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カム・トゥ・プラクティス・エブリデイ

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逆噴射小説大賞に投稿したパルプ小説のまとめ。及び備忘録。
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記事一覧

埃と永鋼の街のタイガー

コーラを入れると、脳にハイオクがぶちこまれた。
誰かのうめき声。自分の物だと気づくのに三秒。
目を閉じて上を向く。大きく息を吸い、大きく吐く。フィルタがかかって高揚感だけが残る。
目を開ける。カウンターに置かれた自分の腕、袖をまくれば青紫の注射痕だらけ。
顔を上げる。ずらりと棚に並んだ酒瓶。視線をずらせばマスターの呆れた目。
『アース&ファイヤー』の出入り口ではストリートサムライ達がたむろしては、

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パルプ・ファンタジー

大体の物語は酒場から始まる。この話の場合は、トーラスの町の一軒の酒場から始まった。
ダンとニーナはその酒場で一番安い昼食を頼んで、向かい合って食べていた。
「この肉、ひどい味だ。腐りかけじゃねえのか?」
「ちょっとダン。失礼でしょ。銅貨3枚でこれだけ食べられれば十分じゃない」
「いーや。分かってないな。全然分かってない。ドルクの街を知ってるか?」
「あの城下町の?」
「あそこには王様の食事に出され

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参拝大戦争

神社に入ると、二礼二拍一礼に失敗したアメリカ人が爆発していた。
「生半可な覚悟で来るからだ」
裕太が厳しい目で呟いた。私が、流石に殺すのはやりすぎだよ、と言うと「甘い」と裕太は言った。
裕太の家はお寺だ。去年、外国人の一団に枯山水を荒らされてから、裕太は修羅と化していた。
ふと気が付けば、鳥居の前で礼をするのを忘れたカップルが、神主の44マグナム弾で銃撃された。
大晦日の神社は戦場だ。あちこちで参

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罪人狩人と金鱗を持つドラゴン

目の前でバカの首がすっ飛んだ。俺はロングソードを肩に担いでごきげんだった。
今日の飯の種は、盗賊ギルドの金を持ち逃げしようとしたバカだ。裏切り者が標的なのは気分がいい、良心の呵責ってやつがない。
俺みたいな罪人狩人にとっては、絶好の獲物だ。
法をはみ出したり、組織の掟を破っておきながら、衛兵や刺客の手を逃れた奴ら。依頼に応じて、そいつらを追いかけて殺すのが罪人狩人だ。
つまりは殺し屋だ。
死体の懐

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ゾーニングVSブックストア

「言いたいことがあるんだけど」
レジに立っていると、突然に声をかけられた。
「このお店は、なんでこんな本を売ってるの?」
オバサンが叩きつけるように置いた本は、少し表紙が過激なラノベだ。
またか…と俺は呆れる。最近はこんな客が多い。
子供のためだとか有害図書だとか言って、表現の自由を廃そうとする、自称・正義の使者。
正直、営業妨害だ。俺はレジ下のショットガンに手を置く。
「はい、それは青空ミソラ先

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星の聖剣は戦いの日々を求めて叫ぶ

星の聖剣は戦いの日々を求めて叫ぶ

ブルーエイス。早く起こしに来てくれ。
この真っ暗な海の底で、俺は待っている。
お前に置いてかれてから、俺はずっと一人ぼっちだ。
ブルーエイス。聞こえるか?
お前は俺がいなけりゃダメだろう。
あのドラグーン大戦でオークの大斧から守ってやったのは、どこの誰だったか覚えているか?
ブルーエイス。行かないでくれ。
俺にはお前が必要なんだ。
お前に使われている日々が、一番幸せだった。
冥王軍の精鋭部隊を一騎

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レッドドラゴンと嵐の槍を持つ少女

赤竜の翼が碧空を切り裂き、大きく羽ばたいた。
ライサは槍を強く握りしめ、鞍を足で挟んでは、暴風に吹き飛ばされまいとこらえている。
「どうだ?やはり女の身にドラゴンライダーは荷が重いだろう?」
赤竜の挑発に、ライサは槍の柄で巨大爬虫類の首を殴りつける。
「うるさい!お前の背中に跨るうちは、私がお前の主だ!それを忘れるな!」
赤竜はガラガラと笑いだけを返し、さらに翼を動かした。
パンテアの町が豆粒より

