書評 179 「旧約聖書を知っていますか」

阿刀田高さんの手になる、旧約聖書のエッセンス版。軽妙な文体のストーリー仕立てで、とても読みやすい。邦訳の旧約聖書は頭に入らないとか、途中で諦めたような人でもスラスラと読めるはず。

著者も書いているが、あくまでもエッセンスなので全編を網羅した内容では無いけれども、よく旧約聖書を引き合いに出す時に出てくる話は一通り入っている。この方が旧約聖書の要点が伝わるようにも思える。

絶対神は文字通り絶対的存在で、その意思に善悪の概念は無い。預言者を通じてもたらされる神の意思は全てにおいて正しく、それを信じて実行するものが神の加護を受ける。こんなことだろうか。

人間のエゴを神の意思として正当化しているのか、倫理観など所詮どうとも書き換えられると言いたいのか。そんなことも考えさせられるが、単なる神話的な読み物として充分楽しめるのも本書の特長。

宗教の背景にどんな世界観があるのか。そんな興味をも気軽に満たせる一冊。

阿刀田高 『旧約聖書を知っていますか』 | 新潮社