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♯36 長野生まれの新進イチゴ農家。セオリーに頼らず独自のスタンスで追及する理想の味

farm.舞木
宮島清人さん

日当たり、風、気温、土質。同じ作物でも自然環境一つで味や出来映えは大きく変わります。生産者のみなさんは、自分に与えられた環境の中でその気候に適応し、ベストな作物を私たちに届けるために日々努力や研究を重ねています。

三春町下舞木で2020年からイチゴ栽培に取り組む宮島清人さんは、まさに今、その研究と実験を重ね、理想のイチゴを生み出そうとトライする生産者の一人。お話を聞くと、将来の規模拡大に向けて綿密に、かつ慎重に研究に励む姿が見えてきました。

自ら資材を購入しオリジナルの棚を組み立てるなど、セオリーに頼らない独自のスタンスでイチゴと向き合う宮島さん。そんな宮島さんの「実験室」ともいえるビニールハウスにお邪魔し、想いを聞かせていただきました。

山梨の農業ベンチャーで大規模イチゴ栽培の立ち上げに参画

宮島さんは長野県千曲市の出身。大学を卒業後、ゴルフ場の運営会社に就職し、千葉や茨城のゴルフ場で芝を科学的に管理する業務を中心に6年にわたり働きましたが、仕事を続ける中、自分が本当にやりたい仕事は何なのかを考えるようになったと言います。

「思い出したのは、子供の頃に接していた畑のことでした。農家ではありませんでしたが、祖父がかなりこだわって野菜を作っていたんです。それがすごくおいしくて、子供心にスーパーの野菜とはずいぶん違うなと感じていました。そんな経験から、作物を作るということに漠然と興味を持つようになったのだと思います。」

その後、長野県内の食育関連の会社に転職し、その会社が手掛ける畑でいろいろな農産物の栽培に関わりますが、その一つがイチゴ栽培でした。その経験をきっかけに、次の転職先となった山梨の農業ベンチャーでは大規模なイチゴ栽培事業の立ち上げに参画。最先端の機器も導入した高度な栽培の現場にゼロから関わり、3年にわたってそのノウハウを吸収しました。

「その3年間でイチゴ栽培の基礎をある程度身につけることができました。栽培技術はもちろん、イチゴを作るうえで必要な設備や、その設備を入れたことによってどんな効果が出るのか、さらに設備の導入にかかる費用面まで、業者から話を聞くのではなく自分で見て判断できたことは大きな収穫だったと思います。」

起こり得る失敗はすべて経験しておきたい

もともと人の下で働くよりも独立志向が強かったという宮島さん。山梨で経験を重ねたことでイチゴ農家として独立する意志が芽生え、農地を探し始めます。その中でたどり着いたのが三春町にある親戚の農地でした。2020年に移住し新規就農。1年目はまずこの土地の気候を知ることから始めたそうです。

「普通の生産者の方は、ハウスを建てる際の融資のことなど、いろいろ準備を整えたうえで新規就農するんでしょうが、僕の場合はまず新規就農が先にあって、そこからどうしようかを考えた感じです。

というのも、農業にとっての一年という時間は非常に貴重です。年に一度しか作物が作れませんから、今年失敗したことを今年のうちに取り返すことができません。しかし、スタートが早ければそのぶん失敗の経験も積み重ねることができると考えました。もちろん、すぐに思い通りのイチゴができるとも思っていませんでしたので、5年後に理想の形にするイメージで、起こり得る失敗はその間にすべて経験しておこうと思っています。」

気候に関しても栽培を始めてみなければわからないことが多かったと宮島さんは言います。いろいろな失敗を重ねたり、日々の仕事の中で気づいたことをマニュアルにまとめたりして、トライ&エラーを重ねながら長期的な視野に立ち計画的にイチゴ栽培を進めています。

あえてセオリーとは真逆のことをやってみる

ハウス内の棚はすべて宮島さんが手作りしたもの。いかにコストを抑えつつ質の高いイチゴを作ることができるか。それもまた宮島さんにとって大きな実験テーマとなっています。

「イチゴの栽培を始めようと考える方が最初に最も懸念するのが初期投資です。僕はそこをいかにカットできるかということを常に考えています。自分で作れるものは作り、代用できるものは可能な限り代用したい。そうすればお客様に提供する際の値段も下げることができ、より買っていただきやすくなると思うんです。」

今栽培しているのは7品種。この中から土地との相性やお客様の趣向に合わせて品種を絞っていく予定です。そんな宮島さんが求める理想のイチゴとはどんなものなのでしょうか。

