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共感を拒否することー映画と訃報の間で

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」を観た。先週観た『はちどり』に続いて、極私的に身につまされてしまった。今のわたしが観ておいて良かったと思うし、人生において大事な映画になった。ただ、あまりにも私的な部分に響いた映画なので、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』も『はちどり』も気軽に他人と話し合えない気がする。少しでも合わない意見を聞いたら胸ぐら掴んでしまいそうだ。

『ストーリー・オブ・マイライフ』を観るために劇場の席について、スマートフォンの電源を切ろうとした時に三浦春馬さんの訃報を知る。あまりにも急で、しかも自殺との報道にショックを受けた。彼の出演作を全部観るようなファンではないけれど、『世界はほしいモノにあふれてる』に出演しているのは好ましく観ていた。20代までの爽やかな、いわゆる「イケメン」を経て、少し渋みや色気がある佇まいと無邪気な笑顔のギャップにときめいていた。良い歳のとり方をしている、これからが楽しみな人だと思っていた。『ストーリー・オブ・マイライフ』のローリーを演じるティモシー・シャラメの美しい姿を見て、三浦春馬を思い出していた。

歳の近い、美しく才能があり将来にあらゆる可能性が広がっていると思っていた人が自分で死を選んだ、ということに思いの外ショックを受けていて、家に帰っておいおい泣いてしまった。わたしは生きづらさをごまかしながら生きているが、歳を取るほどごまかし方が上手くなり、鈍感になったと思っている。あまり死にたいとか消えたいとか思わなくなっていたし、以前は深く落ち込み、悩んでいたこともほとんど忘れて生きている。彼が何を悩み、どんなことが最後の一押しになり死を選ぶことになったのかはわからないけど、生きづらさを飼い慣らすことをしなかった/できなかったのかなと思う。こういう推測も嫌がられる気がするし、勝手に自分の生きづらさを投影するのも良くないとは思うのだが。

なんだか眠れなくて、録画を残していた『世界はほしいモノにあふれてる』のニットデザイナー・三國万里子さんの回を観た。番組の中盤で、三浦春馬さんが三國さんに編み物のレクチャーを受ける。三浦春馬さんは編み物未経験。それでも、三國さんが簡単に手順を説明するとすぐに理解し、するすると1段編み上げた。三國さんは、「お世辞ではなく、今までの生徒さんの中で一番飲み込みが早いです」と言う。三浦春馬さんは「編み物って楽しい」「集中できて良いですね」と言っていた。

転職に上手くいかなくて落ち込んだ時、わたしは編み物に精神を癒された。彼の悩みや苦しみは、編み物や黙々とできる手仕事で癒すことは出来なかったのかな、と思うとまた悲しくなり泣けてくる。番組で度々出てくる世界中の美しいモノたちも、彼を癒すことは出来なかったのかな、とも思ってしまって、とにかく悲しい。もちろん彼にとっては数ある仕事のひとつであり、実人生と重ねられるのも迷惑だとは思う。

泣きながら眠り、起きてしばらくした後、Facebookの通知を見た。学生時代の友人の投稿の書き出しが、「三浦春馬さん急逝のニュース」で、それを見た瞬間「うるせえ」と声が出てしまった。彼女の結婚・出産を境に疎遠になってしまった友人なのだが、彼女がこの件に言及し、SNS上で薄い共感を得ようとしていることに無性に腹が立った。そして今この文章を書いている。薄い共感を拒絶するために、これを書いている。

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