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初めての産婦人科〜中3編

あっという間に冬休みが終わり、中学生活最後の3学期が始まった。

志望校を決めてからは、母に言われたとおりひたすら過去問ばかりを繰り返し解いていた。

私立高校の入試が2月、生理が重い私は音楽科の高校を受ける際、生理と重ならないようにする為、生まれて初めて母と産婦人科を訪れた。実技試験の日に生理が重なると、肝心な演奏に支障が出てしまうからだ。

平日の午前中だったので中学の制服を着たまま近所の産婦人科に行って母と待合室に座っていると、何だか居心地の悪い視線を感じる…母と中学の制服を着た私の方を見てヒソヒソ言っている人もいる。


『なんかアンタが悪いことしてココに来てるみたいに思われてるんだろうね』と母が耳元でコソコソ話しかけてきた。


悪いことって何だ、セックスの事か。周囲の人には私が性病にでもなったか妊娠してしまったか、そんな風に見えたんだろう。
やはり母の中でセックスは“悪いこと″らしい。悪いことだと?バカバカしい!私の周りの友達の半分以上はもう“経験済み″なんだよ!と心の中で母に悪態をつきながら、周囲の人にもジロジロ見られながら、私は悪いことなど何もしてない!と言わんばかりの顔をして堂々と順番を待った。

『橋本さーん、どうぞー』と言われ、母と診察室に入る。年配のおじいちゃん先生でちょっと安心した。入試の実技試験の時を避けるため…の説明を母がした。すると先生は、『わかりました。ちょっと内診してみますねー、あっちにどうぞ』と診察台の方を指さした。

あー、なんか噂で聞いてたアレが診察台か…何だか、けったいな椅子だなぁ、股を広げて座れって事か…冷静に私は制服のスカートと下着を脱ぎ、診察台とよばれる変な椅子に座った。
母は看護士さんに言われて外に出た。

よく産婦人科の椅子に座って内診を受けるのは恥ずかしいとか、嫌だとか聞いていたが、特に抵抗はなかった。それよりも何をされるんだろう?と好奇心の方が勝った。

『はい、椅子上がりますよー、足閉じないでねー、力抜いてリラックスしてね。緊張せずに力抜いてー、はい、中に指入りますよーちょっと痛いかもだけど力抜いてねー』とおじいちゃん先生と看護士さんに交互に声をかけられた。

『イデッててて…ふぅ〜』と自然に声が出た。
なるほど、これが噂で聞いた“内診″か…確かに恥ずかしいな…大股を広げてカーテンの向こうにはライトで照らされて剥き出しになったアソコが堂々と…イテッ…

『ハイ、じゃあ機械入りますよー、力ぬいてねー、よーしよしその調子…』
何だかヌルッとした物体が自分の中に入ってきた。グリグリされる。深呼吸した。
『ハイ終わり!よく頑張りました。下着着て、診察室出て、待合室でお母さんと待っててねー』
あっけなく終了した。なーんだ、こんなもんか。聞いてたより緊張しなかったし、事務的だった。もっと痛いのかと思っていた。
というかあのおじいちゃん先生は、来る日も来る日も女の人のアソコばかり見てるんだ…まぁ医者だから慣れるんだろうけどすごい仕事だな…

再度診察室に母と呼ばれ、おじいちゃん先生から説明があった。
『特に異常はないですから、今月の生理が始まったら毎日一錠ずつ忘れずにお薬飲んでくださいね。試験頑張ってね』と言われ、小さな錠剤を見せられた。


母が会計を済ませている間、辺りを見渡すと妊婦さんが半分くらいと中年の女性やおばあちゃんくらいの年齢の人も待合室に居る。
制服を着た者は私しかいない。
私と目が合うと皆目を逸らす。何で中学生が母親とここにいるの?みたいな顔をしている。

しかし母が看護士さんとニコニコ話していたのと、小さい薬袋を受け取っていたのと、私があまりに堂々としていたので、皆さん“あの中学生は何か悪いことをして母親に連れて来られている″のではないと悟った様子だった。生理痛がひどいから母親と来たんだろう…くらいに思われたのかもしれない。帰る頃にはもう誰も私を目で追う人は居なかった。

それから遅れて中学に登校して普通通りに授業を受けた。産婦人科に行って“生理をずらす薬″をもらった事は誰にも話さなかった。


そういえばだ!私がクリスマスにミッちゃんにあげたニット帽が捨てられてないか、気になって仕方なかった。
やはり前の年に起きた“チョコレート捨てられ事件″のショックが尾を引いていた。
ミッちゃんと仲が良く家の近い、同じクラスの弘田くんにコッソリ話した。
『ミッちゃんちに、ニット帽あるかどうか見てきて、お願い!』すると弘田くんは、意地悪そうに笑いながら
『もしゴミ箱に捨ててあっても言うよ、それでもいいんなら見てくる』と言った。意地悪な言い方だが、弘田くんもまたバスケ部で“チョコレート捨てられ事件″を目撃していたのだ。あれは当事者の私も傷ついたが、それを目撃したであろう男子バスケ部員もよほどビックリしたのだろう。なので、その覚悟はあるか?と聞かれたようでドキリとした。
『いいよ、捨てられててもいいから、見てきて!』と両手を合わせて彼に頼んだ。

翌日、弘田くんが早速話しかけてきた。
私の席の前に座り、一瞬真面目な顔をした。ヒヤリとした。
『昨日ミッちゃんちに遊びに行ったら、ミッちゃんの私服かけてあるところに、サッとニット帽かけてあったよ、良かったね、捨てられてなくて』と弘田くんはニヤリと笑った。
『マジで?あーーならよかった、マジでありがと。感謝するわ』ホッとした…ミッちゃんは捨ててなかった…よかった。。
『でもねー、あのボンボンみたいなのついた帽子って男子はあんまりかぶらないからねー』チクリと言われたが、それでも良かった。ニット帽についてるボンボンは完全に私の好みで選んだのだ。
とりあえず捨てられてなくて良かった…。

弘田くんにも感謝だ。アケミと同じクラスに居る岩田くん&ミッちゃん、そして私と同じクラスの弘田くん、バスケ部3人組をよく登下校の時に見ていた。淳一たちとグループは違うが、この3人組はちょっとニヒルで近寄りがたいオーラを放っていた。
でもアケミのおかげで岩田くんも協力してくれた。弘田くんも何だかんだチクチク言いながらも協力してくれた。

前、誰かが言っていた。本人がダメならまずは周りから固めろ、本当にそうだ。

アケミ様さまだ。持つべきものは足を引っ張る女友だちではなく、純粋に協力してくれるアケミや弘田くんのような人だった。

アケミとは今でも時たま連絡をとっているが、弘田くん、岩田くんに会う事があったら彼等にも心から礼を言いたい。

そんなわけで私立高校の入試が始まる時期に突入した。



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