
「自分を含め、誰も使いたくないのがメンタルヘルスケア」だったという失敗
こんにちは、Unlace代表の前田です。
Unlaceは2020年12月にスタートしたメンタルヘルスケアサービスです。
本日に既存株主のZ Venture capitalさんとDelight ventureさん、新規株主のScrum venturesさん(US)から2.1億円の資金調達をしました。
Unlaceはこの度、プレシリーズAラウンドで総額2.1億の資金調達を行いました!
— まえた|Unlace (@kotamaeta) July 20, 2022
スティグマを乗り越えるという点では、Pairsで嫌というほど経験したので、カウンセリングサービスを卒業したメンタルヘルスサービスとしての今後の展開にご期待くださいませ!https://t.co/umd5TiGJY9
「成長を評価いただき、全て順調です。」と書きたいところではあるんですが、もちろんそんなことはなく、前回の調達から約1年間結構いろんな失敗もしました。そこから今の事業の方向性が見えてる部分もあるので、僕らが向き合った課題とその失敗から考えたUnlaceとしてのメンタルヘルスケアに対する考え方を書こうと思います。
事業スタート時に考えていたこと(伝えたいことの前提)

まずはじめに僕らは元々オンラインカウンセリングサービスとしてスタートし、気軽に相談できる社会を目指すために社会的スティグマをなくすことに取り組んでいました。
僕が鬱になった時は「家から出たくない。誰とも会いたくない。なんならベッドからも起き上がりたくない」という想いがありました。そのペインに対して僕がPairsを運営してきた経験を合わせて、チャット形式×カウンセラーとのマッチングというかたちでUnlaceはスタートしました。
寝れない夜が訪れたとしても友達は寝てるし、その時間に専門機関は空いてないので一番相談したいタイミングで誰とも繋がれないというペインを解消するということに重きをおいていました。
そもそもメンタル不調は実感しにくいものだったりするので、眠れない等の身体症状で自分自身の状態を認識する人が多いです。なので誰かと繋がりたいタイミングで繋がれるようにする必要があると考え、そこに僕が経験したPairsのマッチングの考えとかを導入したシステム設計にしました。この部分に関してはある程度機能する部分まで持っていけた実感があります。
専門家とか友達をもっと頼ったほうが良いというのは今でも考えとして変わってないのですが、それを言ったところでほとんどの人が救われないんですよね。これが僕たちがぶつかった課題だったりします。
相談したいと思う人が相談できない問題
強い不安や大きなモヤモヤを抱えていたとしても、相談まで辿り着かない人はかなり多かったです。相談して解決する悩みかどうかの判別ができないことや、自分の悩みの原因や解決策にあたりをつけることができないこと、悩み方で悩んでしまうこと。これらがカウンセリングを受けるハードルになっていました。
イメージが湧きにくいかもしれないので例を出します。
仕事をしている中で上司に相談するという経験がある人は多いですよね。またその経験の中で上司に相談した方が良いのは分かっていても、どう切り出して良いのか、どういう内容で伝えて良いのかわからなくて相談できなかったことはないでしょうか。
メンタルヘルスケアの領域に関しても同じような問題がありました。相談したいとは思っていてもその相談の持っていき方がわからずに立ち止まってしまう訳です。
そんな状態なので相談することができず、話を聞いてもらうこと、客観的な視点を得ること、適応的思考を得ることができずに、ただただ時間が過ぎるのを待ってしまう等が発生してしまいます。
課金をするとカウンセラーに相談できるサービスを運営していた我々としては、相談できる状態まで顧客を持っていくというのも顧客の体験向上とともに必要なことでした。
そういった背景があり、作ったのが学術論文を基につくった複数種類の心理診断です。この診断によりあらゆる角度で自分自身を知ることができるようにし、その結果としてカウンセリングまで辿りつく人を増やすことができました。今では月に10000件ほどの回答があります。
Unlaceの心理診断:https://www.unlace.net/testing
通うことの面倒さといった物理的なアクセシビリティや、社会的スティグマを意識して、カウンセリング自体の語られ方を変えることに目を向けがちだったのですが、そもそも課題の捉え方を間違えてたなと反省しています。
もちろんユーザーの声を聞くことやプロダクトの数字を基に判断するようにはしていたのですが、かなり生存者バイアスのかかったものになっていたなと思います。顧客がそもそも課題を認識できてない領域がメンタルヘルスなので、今はN1をかなり大事にしています。そういった点では自分自身が鬱だったということはすごく役立っています。
そして次の課題にぶち当たります。
良いサービスを提供していくと、すぐやめていく問題
メンタルヘルスの領域では状態がよくなることを緩和・寛解という言い方をします。サービスの質が磨かれていけば磨かれていくほど、緩和・寛解率が上がっていきました。(解約者の100%から取得しているアンケートの結果)
これは顧客にとっては大きな価値なので、緩和・寛解し、嬉しい声を残して解約されていくことを僕らも喜んでいました。
ただ手放しで喜べない問題もありました。運営としては継続して利用してもらった方が事業として利益がでます。そういった事業運営上のジレンマがありました。
基本的な考え方としてはサービスを利用することでの成功(Unlaceで言えば症状・状態の改善)することで、口コミが増えたり、一度解約した人が再課金するから問題ないという考え方です。
ただこの仮定の場合は、再課金によりLTVが積まれていくため、LTVの計算を数ヶ月ではなく、数年にするようなビジネスモデルで捉える必要があります。そしてビジネスモデルに対して、尤もらしい証明ができない場合は事業に投資する判断が難しくなります。
