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波乱だった過去【12・シンナーに溺れるキャバ嬢】

チームを辞めた頃
地元の同級生の紹介で
同じ中学だけど
ろくに学校に来てなかった
同級生のS君と出逢った。

彼の名前はもちろん知っていたけど
とにかくほとんど学校に来てなかったので
ちゃんと会うのも話すのも初めてだった。


会ってすぐ
私たちは打ち解け仲良くなった。



二人とも複雑な家庭環境で
すぐに意気投合したのもあるけれど
きっとあの時お互いに会ってすぐ
恋に堕ちたのだと思う。



すぐに彼とは付き合うことになり
彼と知り合った事で暴走族やら不良のお友達や仲間が
一気に増えた。


彼と一緒に集会に出て
バイクで夜の街を走っている時は本当に楽しかったし
当時は今の暴走族みたいに
信号でちゃんと止まるなんてないし
毎回パトカーにずっと追いかけられたり
そんなふうに社会に反発して生きるのが
私たちの居場所だった。



世の中から外れてる自分を
どこか悲劇のヒロインみたいに感じて
自分の中で勝手に正当化して
非行の行動に走る。

なぜならそこしか
居場所がないから。


そこでもそうして
居場所を求めていた。



コンビニやガソリンスタンドとか
色々バイトを始めてみるものの
まったく長続きしない私は
結局また水商売を始める。



そのお店は今で言うキャバクラで
不良仲間で友達になった一つ下の後輩の女の子に誘われ
一緒に入店した。


当時は、適当な先輩の名前と連絡先を言えば
18歳未満でも全然夜の仕事ができた時代だった。


むしろお店には
ちゃんと本当の年齢を伝えた上で面接をする。

「じゃ、誰か18歳以上の知り合いの名前書いといて。
お姉ちゃんとかいないの?」

と、そんな面接だった。



実際に働いてる女の子も似たような若い子が多く
初めてホステスをした時のような
苦痛な想いもさほどなく
私が新しいお店で働き始めた。



だけど「蒲田」という場所柄
来るお客さんはヤクザ屋さんか
当時流行った違法ギャンブル店をやってる人や
今でいう反社会的な人たちばかり。



そしてこの頃
人生のツラさから現実逃避するために
私はシンナーなどの
薬物に本格的に手を出し始めた。


色々やる機会があったけど
私が一番ハマったのは
当時流行っていたシンナー。


この一年
若者支援の代表として
OD(オーバードーズ)の取材やインタビューが
本当に増えたけど
私にとっては
使用する物は違えど
当時の自分がまさに現実逃避で
そうしたことをしていたから
その辺の大人よりも痛いほど
気持ちがわかる。



好きな人と一緒に居ても
心の隙間が本当に埋まることなんてなくて
淋しい者同士がただ一緒に時を過ごし
ただ一緒に薬物をして現実から逃れる。



誰も私という人間を
心から愛してくれることはなくて
親でさえも遠い遠い存在。



愛してほしくて
認めてほしくて
心の中はいつも叫んでいるけれど
誰にも届かない。


ただただ孤独感と闘う
そんな毎日。




水商売をしていても
シンナーを吸った状態で
出勤したことが何度もあった。


そもそも16歳で
しかもそんなラリってる状態で働いてても許されたのだから
今考えると一体どんな環境だったのかと思う。




そんなある日
Sくんと大げんかをして
出勤前に現実逃避でシンナー吸った状態で
働いた日があった。


半分フラフラした状態で
お店の人に呼ばれて着いた席は
暴力団の組長さん。




初めましてで
その人が何者なのかよくわからない状態で席に着き
私はその組長さんに聞かれるままに
彼との愚痴やら人生の愚痴をこぼし始めた。



人生を捨てかけた小娘が
半分やけくそ状態で仕事していたのだから
本当によく勤まったと改めて思う。


仕事を終え帰ろうとお店を出た時
黒塗りのベンツが目の前に止まり
見るからに怖そうなお兄さんが降りて来て
私に軽く頭を下げてきた。



「組長が話したいと言ってるので
来てもらえませんか?」



無礼が多かったはずの私の接客が意表をついたのか
何故か私はその組長さんに気に入られたようだ。




そのあと何度か食事に誘われたけれど
当時16の私に対し組長は確か50歳位で
お父さんのようなその方に対し
もちろん恋愛感情など持てるはずもなく
「俺の女になれ」と言われても
当然私は応じることが出来なかった。




そもそもその時の私は
彼氏であるS君がとにかく大好きで
正直彼には全然大切にされてなかったけれど
いつ呼ばれても会いに行けるようにしてたほど
私は彼が本当に好きだった。

こう見えて
昔から一途だった私は
S君以外とは全く考えられなくて
他にお誘いや付き合って欲しいと言われても
きっぱりと断ってきていた。



ちなみに後から聞いた話だけれど
当時S君の元にその組長の若い衆から
「沙織と別れろ、
じゃないと蒲田に住めないようにするぞ」
と電話があったという話を
数年後に彼から聞いてビックリした。




当時の私は
何のために生きてるのか?も分からず
シンナー吸って現実逃避して
S君と一緒に居ることにだけに価値を感じながら生きていた。



心から信じられる人も
本当に帰れる場所もなく
身体はシンナーやドラッグでボロボロになっていく。


S君と会えない日は
反社会的なお客さんと飲みに行ったり
違法なゲーム屋さんで一晩中ギャンブルをする。


16歳やそこらで
ポーカーやフルーツゲームを
何万円も投入して
外が明るくなっても
寝ずにずっとやり続ける。



そうして現実逃避してる時だけが
ツライ人生から逃れられる時間だったのだ。



たまに朝になって帰る時
同年代の子が通学してる時間と重なると
虚しい気持ちになったものだ。


制服を着て高校に通う
普通の女の子を見ていると
今自分の居る場所が
どれだけ底辺なのかを思い知らされ
苦しくてたまらなかった。



帰るところがあり
迎えてくれる家族が居て
手作りのご飯が食べられて
安心して眠れる場所がある子たち。



そんなごくごく普通の暮らしをしてる子たちが
とっても羨ましかったし
それによって余計に自分が情けなくなる。

死にたくなる。


同じように孤独を抱え
心の奥ではきっと叫んでいる
いわゆる不良の仲間たちや
反社会的な大人たちと
そんな負のスパイラルに
どんどん堕ちて行く。




「死にたい」
「いつ死んでもいい」
「いっそ消えてなくなりたい」

そんな事しか考えていなかった16歳。





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