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人類初、リアル「地球防衛」実験に成功

オジさんの科学vol.085 2023年1月号

小惑星に探査機をぶつけて軌道を変えよう、というNASA(米航空宇宙局)のミッション。1年程前に探査機(DART)の打ち上げを紹介しました(2021年12月号)。このミッションが、昨年9月に遂行されました。そこで今回は、その衝突の様子と結果を紹介します。

たくさんある危険な天体
1908年シベリアで起こったツングースカ大爆発。直径50~60mの隕石が空中で爆発したと推測されています。東京都ほどの面積で針葉樹がなぎ倒され、1、000㎞離れたところの窓ガラスが割れました。
そして2013年、同じロシアのチェリャビンスクに落ちた直径17mの隕石。上空20㎞で爆発し、半径45㎞の範囲で負傷者が出ました。
どちらも小惑星が起源の隕石と考えられています。

地球の軌道のごく近くを通る危険な小惑星や彗星などの天体は、現在3万個ほど発見されています。地球近傍天体、「NEO」と呼ばれます。
しかし、まだ発見されていないNEOもたくさんあると考えられています。ツングースカ程の大きさのものは10万個、チェリャビンスク程度だと100万個以上ある、とみられています。

NEOの被害から地球を守る活動を「惑星防衛(プラネタリーディフェンス)」と呼びます。現在世界中で、NEOを発見する活動が進められています(2021年3月号)。
そしてNEOとの衝突を回避する実験として、今回のミッションは行われました。SFでもない、マンガでもない。人類が初めて行ったリアルな地球防衛実験です。

ターゲットは二重小惑星
NASAが、米国のジョンズ・ホプキンス大学と共同で行ったこのミッション。探査機の名前「DART」は、「Double Asteroid Redirection Test:二重小惑星軌道変更実験」の略です。
DARTは、日本時間の2021年11月24日にカルフォルニア州バンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられました。

DARTの「的」は、約1,100万㎞の彼方にある二重小惑星、その小さい方の「ディモルフォス」です。直径約160mディモルフォスは、直径約780mの「ディディモス」の周りをまわっている衛星です。
地球からは、どんな望遠鏡でも2つの小惑星は1つの点にしか見えません。しかしディモルフォスがディディモスの前を横切る時や後ろに隠れる時に、暗くなることから二重小惑星だと判っていました。
見たこともないディモルフォスには、名前すらありませんでした。今回のミッションのために「2つの形態を持つ」というギリシャ語の名前が付けられました。

2つの理由から、二重小惑星がターゲットに選はれました。
ディモルフォスの様な小さな小惑星に探査機を衝突させた場合、衝突前後の様子を観測するためには、別の探査機が必要になります。そのためには多額のコストが掛かります。
二重小惑星なら、明るさの周期を観測すれば、軌道変化が地球からでも判ります。

 2つ目は、万が一のリスクを回避するためです。単独で運行する天体をターゲットにした場合、軌道が地球に衝突する方向に変わってしまう危険があるからです。でも、ディモルフォスの場合は、ディディモスを回る軌道が変化するのみなので、大丈夫。

ついに衝突!
 日本時間で2022年9月27日、DARTは、ディモルフォスに無事?衝突しました。まずは、DARTが激突の瞬間まで取り続けたディモルフォスの姿をご覧ください。(URLをクリックするか、QRコードを読み取ってください)

ジョンズ・ホプキンス大学が提供している衝突5分半前からの動画です。10倍の速さで再生されており、最後の6枚は実際の速さになっています。DARTに搭載されたカメラが撮影した写真から作成されました。(NASA/Johns Hopkins APL)

https://dart.jhuapl.edu/Gallery/media/videos/dart_impact_replay.mp4


 
動画を見るとDARTがディモルフォスにまっすく向かっていくのが分かります。DARTには、カメラを使ってディモルフォスを認識する自動航行誘導システム「SMART Nav」が搭載されました。
 直前の軌道修正は機体のブレが大きいので、衝突の2.5分前にエンジンは停止しました。その後は、秒速約6kmで慣性飛行をしています。福岡の上空でエンジンを止めて東京ドームに当てるようなものだそうです。スタッフは、祈るしかないこの時間を「悪魔の2分半」と呼んだそうです。

 DARTの重量は約550kg。一方でディモルフォスは、小さいとはいえ48億kgと推定されています。お相撲さんに米粒をぶつけて動かそうという様なもの。NASAが当初設定していたミッション成功の基準は、ディモルフォスの公転周期を73秒短縮することでした。
衝突により、公転周期は11時間55分から11時間23分になり、これを大幅にクリアしました。
 DARTは、ディモルフォスに正面衝突しました。これにより減速したディモルフォスの遠心力が低下し、公転半径が30mほど短くなることで、32分も公転周期が短くなったようです。

力を合わせて地球防衛
衝突直前の写真を見ると、ディモルフォスは、いくつもの岩が緩やかに集積して出来ているようです。はやぶさが試料を持ち帰った「イトカワ」や、はやぶさ2の「リュウグウ」にそっくりです。イトカワやリュウグウの試料の分析結果も地球防衛に役立つのです。

DARTは木っ端微塵になり、その後のディモルフォスの様子は分かりません。大きなクレーターが出来ているはずです。それを確認するために、2024年ESA(欧州宇宙機関)が探査船Heraを打ち上げます。Heraには、はやぶさ2に使われたカメラの後継機が搭載されます。ディモルフォスの密度や質量、放出された物質の量、軌道変化の正確な値などを測定するそうです。
 
衝突の様子や飛び散った噴出物は、ハッブル宇宙望遠鏡やジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡でも観測されました。また、衝突により明るくなったディモルフォスを世界各国の望遠鏡も捉えていました。
リアル「地球防衛」実験には、様々な人々が関連しているのです。

や・そね
<関連する過去作>
2021年3月号 恐竜を絶滅させた小惑星、人類は大丈夫か?

2021年12月号 NASA、星を動かしまーす。
https://note.com/kosuzu_kouchan/n/nc30264cdfab8

<参考資料>
WEB
・The Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory LLC. 
「Double Asteroid Redirection Test NASA'S FIRST PLANETARY DEFENSE MISSION」
・natureダイジェスト 19 November 2021 
「小惑星にぶつけて地球を守る NASAが初の実証実験」
・natureダイジェスト 11 October 2022 「小惑星の軌道を転向する実験は大成功!」
・ナショナルジオグラフィックニュース 2022.9.28
「【解説】NASA探査機が小惑星に命中、史上初の地球防衛実験」
・ナショナルジオグラフィックニュース 2022.10.13
「続報:NASAの『地球防衛実験』、小惑星の軌道変化を確認」
・JAXA デジタルアーカイブス

雑誌
・『Newton』2023年1月号 史上初の「惑星防衛」実験に成功

TV番組
・NHK コズミック フロント 2023.01.19 「地球防衛 史上最大の作戦」

ラジオ番組
・NHK カルチャーラジオ科学と人間 2023.01.20
「宇宙の謎に迫る面白い話 天体の地球衝突問題とは」


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