[実録]働いてみた！ 出会い系というエコシステムの仕組み
時は2010年。大学5年生だった私は気の向くままに求人誌を眺めていた。
目的はそう、出会い系。
…の、オペレーターである。
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私はタイピングが早い。
e-typingでスコア450(professor)出る。
加えて性にも興味があった。
2ちゃんねるだか何だかの怪しい書き込みによれば、出会い系のオペレータは求人誌で募集されているらしい。
…そういえば、最寄りのミニストップにも求人誌が置かれていた。
まさかな。
あるのかよ。
さて、応募の手段は覚えていない。当時はスマホだっただろうか？
とにもかくにも勤務の運びとなったわけだ。
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事務所は新宿二丁目にあった。
ああ、うだるような夏の暑い日差し。2010年の盛夏！
太陽は不真面目な学生である私を容赦なく灼いた。
とてもとても、暑い日だった。
もうゴールしてもいいくらいに。
観鈴ちんはゴールしたわけだが、では私は？
事務所の入り口にゴールしていた。自転車はその辺に停めたように思う。
当時の私のアパートは高田馬場(西早稲田)の1K。神田川のほど近くに彼女と同棲していた。折しも、二人してスープダイエットなる痩身法を試していたときだった。
タコ部屋。
SEとなった今ならもっと適切な例えが浮かぶ。
人を押し込めるだけ押し込んだプロジェクトルーム。
それも、プロパーや色んな会社のBPが入り乱れ、複数のチームによって指揮系統も分かれている感じ。
フロアには長机がひしめいていた。そしてその上には…
ババ様、あれはなに。
おお…あれは…
デスクトップPCの群れ。
そのPC群の前には同じ数だけの人間。
金髪、長髪、チャラリーノ。入った初日に横の可愛い女をナンパするやつ。
男、男、おとこ、女、女、男、男、おとこ、男、男。
不快な距離感。
混雑気味な電車ほどの様相で、フロアは人足たちでひしめきあっていた。
勤務が始まった。
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社畜の朝は早い。
まず事務所の入り口に受付係が居るので出勤の申し入れをする。
次に自分のPCの前に陣取る。
リーダーからメールの振り分けが来るので、こなす。
この世界では返信が全てだ。返信の無いやつに価値はない。
1時間に平均6通の返信があれば時給が50円アップするのだ。それはとんでもない技能に思えた。
人を騙す。自分はキャラクターになりきり、最適な返事を返す。
しばらく音沙汰が無い人には追撃を行う。金。
このユーザは今まで10万円使っている。
このユーザは100万円。
おそらく、一度も出会えていないのに。
感傷に浸る暇はない。
出会い系のメールオペレータにおけるテクニックは、次のようなものだ。
１．キャラクターになりきってメールを送る
基本にして神髄。
そもそも、この現場の出会い系は完全にシステム化されていた。
オペレータたちは管理者から振り出されたアカウントを使用し、毎朝ログイン画面からログインする。
その後、チームリーダからメールが5通ほど振り分けられる。
メールはバラバラだ。送信者も、受信者も。共通しているのはこちらが送信する立場というだけ。
チームリーダはメールの内容に目を通し、返信の難易度を吟味してそれぞれのオペレータ振り分けている。
正にElastic Load Balancerのような立場だ。
オペレータはメールの送信者と受信者のそれぞれをチェックする。
受信者。すなわち「女の子」だ。
さち、ななえ、まゆみ、あんな、キョウカ…
様々な「女の子」がいる。彼女たちはだいたいの住所を持ち、父と母がおり、兄がいたり、妹がいたりする。犬を飼っていたり、趣味がバイオリンだったり。
極めつけは分身だ。
彼女たちは複数人存在する。
同じ「まどか」であっても、北海道と大阪など複数の場所に存在する。
…といったメールの受信者たる「女の子」の素性を、オペレータは素早くチェックする必要があるのだ。2分ほどかければ十分だろう。
次にメールの履歴をチェックする。
どういった会話をしていたのか。デートの予定を立てていたのか。過去にドタキャンしているか。そのときどんな事情を話していたか。祖母が病気？ お金が無い？ 待ち合わせ場所に着いたけど道に迷ってしまって結局会えなかった？
送信者たる実在のお客さんは辟易している場合がある。優れたオペレータは瞬間で状況を把握し、素早くメールを返信するのだ。
「わかりますー(笑)。クリスマスって人肌恋しくなりますよねー。そういえばトミヤマのイルミネーション見ました？ 今年も一人で見るのかな～(泣)。ケイタさんはイルミネーションって興味あります？」
上記の例を題材にして注意すべきポイントを挙げよう。
・「女の子」の地理的所在地近くの話題
これはリスキーな話題だ。何せオペレータたちは新宿二丁目のタコ部屋にいるのだ。福井県や四国のことなんて、実際行った経験が無ければわかりはしない。
だから、調べる。当時からGoogleは優秀だった。
だが、過信はいけない。ネット上の情報は最新とは限らないし、載っていない情報もある。
ーその土地に住む人が当然のように知っていることを何故知らないの。サクラなんでしょ。
ー違うよ！ 生まれが鹿児島県だったから、あんまり馴染みが無くて。
ー前、新潟出身て言ってなかった？
そんな会話もあったとかなかったとか…。
２．サイトの色にあった返信を行う
驚くなかれ、出会い系業者の企業は運営するサイトごとに特徴を持たせていたのだ。
清楚系、お姉さま系、熟女系、エロ系。
どんな区分けがあったかは定かではない。
だが、少なくともこれだけは言える。
「アナコンダ君は要注意ですね…。名前の通り文章が豪快です。
このサイトはエロ抑え目だから、指導しておきます」
上記は、盗み見たリーダーMTGの議事録だ。
間もなくチームリーダに口頭注意された。
ブランドイメージって大事だよね。
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時給は850円。
ただし週40時間以上入れば時給100円アップ。
更に1時間の返信率が6通以上であれば更に50円アップ。
スープダイエットを実行していた身にとって、
夏の照り付ける日差しも、
正社員並みの稼働時間も、きつくのしかかってきた。
結局辞めたときは軽い行き違いがあったのだ。
休みを取ると言ったのに伝わっていないなど。
その程度のことに腹が立ち、すぐ辞めた。
メール先の受付係は「承知しました。では本日最後の勤務お願いします」と事務的な対応。無視。
こうして私の4週間ほどのバイトは幕を閉じた。
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今も出会い系は存在している。
その裏ではシステムが稼働しており、
それを運営する人たちがいることを、忘れないでほしい。
少し調べれば、出会い系システムを販売しているシステム会社もヒットするはずだ。
日の目の当たらない社会の裏側のエコシステムに愛を込めて。
9年ぶりの祝福を。
(完)
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