「甘みと酸味とのバランスの良さですね。酸味が甘味を引き立て、そこにコクが加わることでさらにおいしくなります。そうしたイチゴの栽培方法を今も探っているところですが、僕がやっていることは、もしかしたらセオリーと真逆かもしれません。セオリー通りにやればセオリー通りのイチゴができることは間違いないですよね。あえて逆のやりかたをしたらどうなるのか。それも今、実験をしている途中です。」

 さらに、農薬はほとんど使わないそうですが、そこにも宮島さんならではのこだわりがあるようです。

「野菜や果物に農薬が付いてしまうからという理由で農薬を避ける生産者の方は多いと思います。確かに一つにはそれもありますが、それに加えて僕が気にするのは、農薬のせいで葉っぱが傷んでしまうこと。葉っぱが痛むと光合成の能力が落ち、味に影響が出てしまうんです。」

作物を守るためにあえて農薬を使わない。この発想も、宮島さんならではの実験の成果かもしれません。

イチゴを通して自分自身を表現したい

今後も舞木での「実験」を進める宮島さん。その実験の先にどのような未来を描いているのでしょうか。

「まずはこの土地である程度マニュアルのようなものを作りつつ、条件の良い土地を見つけ、規模をどんどん広げていきたいと思います。具体的に規模に上限を定めているわけではありませんが、いずれは広く全国展開するようなことも考えたいです。どこかで止まるというイメージはまったくなく、何かしら常に動き、広げていきたい。なるべく福島の気候を活かしつつ、コストとのバランス、味とのバランス、収量とのバランスを見極めながら、最適な栽培法を探していこうと考えています。

そしていずれは、イチゴを通して自分自身を表現していけたらと思います。ただの農家というより、何か面白いことを常に発信するような存在でありたい。5年の準備期間が終わったら、デザイン面なども含め、かなり攻めたこともやろうかなと考えています。」

宮島さんのイチゴが三春から県内各地へ、さらに福島から全国へと届けられる日がいずれ来るかもしれません。そんな未来を思い描きながら、宮島さんの「実験」は今日も続いています。


farm.舞木
福島県田村郡三春町下舞木
https://www.instagram.com/farm.mougi/
※直売あり(事前にInstagramのDMよりお問い合わせください)


<宮島さんのイチゴが買える場所>
※入荷状況や時期によりお求めいただけない場合があります。

■旬鮮直 食材しのや
福島県郡山市桑野3-15-6 クローネ郡山Ⅱ101
Tel 024-954-8339
https://www.instagram.com/syokuzai_shinoya/

■ベレッシュ
福島県郡山市八山田西1-160
Tel 024-973-6388

■米粉のお菓子 ama-iro
福島県田村郡三春町下舞木間明田26-1
Tel 070-3196-9062
https://www.instagram.com/ama_iro.kitchen/


<動画>ショートムービーをご覧ください。

2022.3.14 公開
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Movie by 杉山毅登(佐久間正人写真事務所
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)

<放射線量に対する対策について>

宮島さんはイチゴの出荷に際し放射線量検査を実施。安全安心なイチゴを出荷しています。

「福島で新規就農をすることに抵抗がある方もいらっしゃるのかもしれませんが、僕はぜんぜん気にしませんでした。それよりも“農業をやりたい”という気持ちのほうが強かった。夢を実現するための農地がたまたま福島にあったというだけの話でした。

大学時代は栃木で過ごしたのですが、福島出身の友人も多かったですし、その友人と郡山方面に遊びに来たこともあったので、もともと福島にはいいイメージしかありませんでした。また、農地を一度見に来た時に、親戚はもちろん地域の人達が快く受け入れてくれたことも後押しとなりました。直売をする日にはのぼりを立てるのですが、集落の人たちはそれを見て買いに来てくれます。自分で食べるのではなく“贈り物に使いたい”と言って買ってくださる方も多くて、うれしくなりますね。」

参考:食と放射能について
食と放射能に関する正しい知識を身に付けましょう。
食品と放射能に関する消費者理解増進の取組(消費者庁)

参考:福島の今
知るという復興支援があります。"風評の払拭"に向けて、知ってください。福島のこと。風評の払拭に向けて、知ってもらいたいことを分かりやすくまとめました。
数字で「知って!」「食べて!」「行こう!」福島(復興庁)

※福島県産農林水産物については、生産段階(産地・生産者)、流通段階、消費段階において放射性物質の検査が行われ、安全性が確認された農林水産物のみが出荷されています。

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