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ライフとワークのバランスは

私は大学院時代に在校生や卒業生の就職相談やカウンセリングをするオフィスでバイトをしていた。
そこで働くことになる経緯は、以前書いたことがある。

そのオフィスの名前は「Life Work Center (ライフワークセンター)」。
電話番をするにあたり、上司であるキャロリンに尋ねた。

「普通、ワークライフバランス、っていうじゃない?どうしてここの名前はライフワークセンターなの?」

キャロリンは、よくぞ訊いてくれたというにっこり顔でこういった。

「チャーリーがぜったいに譲らなかったポイントの一つなのよ。そりゃ、人生が先だろって」

子供のころ、パン屋の子であることが大嫌いだった。

お店の定休日は、商店街みんな共通の毎週水曜日。
でも、水曜の夕方には翌日の仕込みがある。
だからせっかく学校の休みと水曜が重なって家族のお出かけができても、ぜったい夕方には帰らないとならない。
そんなことも嫌だった。

「大きくなったら、ぜったいにサラリーマンのところにお嫁に行くのよ。こんな風に毎朝毎晩働かなくていいし、お店のことも家のこともやらなくちゃいけないなんて大変なんだから」

母と二人で、お墓参りにいったとき。
たちよった親戚のおばさんのおうちで、窓の外に目をやりながら冗談ともつかない口調でそういった母の横顔を思い出す。

サラリーマンは、週に二日もお休みがある。お休みしてる日もお給料がでる。朝4時から夜9時まで働かなくてもいい。

あいにく、サラリーマンの奥さんにはなれなかったけど、サラリーマンにはなった。

東京でサラリーマンをしていたときは、しかし、ひどい時には夜中の1時まで働き、そこから飲みに行き、そして朝8時に客先でプレゼンなんて日があった。
山手線の終電に間に合うように、オフィスの掃除のおばさんがやってきたところで最後に電気を消して退社なんてザラだった。

イギリスに転勤してきた最初のころ。
だから、夕方7時前に家に帰ってくるヨーロッパ的勤務スタイルに慣れなかった。
そのあとの夜が長いし、友達もいないロンドンで、いったい何をしたらいいのかわからず時間を持て余した。

「酸素マスクと同じ。まず自分がつけて、そのあとほかの人がつけるのを助けてくださいっていうでしょ」

ここ数年、怒涛のように続くトラブルに疲弊していた部下たちに、なんども休むこと、弛緩することの大事さを話している。

今や私はすっかりこの国の働き方に慣れたのかもしれない。

ニンゲンはやっぱりずっと張りつめてはいられない。
それがどんなに興味があって熱中できる仕事であったとしても、緩める瞬間がなくてはいけない。

誰かのことをサポートするためには、自分に誰かを助けられるゆとりがなくては無理なのだ。

ヨーロッパ化した、といわれればそれまでだ。
けれど、以前の「情熱があって仕事自体が楽しい」時代に比べると、実は今は「生活費を稼ぐことが目的」に思えてしまう。

となればなおさら、しっかり仕事の外を楽しんで、
気持ちを緩める時間を持ちながら、
ライフとワークのバランスを取っていくことが肝要なのかな、と思う。

いただいたサポートは、ロンドンの保護猫活動に寄付させていただきます。ときどき我が家の猫にマグロを食べさせます。