菊池良

きくち・りょう。東京都出身。2013年に公開したサイト「世界一即戦力な男」がドラマ化、…

菊池良

きくち・りょう。東京都出身。2013年に公開したサイト「世界一即戦力な男」がドラマ化、書籍化。2017年、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』がベストセラーに。LIG、ヤフーを経て独立。著書に『ニャタレー夫人の恋人』『タイム・スリップ芥川賞』『めぞん文豪』など。

最近の記事

「手袋への手紙」

手袋のあるあるネタ 「たまに片手だけ道に落ちている」 たしかに落ちている あれはおそらく スマホを使うために片手だけポケットに入れ そのあとなにかの拍子で落ちたのだろう その片手袋を拾うのは たぶん清掃のひと そしてゴミとして回収される さて残されたもう片方の手袋はどうなるだろう おそらく片方だけじゃ使えないので 残された片手袋も捨てられてしまうだろう そうして離ればなれになった手袋は ゴミの島で再会する きっと手袋たちが楽しく暮らすゴミの島がある そこまでがある

    • 「スリッパへの手紙」

      スリッパがあると 靴下が汚れない スリッパがあると ちょっとあたたかい スリッパがあると なんだかうれしい 家のなかでぼくは ずっとスリッパといっしょ リビング、仕事部屋、トイレ だけどぼくは寝るときだけ ベッドの横でスリッパを脱ぐ そしてぼくはスリーパーになる スリッパからスリーパーへ ほんとうはなにも 変わっていないのかもしれない 「手紙を読む」とは?作家・菊池良によるシン・人類な朗読番組。 身近な「もの」たちにカジュアルな手紙をおくることで、新たな発見を

      • 「サングラスへの手紙」

        サングラスって魔法だ サングラスをかけると 太陽がまぶしくない だけどサングラスをかけていると 読書ができない 視界が暗くなるから サングラスか読書か ぼくらは二択を迫られる きみはどっちを選ぶ? アルベール・カミュの『異邦人』で 主人公のムルソーは殺人の理由についてこう言う 「太陽がまぶしかったから」 じゃあムルソーが サングラスをかけていたら? 太陽はまぶしくない ムルソーは海水浴をたのしんで 家に帰って本を開いてこう言うだろう 「本が読めない」

        • 「パジャマへの手紙」

          寝るときだけ着る服がある そう、パジャマのこと パジャマは着ていてきもちいい ゆったりしていてリラックスできる でもパジャマはみんな夜しか着ない いったいなぜだろう 昼間もパジャマで過ごせたら 快適なんじゃないか、と思う パジャマで喫茶店に行って パンケーキを食べたり パジャマで会社に行って みんなパジャマで会議に出たり だけどパジャマだから 身体が勘違いして眠くなってしまうかも 喫茶店でも会議室でも思わずうとうと 街中のひとが昼間 みんなパジャマで寝ている

        「手袋への手紙」

        マガジン

        • 手紙を読む
          22本
        • 菊池良のシン・読書
          9本
        • 本棚の住人たち
          6本

        記事

          「カレンダーへの手紙」

          カレンダーを見ると わくわくする どこになんの予定を入れよう だいたい休みの日は赤色で それが多いとうれしくなる 数字の数だけ 新しい予定を入れられる 月が変わって カレンダーをめくったときの あの高揚感 なにも書かれていない 白紙のカレンダーは 可能性の宝庫だ いやちょっと待って 白紙のカレンダーだと 日曜日がわからない 赤色がないから 日付もわからない 白紙だから 白紙のカレンダーは カレンダーじゃない 白紙のカレンダーは 白紙だ 「手紙を読む」とは

          「カレンダーへの手紙」

          「リモコンへの手紙」

          子どものころ リモコンがふしぎだった テレビとつながっていないのに チャンネルを変えられる いったいどうなっているんだろう? テレビと反対の方向に向けても テレビとリモコンのあいだに物があっても チャンネルを変えられる きっと魔法なんだと思った リモコンをつくる工場では 魔法使いたちが リモコンに魔法をかけている どこに向けてもチャンネルを変えなさい、と 最近はネットフリックスのボタンなんかもあるから あたらしい魔法でネットフリックスにも対応している 魔法使い

          「リモコンへの手紙」

          「ウェットティッシュのふたへの手紙」

          ウェットティッシュって とてもふしぎだ ティッシュなのに 濡れている それもずっと濡れている 世界中のウェットティッシュが 乾かないように見守ってくれている番人がいる そう、ウェットティッシュのふた ウェットティッシュのふたがなかったら ウェットティッシュはウェイストティッシュになってしまう もしもウェットティッシュのふたが 反乱を起こしたら ぼくらの世界はどうなってしまうだろうか 渇いたウェットティッシュと 渇いた大地を目の前にして ぼくらは途方に暮れてしまう

          「ウェットティッシュのふたへの手紙」

          「空室への手紙」

          「空室への手紙」 物件情報を見ると すこしワクワクする どんな間取りで 周りはどんな環境なんだろう この部屋だと ベッドはここかな 本棚はここに置こうか 楽しい空想がはじめる ふと気がつく 物件情報に出ている物件は すべて空室 空室の数だけ あたらしい生活がある 空室の数だけ あたらしい選択肢がある あのときあの物件に 引っ越していたら 自分はどうなっていたんだろう 空室の数だけ あり得たはずの世界線が存在する 行ったことのない街の 知らない部屋で もうひ

