーンで愛された名機です。ローランドのそれらに比べて音がまろやかで、その代わりフィルター、特にレゾナンスをあげたときの「キュイーーーーーン!」という音色が非常に強烈な一台。KORGは全体的に独特のミッドを持っていて、他のメーカーには出ない、まろやかさというか、温もりというか、天然ボケ感が気に入っています。

他の楽曲でこのシンセをフィーチャーした曲といえば、「Ginger」のループにおける3小節目のシンセベース。まさにこれぞMS-20なサウンド!

可愛い音なんです。なんか独特の風合いなんですよね。


今回、「p.p.p」の印象的な不思議なリフレインは、その場で思いついて一発で弾いたものの中で気に入ったグルーヴの部分をループしています。我ながら変なメロディです。あのときの気分だったんでしょう。グルーヴの縦の線、つまりクリック的な要素をガン無視して、僕なりの気持ちがいい間を追求しています。はじめさんに「これ、どうやって弾いてるの?」って今でも言われるほど独特のグルーヴだそうです(笑)


盛り上がりを煌びやかに彩る「どう森」オマージュなピアノ

盛り上がりの部分で、高速でシーケンスしているのはピアノの音です。これは、僕自身はやったことありませんが、当時ネットでも爆裂なムーヴメントになっていた「どうぶつの森」の会話シーンをオマージュしています。あの、独特の速すぎな台詞回しが印象的すぎて、あんな感じの音像をピアノで作れないかなと思い、やってみました。

改めて聴いてみてください。
どうぶつの森風に聴こえてくるはず(笑)

アルバム「VOYAGER」は全体的に、緊急事態宣言の直後からの世界の出来事にものすごく影響を受けながら作られています。主に影響を受けていたのは僕ですが、自粛の最中に束の間の楽しみを見出せたものに対しては、その要素やオマージュを積極的に取り入れています。

音楽的な手法論で何かを真似したり、ということはあんまりしていないつもりですが、時世的に歴史の一つに刻まれるべき出来事は、音で表現することで後々、自分自身にとっても「そんなことあったね」と前向きに思い返せたらいいなと思います。


バッキングを彩る、爽やかなアコギの音色

ピアノと共に登場する、はじめさんの爽やかなアコギのリフ。これが非常に瑞々しく、都会的な僕のトラックに対して強烈な「自然の音」をくれています。この音は他の曲同様に、はじめさんの箱根スタジオで録音されたもの。

ちょっと前の箱根スタジオですが、中央のMartinではじめさんはギターを録音しています。最近、このMartinや「Waterfall」などで使っているZemaitisの12弦アコギの使用頻度が割と高めなはじめさん。僕も気に入っていて、箱根スタジオにお邪魔するといつもこのMartinを抱えて曲のイメージを作っています。はじめさん曰く、だんだんいい音が鳴るようになってきたそう。

そんなはじめさんは今作、思い切った挑戦をしたそう。なんと、箱根スタジオのウッドデッキにマイクを立てて、自然の音を収録しながらフィールドレコーディング・演奏を行ったんです。

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こちらがそのときの写真。非常に大胆な録音方法で、センター、左右の3チャンネルを一発弾きで弾いています。音楽をよく聴くと何度もウグイスが「ホー、ホケキョ」と鳴いているのですが、これ、ギターを録っていたらその場にウグイスがやってきて、曲に合わせて鳴いていたそう!サンプリングですか?って既に何人かに聞かれてますが、これは実際の音です!しかも結構絶妙なタイミングで鳴いてくれる、サポートシンガーです(笑)


はじめさんのカントリー感あふれるギターテイクのおかげで、一気にほっこり感が加わった「p.p.p」。今作、改めて完成後にこうして振り返ってみて、必然的と言うか、面白い作り方ができたなと思います。自粛期間中、僕とはじめさんはほとんど顔を合わせていないけれど、毎日のように連絡をとって進捗報告していたし、この記事も特にはじめさんに都度確認して書いてはいないけれど、はじめさんの制作時の記憶が僕と完璧に共有できている。

色々、ぶつかることも多々あったけれど、それでも互いに妥協せずに完成まで運び込めたのは、僕らが音楽を作るときに目指している「ゴール」が最初から最後まで一致していたことが大きかったと思います。


