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「怖れ」

  "Los dos miedos"
    ー Ramón de Campoamor ー

  Al comenzar la noche de aquel día,
  ella, lejos de mí,
  -¿Por qué te acercas tanto? -Me decía-.
  ¡Tengo miedo de ti !

  Y, después que la noche hubo pasado,
  dijo, cerca de mí:
  ¿Por qué te alejas tanto de mi lado?
  ¡Tengo miedo, sin ti !


  「ふたつの怖れ」
    ──── R.カンポアモール ────

  あの日の宵、
  彼女は私から離れて言った
  "なぜそんなに近づこうとするの?
   私はあなたが怖いの!"

  あの夜が過ぎた後、
  彼女は私に近づいて言う
  "なぜそんなに離れたがるの?
   あなたがいないと 私は怖いの!"
             (訳:小迫良成)

※ ※ ※ ※ ※

ホアキン・トゥリーナの歌曲集
《歌の形をした詩》の第4曲、
「Los dos miedos (ふたつの恐れ)」。

この歌曲集の中で
私の一番好きな曲でもある。
(次点は"Nunca olvida")

愛を受け入れる恐れと
受け入れた愛を失う恐れ、

その対比が
コミカルにも見えるような言葉で
詩に描かれているが、
これにトゥリーナの音楽が加わり
さらに面白い効果を出している。


1節の終わり、
"Tengo miedo de ti"の言葉は
楽譜上ではdurのメロディだが
慣習的にmollで歌われることも。

durの場合は迫られた彼女が
少し身構えながらも
彼への好意は示したいという
(あるいは拒絶する振りをして
 その実、誘っている)
駆け引きの表情が強調される。

逆にmollの場合は
彼の愛を受け入れたいが
その愛に溺れてしまいそうな
自分自身に恐れを持つ
彼女の心情が強調されることに。

うーむ、
男性としてはどちらの方が
「男冥利に尽きる!」
・・・のだろうか?(ワハハ)


ちなみに
この曲の1節と2節の間の間奏は
歌曲集の第一曲である
"Dedicatoria"でも用いられている。

作曲者のトゥリーナにとっても
この詩には特別な想いがあるのかも。


曖昧で
どちらとも取れる言葉と
曖昧で
どちらとも取れる音楽・・・

このような曲を前にすると
思わず、あれこれと
想像を逞しくしてしまう私がいる。

私もまた
曖昧なものの中で
右に行くか左に行くか、
前に進むか後ろに引くか、
心と感情が
たゆとうている存在なのだろう。

それぞれの選択の先に
夢と怖れをいだきながら。

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