ちょっとテクニカルな話になるので、概要は割愛するのですが、分析基盤の設計や数字やファネルの定義をした上で自動でダッシュボードを作るのにはそこそこ苦労しました。
この手のサービスのユニットエコノミクスが成立するかの議論はなかなかハードになると思っていて、今回のラウンドに関してもVCに方に質問されることが多かったです。その議論をすんなり終えれるようになるという意味でもビジネスモデルを正しく捉えるというのと、どの数字がどうなる必要があるというのを実績を織り交ぜたで仮定を伝えられる必要がある領域であるなとは思います。
特にサービス開始からの経過月が短いサービス且つ、解約率が一定高くなるサービス(Saasのように100%に近いとかではない)は、仮置きとなる数字が多く、少ないKPIで事業の成功を説得するのが難しくなるので、このあたりが重要になると個人的には考えています。
そして最後の課題に続きます。
自分でも使いたくなかった
ここまで2つの課題を紹介したのですが、その他に紹介していないものも含めて、個人的に一番向き合ったのはこれだと思います。
Unlaceは不安が強い時以外にももっと気軽に使ってもらえるサービスを目指しています。僕自身は元々うつ病だったこともあり、おそらく人よりは悩みやすいという特性があると思っています。
ただそういった僕自身がUnlaceを使ってないなと気づきました。これは悩みがないからとかではなく、僕自身そんなに使いたいと思うことがないというものでした。
運営としておかしな話なんですが、正直な当時の想いとして書くと「メンタルヘルスケアは使いたくない」という気持ちがありました。そしてこれはスティグマによる影響で考えていることではありませんでした。
社会的スティグマは、利用することで不利益を被ることがあるというものです。だから使いたくないし、利用しなくてはいけない状況でもバレないようにします。
ただ僕自身はこのカテゴリについて理解がある人間ではあります。なのでそこまでスティグマを気にしてないのですが、じゃあ何が使いたくない理由かと考えると、シンプルに面倒だからなんですよね。
人は何かを始めるときに、楽なことから始めようすると思います。
ましてや不安を感じている時、悩みがある時に、新しいことを始めるのはかなり大変です。だからメンタルヘルスケアが日本で普及しないというのが、本質なのではと考えるようになりました。
これ故にメンタル不調や悩みを抱えている人にカウンセリングを勧めても、無料であっても使ってくれないということが発生するのかなと思っています。
これは実際にカウンセリングをすることが面倒なのではなく、やったことないことなので、心理的な印象での新しく何か知らないことを始めなければいけないことが面倒だという訳です。
すこし雑な表現かもですが、カウンセリングはメンタルヘルスケアを目的として、相談をするというものです。
なので、メンタルヘルスケアを目的とした何かを経験したことがない人にとっては、心理的な印象が重いものであり、ただでさえ相談をするということがハードルが高い日本社会では如何にカウンセリングがハードルを乗り越えて受けるものであるかは想像ができます。
この考えから、Unlaceとして何を目指すべきかを考え、先月頭にサービスをアップデートしました。オンラインカウンセリングサービスから、ライフスタイルサービスとしてのメンタルヘルスケアサービスにブランドを変えていっています。意味不明なことを言っていると思うので、以下で少し解説をさせてください。
その上でUnlaceが実現したいメンタルヘルスケア

「人は何かを始めるときに、楽なことから始めようとする。」
「またしんどい時・悩みがある時に、新しいことを始めるのはかなり大変なので、メンタルヘルスケアは使われない。」
これが今のUnlaceの思想の根底にあります。だから僕らは日常の生活に馴染むメンタルヘルスケアサービスを目指しています。日常生活に馴染むという部分をライフスタイルサービスという言葉で簡易的に表現しています。
これがどういうことかというのを、少し分かりにくいので例を出して説明をさせてください。機能で説明するよりイメージの方がわかりやすいと思い、イメージにしています。
過去のUnlace
「朝散歩を始めると、セロトニン*がでるから良いよ」という新しい習慣の提案をするブランド
これからのUnlace
「通勤で歩くのを早歩きにするだけでもストレス軽減になるよ」という生活に取り入れやすいことを提案するブランド
*セロトニン:幸せホルモンと言われる脳内ホルモンで不足すると鬱になりやすい
また僕らが目指すメンタルヘルスケアは、うつ病の治療を目的としたものでも、鬱になったことを発信できる社会を作ることを目指す訳ありません。
Unlaceは「周りの目があるから自分らしく振る舞うことができない」という課題を解決し、その結果として、誰もが自分らしく振る舞えるようにしていきます。そのために、社会的スティグマをなくし、すべての人の毎日の生活にメンタルケアが浸透している社会を実現していこうと思っています。
また僕らが運営している事業は社会意義性があるだけの事業ではないです。それにスケールが伴う事業です。
うつ病の経験者として、社会的スティグマを乗り越え、スケールした事業を経験したビジネスパーソンとして、この領域により本気で向き合っていくため今回の資金調達を行いました。
絶賛成長中ですし、これからメンタルヘルスケアのスタンダードを作るので熱い思いを持ったメンバーを募集しています。この記事についてもUnlaceの事業や組織についても色々な方と話せればと思うので、meetyで気軽に「話したい」のアクションをしてもらえると嬉しいです。
長い文章を読んでいただき、ありがとうございました。
Unlace,Inc. CEO
前田康太
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