編集力の偉大さを知った曲

と、言いつつ、実は僕ははじめさんから送られてきたギターのテイクを、半分以上バッサリとカットさせてもらい完成に持ち込みました。この曲を作る上で一番大事だと感じたのは、「都会感の残し方」だと思ったから。

この写真は、僕が自粛期間中、午前4時半〜6時ごろにアルバムのデモを聴きながらかなり長い距離を散歩していたときのものです。この日は光がとっても美しく、東京タワーを臨む景色の美しさに写真を撮ってしまいました。

僕が「p.p.p」で表現したかった景色は自然が主体なのではなく、
「都会」を象徴する存在の中で聴ける音楽でした。

はじめさんのギターは、一本でも存在感が普通じゃない。

それはこの曲に限らず、全体を通じて感じたことです。ちょっと音量が大きいだけで、僕が持つ音楽観からは大きく外れてしまうんです。シンセポップのすっきりとしたサウンドの中に突如、大自然、宇宙と言うテーマの体温高めの存在がドドーン!とやってくる。まるで全てを飲み込むかの如く(笑)

はじめさん本人に、そんな意識が全くないのが面白いところなんですが、とにかくはじめさんのギターというのはそれほどまでに原音にパワーがある。ただ、楽器を弾いてマイクを立てて、エレキならアンプを通った音じゃないんですよね。扱い方がとても難しく、迂闊にEQもコンプもかけられない。

今作、はじめさんのギターの音を埋める箇所、立てる箇所は勿論のこと、元々いただいている全パートを鳴らすと音楽的な景色が一気に「箱根化」してしまい、東京で聴いている僕の景色と大きくズレてしまいました。箱根の空気による浄化はとても重要な要素。でも、僕らが生きているのは箱根のような浮世の世界ではなく、情報が行き交い色んなノイズが生まれる東京という現実世界。仕上げは東京でやるべきだったし、やって正解でした。


リリース後に振り返る「people play in peace」

写真は昔のものですが、自粛期間中、ソファに寝そべるたびに癒されていた、我が家のエバーフレッシュ。植物の、自然の存在は偉大だと何度感じたことでしょうか。きっとそれは僕だけではないはず。

毎日、あまりにも多くの「精神的平和を妨げる情報」に囲まれて生きているなと思います。Twitterを開けば見知らぬ人の、個人も特定できない「他人事」が目に入ってくる。「見たくないものは見ない」と情報経路を遮断しても、誰かの何かに反応してアルゴリズムに追っかけられて目に入ってくる。情報の攻撃力はそれほどまでに、構えていても中々痛いものでもあります。

だからこそ、僕やはじめさんは音楽に対して
圧倒的な前向きさ、希望の光を求めて音を紡いでいます。

今日、この記事を書く前に、道端で鳩を追いかけている小さな女の子を見かけました。鳩は嫌そうに逃げていましたが(笑)、「鳩さん、ばいば〜い!」と追いかける女の子はすごく純粋に鳩に対して声をかけてから帰りたかったんだろうな、と思い、なんか一瞬心がホッコリしました。

僕らが「p.p.p」で追い求めてきたものって、こういうこと。

日常で、クスッと微笑めること。現実のなかに、僕らの音が加わることで、別の気持ちになって心に少しの平和が宿ること。サウンドに、楽器一音一音に、優しさと温もりがあること。

よく換気されているカフェで今、イヤフォンを通じて「VOYAGER」を聴きながら記事を書いています。ほんの2~3ヶ月前の自分たちに今、そんな気持ちにさせてもらいました。毎作品思うけれど、

「こんな作品、二度と作れない」

です。楽曲に対するアプローチ、そのときの環境で鳴らす音色や演奏、そのとき心に描いた景色は一期一会。当時の自分たちに今、励ましてもらえる。いつ聴いても「この曲は最高だ」と自分が思える曲にできるまで絶対に妥協しないこと。それって本当に大事だなって僕は思う。作るたびに、勿論次への課題は出てくる。でもそれを振り返る隙を与えないサウンドを、僕らは毎分毎秒追求しています。


最後に

先週、やむをえない事情で配信ライブを実現できませんでした。そのリハーサルで、僕、はじめさん、ドラマーの宮内告典(こうすけ)君の3人で演奏した「p.p.p」を演奏しました。僕らの普段、まんますぎる感じの演奏。よかったらご覧ください。


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