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週末、幼馴染とデートをしてセックスした

屋上の風を浴びながら食べる昼飯は、とてもまずかった。
もくもくと飯を口に詰め込んでいると涙が出てくる。今の俺は、打ちのめされた野良犬だ。
いつも餌をくれるからって、勘違いしてすり寄ったら蹴り飛ばされる。バカな野良犬同然だ。
「おー、打ちひしがれてるね」
いつの間に屋上に入ってきたのか、カンナが声をかけてきた。
「お前もバカにしに来たのか?」
「違うよ。教室にお茶を忘れたでしょ」
そう言って、カンナ

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感染源の俺と白い彼女

東京は死んだ。俺の手によって。
16歳の誕生日。俺は空気感染する殺人ウイルスを媒介するコロニーになった。感染範囲は俺から約10㎞。菌を一つでも吸い込めばアウト。
感染すれば、体中にぶつぶつが出来て、血を吐きながら死ぬ。
そんな風に人が死ぬのを、飽きるほど見てきたからよく知っている。
自衛隊や特殊部隊が俺を殺そうとしたが、俺は必至に抵抗した。
パニック状態で混乱する群衆に紛れて逃げ延び、特殊部隊は防

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アステア大陸殺神記

破壊神ゴアの復活!その報はアステア大陸中を駆け抜けた。
俺がそれを聞いたのは、コボルト退治を終えて小屋でラムを飲みながら装備を磨いている時だった。
「アレス!」
幼馴染の神官であるニーアが、俺を呼びながら小屋に入ってきた。
「どうした?今日は教会で説法があるんじゃないのか?」
「中止になったの!破壊神復活の話を聞いて、みんな怯えてる!」
「破壊神?」
ニーアの話を要約すると、こうだ。大陸の辺境に封

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成層圏のからくり細工

俺は堕ちている。高度20000mの虚空から。
落下速度と共に風が勢いを増していく。びゅうびゅうと風が身体を撫でるせいで、生体部品の温度が低下し、冷え切ってしまう。壊死しない事を祈ろう。
寒さはない、俺はサイボーグだ。
8年前、ロシアを前身とした人工知能主義国が生み出した史上最大のコンピュータ『マザー』。つい先ほどまで、俺はその内部に潜入していた。
掴んだ情報は、あまりに深刻なものだった。
人類とロ

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地獄狩りの魔剣

地獄の門が開き、グラム王国は災禍に呑まれた。
絶対的な正義の象徴たる白銀の都市は、地獄の炎の前に溶解して崩れ落ちた。門から這い出たインプたちが、逃げ惑う市民をつかまえると、鋭いかぎ爪で目玉をえぐりぬいては、それを飴玉のように口の中で転がす。
オーガの怒張に股を裂かれて泣き叫ぶ母親の前で、ガーゴイルが赤ん坊を生きたまま喰らう。
人間の血と苦悶が捧げられ、地獄の門はさらに広がりを増す。
巨大な斧を担い

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ゴブリンの死体の山の上で

グラートの剣が、見張りのゴブリンを斬り倒した。
とっさに呼び笛を取り出したもう一匹のゴブリンの喉笛を、マクギリスの細剣が貫く。
茂みが洞窟近くまで続いていて良かったと、マクギリスは思った。
でなければ、増援を呼ばれて面倒な事になっただろう。

グラートが剣を納め、キードの枝に火をつける。
キードの枝は火が付くと多量の煙を吐き出す木材で、小指ほどの長さで狼煙が上がるほどの煙を出す。
グラートはそれを

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ドラゴンバスター・ザ・サムライ

サムライの相手は、巨大な二足歩行の豚だった。
オークと呼ばれるその種族は、はるか昔に豚の神様に呪われたせいで、そんな醜い外見となったらしい
オークはでっぷりと肥えた腹を揺らしながら、大斧を担いで闘技場に入場する。口から吐き出される悪臭がこっちの観客席まで漂ってくる。
こんなナリをしているが、オークの膂力は危険だ。戦場では大斧を風車のごとく振り回し、甲冑ごと兵士をバラバラに引き裂く。その旋風を止めら

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