書評74 「ペスト」

2020年のコロナ禍の中で注目された「ペスト禍」を題材にした小説2編。今回はカミュの作を新潮文庫版で読む。

中都市で特効薬の無い感染症が発症、拡散する中でロックダウンが発動される。閉じ込められて、市外の家族や知人と隔絶された登場人物の悩みや行動が描かれる。その登場人物も限られた人数ではあるが、思考が時間の経過と共に変わって行く。フィクションだが、それがリアリティを作っている。

主人公の医師は治癒できない無力感を持ちながらも、懸命に患者を診る。死を看取る。

文体は古いというよりも、語学を学ぶときに使う直訳文に近い。時代や舞台となっている地域(アルジェリア)の違いもあって、読み手に読解力と想像力を求めるが、それでもページを繰ってしまうのは物語の中身に濃さがあるから。新訳の文庫(光文社版、岩波版)もあるので、そちらから読むのも一手。

人力では排除できない災厄に面した人間の姿を擬似体験できる一冊。

https://www.shinchosha.co.jp/book/211403/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?