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note連載再始動!日吉屋5代目が考える「続・伝統の技を世界で売る方法」

私が初の自著「伝統の技を世界で売る方法」を上梓したのが、2018年4月25日。今日からちょうど4年前のことになります。

京都に唯一現存する和傘の老舗「日吉屋」に2003年に入社した私が、いかにしてデザイン照明「古都里」を開発し、海外マーケットに挑んできたか。そして、その経験で得た知見をもとに、いかにして「ネクスト・マーケットイン」メソッドを開発し、他の伝統産業の担い手を支援するようになったか――そんなあれこれを綴ったこの本は、私の半生記といってもよいものです。無知ゆえの手痛い失敗や遠回りをしてきた私だからこそ、これから海外進出を考える方々に伝えたいことは山ほどあり、この本には、当時の私が考えうる限りの具体的かつ実践的なアドバイスを盛り込んだつもりでした。

しかし本の出版後、私のビジネスの周辺も、世の中も大きく様変わりしました。とくに「ビジネスのDX化」と「商流の変化」が、この数年ほどで一気に加速したのは、皆さんもご存じのとおりです。オンライン会議ツールの普及によるコミュニケーションの変化しかり、越境ECのハードルを下げる決済の技術革新しかり、2019年2月に発効された、EU・日本間のEPA(日EU経済連携協定)による関税撤廃しかり、です。これによって、先の自著に盛り込んだ「海外見本市出展のための心構え」や「海外バイヤーとの付き合い方」などの情報は、アップデートが必要になっていることを痛感しています。

つまり「続・伝統の技を世界で売る方法」が必要なのです。

書籍で続篇をつくるのももちろんいいのですが、できるだけ「いま・ここ」のリアルを読者の皆さんとシェアするためには、ネットメディアが便利です。そういうわけで、多忙さに紛れてしばらく更新が止まっていたこのnoteを再び活用することにしました。 

もちろん、先の自著に書いた内容には、今でも古びていない本質的なものが多くあると自負しています。しかしその一方で、2018年以降からコロナ禍の現在に至るこの4年ほどの経験は、私の視野をこれまでになく大きく広げてくれました。

一例を挙げれば、2018年6月に開校した「ジャパンブランド・プロデュース・スクール(以下JBPS)」の取り組みがあります。これは、「3,000社のジャパン・ブランドを世界に輩出する」ことを目指す人材育成・調査・研究プロジェクトであり、まもなく5期目の受講者募集がスタートするところです。

実をいうと、コロナ禍が日本を覆う前から弊社がオンラインをフル活用できていたのも、JBPSでの経験のおかげなのです。

どういうことかというと、JBPSの2期目にあたる2019年は、台風など大型災害の多い年でした。東京と京都を会場とし、全国から集まる受講者が、リアルな対面型コミュニケーションを通して成長していくというスキームを描いていたJBPSですが、たまたま開催日が台風の日に当たってしまうことが続きました。そうなると鉄道が運休して会場までの移動手段が絶たれてしまう人も出てきますし、そもそも無理をして集まるのは危険でもあります。そこでオンライン・オフライン両方で講座を実施するということを試しにやってみたのです。

これはJBPSを一緒に運営してくれている教育系ベンチャーの株式会社ミテモが、eラーニングを手がけており、オンライン会議ツールzoomの活用にも精通していたからできたことでした。

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それまでにも弊社ではスカイプなどデジタルツールを使って海外とのやりとりを行っていましたが、初めて使ってみたzoomは、URLさえクリックすれば誰でもその場にジョインできる点や、スカイプと比べてデータ量がはるかに軽く通信がスムーズである点が魅力でした。実際にミテモの社員さんの間では、コロナ以前からリモートワークが受け入れられていて、同社に籍をおいたまま地方に移住してしまった方もいました。遠く離れた相手とでも、まるですぐそばにいるかのようにコミュニケーションでき、仕事が進んでいく。このことに私は大きな可能性を感じました。

これを機に、さっそく私は弊社でもzoomを導入することにしました。ちょうど2019年に西陣の町家を改装してそこをオフィス兼工房にしていたので、日吉屋本店(堀川寺之内)、西陣オフィス、東京オフィス、フランスオフィスという4か所をzoomで常時接続したのです。これによって離れているオフィス同士でも、お互いの様子がわかり、何か聞きたいことがあればいつでも会話を始めることができます。

こういう下地ができていたから、コロナ禍が広がってからも、とくに慌てることはありませんでした。支援先の企業は、どうしてもアナログ主体で、オンライン活用に不慣れなところが多かったのですが、それでもコロナ禍に入り1年も経つうちに、どこも慣れてきたように思います。

そういった環境の変化もあり、弊社ではこれまで手付かずだった越境ECにも2021年から取り組み始めました。このあたりの経験談と、これから取り組んでいくデジタルマーケティングについては、また次回以降で詳しく書いてみたいと思います。

 振り返れば、日吉屋クラフトラボ(2021年にそれまでのTCI研究所から名称変更しました)がこれまでに手がけてきた伝統産業の支援事例は、すでに延べ700社を超えました。最近では、インテリア商材やアパレル商材だけでなく、食品やお酒などの開発にも関わっているので、よく驚かれます。

しかしビジネスの幅が広がっても、「伝統は革新の連続」という基本理念に変わりはありません。これからもこの理念に共鳴してくださる事業者の方と一緒に、日本の素晴らしいものを世界に発信しながら、伝統の継承に貢献したいというのが私の考えです。その発信にいかに最新のデジタル技術を活用していくか。変わらない本質と進化していく技術・戦略とのバランスを取りながら、可能性を模索していく、その現在進行形の思考をここに書き留めていきたいと思いますので、ぜひお付き合いください。


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