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心理ロイヤルティマーケティングを読んで - 「心の満足」こそ愛される製品づくりの鍵 -

先日こちらのnoteでカスタマーエクスペリエンスマネジメントについて書く中で、NPS(ネット・プロモーター・スコア)を計測し、より効果の期待できる体験改善施策を打ち出す話をした。

分野が近接しているので当然だが、ロイヤルティドライバー(顧客の心理的満足度を大きく向上させる要因)をいかに発見し、マネジメントしていくかが、今回読んだ『心理ロイヤルティマーケティング』の主題となっている。

おさらい:ロイヤルティとは何か?

日本語に直訳すると「忠誠」(ちなみに"Royality"と"Loyalty"は意味が全然違うので気をつけて)。マーケティングの文脈では、「特定のブランドに対する愛着」の意味で使われる。

ロイヤルティが注目されはじめたのは、最近のことではない。ただインフルエンサーや、オンラインサロン、D2Cがトレンドになったことから、ファンマーケティングやコミュニティマーケティングが取り上げられるようになり、改めて「ロイヤルティ」が注目されているのだと思う。

顧客ロイヤルティが向上すると事業を前に推し進める効果がたくさんある。マーケティング効果(口コミ、CPA低下、ブランド認知...)が得られるのはもちろんだ。

それだけではなく売り上げ全体を見た時に、販促上リスクの高い顧客の比率を下げり、将来性のある顧客層(つまり製品やサービスに対して好意的)が増え、顧客あたりの単価が上がっていく。いわば顧客ロイヤルティは、企業の資産ともいえるものになるのである。

これは余談だが、コトラーは『マーケティング4.0』で、

究極の目標は、顧客を感動させて忠実な推奨者にすることである

と「愛着」の重要性を指摘していたと言える。神様コトラーの凄みを感じたし、やはり社会のトレンドを見ている人物の本は、出版されてすぐ読んだほうが良いなと思った。

ちなみに時々何年か経ってから読んで「この本に書かれていることは古い、それほど価値はない」とレビューを残す人がいるけど、あとだしジャンケンなので、内容だけでなく「レビューの時期」はちゃんと見た方が良い。

3つのロイヤルティ

本書の著者はコンサルティングをおこなっている。ヒヤリングする中で、対象人物の役割や立場によって、3つのロイヤルティが存在しているとわかったそうだ。「経済」「行動」「心理」ロイヤルティである。

・経済ロイヤルティ(顧客がどれだけ経済的に自社に貢献しているか)
・行動ロイヤルティ(顧客の企業に対するアクション)
・心理ロイヤルティ(顧客の自社に対する愛着度合い)

カスタマーサクセス(CS)にコミットしている会社では、CSのKGI / KPIが「売上」になるとCS活動が機能しないことが、多くの実践者によりすでに観測されている。

理由のひとつとして考えらえるのが、「心理ロイヤルティ」に対するコミットではなくなることだ。カスタマーサクセスは職能でもあり、顧客視点を象徴する概念でもあり、精神とも言える。

その体現たる活動において売り上げを第一のゴールとすると機能不全に陥ることも頷ける。CS活動においてはLTV向上が重要なミッションのひとつではあるものの、「顧客を成功させた結果としてLTVが向上する」ことを決して忘れてはならない。

製品そのものでロイヤルティは向上しない

本書ではロイヤルティ・ドライバー(顧客満足)を、大きく基本価値ドライバーと体験価値ドライバーの2つに分けて考えている。基本的価値は「機能的価値」と言い換えて差し支えないだろう。体験価値は、一連のサービスプロセスで顧客が得る価値。

他のnoteでも書いたが、満足には2種類ある。頭の満足と心の満足だ。頭の満足が論理で分析して評価され、得られた満足なのに対して、心の満足は心地良さや気分のような、感情面の充足度合いを指す。

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サービスプロセスが提供する体験価値は、「心の満足」に大きく影響を与える。CS / CXが果たしている役割はまさにこの「心の満足」向上だ。