          「空室への手紙」

          「引き出しへの手紙」

          「引き出しへの手紙」 引き出しがないと 世界はたいへんなことになる タンスはただの四角い木になるし 家のなかにおいてもじゃまになるだけだ 四角い木のかたまりとなったタンスは 家主の足の小指を狙うだけの存在になってしまう もしかしたら積極的に 足の小指を狙いに行くかもしれない AIが搭載された引き出しのないタンスは ちょうど足の小指がぶつかる位置に じぶんの身体を動かしていく AIだからどんどん学習して 家主の足の小指を外さなくなっていく 家主は毎日悲鳴をあげて

          「引き出しへの手紙」

          「靴ひもへの手紙」

          「靴ひもへの手紙」 子どものころ マジックテープ式の靴を履いていた 靴紐式のスニーカーを初めて履いたのは たしか小学五年生のとき おとなへの階段をすこし登った気がした ほんの一段だけ だけどちょうちょ結びがまだできなかったので 靴紐がほどけたときは友だちに結んでもらったりした どれぐらい靴紐をきつくすればいいのかわからなかった あれからたくさんの時間が流れた 正直未だによくわからない きつくしすぎたら 脱いだり履いたりするときにたいへん ゆるかったら なんだか

          「靴ひもへの手紙」

          「缶切りへの手紙」

          「缶切りへの手紙」 缶詰の発明と缶切りの発明は 50年近く空いているという 約50年のあいだ 缶詰は缶切りなしに開けていた 一生懸命 缶切りが発明されたってことは 「これ不便じゃない?」ってだれかが思ったということ でも約50年ものあいだ 「そういうもの」だと見過ごされてもきた 缶切りは教えてくれる いまの世の中にも 缶切りのない缶詰が どこかにあるかもしれない 「そういうもの」だと見過ごされている不便が この世の中にはあるのかもしれない 缶切りは教えてくれる

          「缶切りへの手紙」

          「クリアファイルへの手紙」

          「クリアファイルへの手紙」 ああ、透明なきみよ クリアファイルよ 打ち合わせで向こうが 資料といっしょに出してくる クリアファイルよ これはクリアファイルごともらっていいのかな? いや、クリアファイルだけ返すのかな? 向こうはどういうつもりなんだろう さっぱりわからん…… ってなるクリアファイルよ いや、どうしてもほしいわけじゃないけれど こっちはいまクリアファイル持ってないので それごともらえたらうれしいのだけれど 黙ってもらったら印象悪いかな? くださいって言

          「クリアファイルへの手紙」

          「ネジへの手紙」

          「ネジへの手紙」 あぁ、ねじよ! 一本のねじよ! はたしてきみを どっちに回すのか さっぱりわからない 右か左か ほとんど賭けだ 勝ち負けもないのに なぜかどきどきする もっと困るのは これは閉まっているのか? 開いているのか? なぜかわからないとき いったん逆回しにしてみたりして わたしたちは深刻に考え込む あぁ、ねじよ! だけどきみは決然とそびえたつ 輝くままに沈黙して ねじよ…… どっちに回せばいいの? 「手紙を読む」とは?作家・菊池良によるシン・人

          「ネジへの手紙」

          「リップクリームへの手紙」

          「リップクリームへの手紙」 ああ渇いている いつも渇いている 起きているときも 寝ているときも 渇いている 映画を見ているときも 本を読んでいるときも 渇いている 冒険に出る勇者も 怪しい発明をするマッド・サイエンティストも みんな渇いている あの日 あのとき あの場所で 渇いている きみがいないと みんな渇いている 「手紙を読む」とは?作家・菊池良によるシン・人類な朗読番組。 身近な「もの」たちにカジュアルな手紙をおくることで、新たな発見を楽しむ実験的なプログ

          「リップクリームへの手紙」

          ESSEオンライン「ふしぎなお悩み相談室」 読者のお悩みにショートストーリーで答えています。 ★今回のお悩み かばんのなかのものを失くしてしまいます……。(ふわふわツバメさん) 菊池良のふしぎなお悩み相談室 👉https://esse-online.jp/articles/-/24430

          ESSEオンライン「ふしぎなお悩み相談室」 読者のお悩みにショートストーリーで答えています。 ★今回のお悩み かばんのなかのものを失くしてしまいます……。(ふわふわツバメさん) 菊池良のふしぎなお悩み相談室 👉https://esse-online.jp/articles/-/24430

          「机への手紙」

          「机への手紙」 ああ、つくえ その硬さが愛おしい もしつくえが柔らかかったら? そんなことを考える とても大変なことになる ぐにゃぐにゃして うまくノートに文字が書けない 本を積もうとしたら かたむいて雪崩がおきる どこまでも本が転がっていく そのまま窓から飛び出しちゃうかも 「ああ、あの本がないと仕事ができない!」 飛び出した本を拾ったひとが 自分のつくえに置こうとしても やわらかいからまた転がっていく そうやって地球を一周してしまう だからつくえが硬く

          「机への手紙」