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思春期日記⑧「祭り」

居住地を聞かれると隣の市を答えてしまう。
周りの人は正直に答えている(ように見える)なかで、自分が惨めに思えてくる。
最近の悩みの一つだ。

そんな私が住む地域にも夏がやってきた。
自治会長が祭りをするための集金に来る。
見慣れた法被と汗染み。
「最近、息子さん来られてないですね」
気まずい質問を投げられた。
「忙しくて、出払っちゃうんです」
苦笑いで答える。これもまた嘘である。


元来、私は祭りが好きだ。
シャッター商店街が活気を取り戻す日。
よく見る気さくなおじさんが力を合わせて担ぐ神輿、山車。
屋台のチープな焼きそばの味。シロップのかかったかき氷。
普段よりおめかしする人たち。汗こそ最高の化粧だよ、なんちゃって。

そんな私が祭りが嫌いになった。否、地域の人が嫌いになった。
見るたびに息が荒くなるのだ。
なんであのとき、私をいじめたの?
先生も相談に取り合ってくれなかったの?
なにより、私だけじゃなかったよね?
先日も私の一つ下の学年でもいじめが横行して自殺未遂があったとのニュースが出回った。
今、私はこうしていられてるからいいけど、防げることはあったよな?祭りではしゃいでるお前ら。いや、お前ら加害者だよな?
消化できない気持ちが私を取り巻く。

お囃子が聞こえる。
稚児の笑い声。浮かぶ憎しき顔。
重たい頭の重心が後ろに傾いていく。抗うこともなく。

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