理解しておくべきなのは、製品そのもので心の満足と、ロイヤルティは向上しないこと。使用する時の利便性こそ高評価はされても、機能によって愛着が湧くわけではない。リレーションシップ・マネジメントの本質もそこにあるのではなかろうか。

基本価値偏重のプロダクト開発は、マーケティング1.0~2.0の世界観といえる。ようするに「高品質なものを安く売る」「ニーズを知って売れるものを作る」がコンセプトだ。世界観として古い(これだけでは不足な)のは言うまでもない。

NPSの欠点を補う指標を設定する

人々の認識変化からマーケティングトレンドも変化している。「定量化できない」と一見思ってしまうものほど、定量化が求められているし、定量化できれば競争力になる。

ロイヤルティも然り。マネジメントのためには指標をもつ必要がある。その時によく話に上がるのは、NPS(ネット・プロモーター・スコア)だが、当然完璧ではない。

「自分は気に入っているが他者には進められない」「トランザクション調査による信憑性への不安」など、不確かさが残りやすい。その確からしさを補うのがNRS(ネット・リピーター・スコア)とのこと。

NRSの利点
・スコアとしての正確性の向上
・自分の行動の意向についてのものだから、他者は関係なく、より確からしい
・さらに上記のメリットにより、収益シュミレーションの正確性が増す
etc...

他にもいくつか記載されていたが、特に重要そうな視点のものをピックアップした。

NRSがリピートであることを考えると、SaaSの月額サブスクリプションモデルにあてはまるのかは怪しいクロスセル商品の買い増しであれば、繰り返しが発生するので問題ないかもしれないが...。

ただ本書のNRS紹介から得られる示唆としては、各々のサービスにあった指標によって体験価値計測を補完していく必要がある、ということだろう。それは月次のアクティブ率かもしれないし、ある特定のアクション数かもしれない。

どちらかといえばそういった効果の高いドライバー発見のあたりをつけるために、より確からしい指標をもつことこそ、本質なのではないだろうか。

プロダクトイノベーションだけが、イノベーションではない

おおよそ世の中で使われる「イノベーション」は新製品の開発を指している。しかしそのほかにもイノベーションは存在している。

イノベーション(新結合)の概念や、イノベーションによって経済発展がいかにもたらされるかを初めて説いたとされる経済学者のシュンペーターは、イノベーションを次の5つに分類している。

①新製品の開発(プロダクト・イノベーション)
②新たな生産方式の導入(プロセス・イノベーション)
③新たな市場または消費者の開拓(マーケット・イノベーション)
④新たな資源の獲得(サプライチェーン・イノベーション)
⑤組織改革(オーガニゼーション・イノベーション)

社会人としてある程度仕事をした人やビジネス書を読む人であれば、イメージがつきやすいだろう。例をあげると、有名な「トヨタ生産方式」はプロセス・イノベーションの最たるものである。

5つのイノベーションが存在することを知っておくと、製品面にだけ目がいくことはなくなる。

シュンペーターの5つのイノベーションを眺めていると、カスタマーサクセス(CS)やカスタマーエクスペリエンス(CX)は5つの中では、②と⑤にあたると思われた。

CSを組織に導入したはいいものの、理解不足や連携不備により機能不全に陥る組織は多いようだ。そういった環境でCS / CXを導入に苦労するのは当然だ。浸透させれば、イノベーションをおこせたといっても差し支えないのだから。

まとめ

ここまでを振り返ると、組織の上層部からにせよ現場からにせよ、「いま何が起こっているのか」を知るためにもっと現場を知らなくてはならないと改めて思う。

NPSやNRSといった指標を導入しつつも、実際に顧客と会うなど現場に足を運ぶことを怠ってはいけないし、セールスやカスタマーサクセスの声に耳を傾けなくてはならない。

CS / CX意識の浸透による施策の質的転換は、大規模な変革だ。決して簡単ではないが、必ず取り組まなくてはならない。それは売り上げのためだけではなく、末永い発展を思った時に、必要なのだ。

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