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#14 農家8代目、野菜ソムリエにして教育委員。地元野菜の伝道師が寒さを恵みに育てる「郡山ブランド野菜」

ふじた農園
藤田浩志こうしさん

玉ねぎの「万吉どん」、中ねぎの「ハイカラリッくん」、かぶの「あこや姫」…。ユニークな名前が付けられたこれらの野菜はすべて、統一された規格のもと市内の農家たちによって作られる「郡山ブランド野菜」。郡山が誇る新しい産品です。

郡山を象徴するような野菜を自分たちの手で創り出そう――そんな想いのもと郡山ブランド野菜の認定がスタートしたのは2003年のこと。2007年には現在の「郡山ブランド野菜協議会」が発足し、何百何千という品種の中から郡山の気候風土に合った作物をほぼ一年一品ペースで認定してきました。現在、13の野菜がその認定を受けています。

その郡山ブランド野菜協議会の一員として、濃いオレンジ色にすらりとしたフォルムが美しい「御前ごぜん人参」、葉の詰まりが良く温めることで豊かな甘みが引き出されるキャベツ「冬甘菜ふゆかんな」、なめらかな舌触りとさっぱりした後味のサツマイモ「めんげ芋」の3品を生産する藤田浩志さん。郡山市熱海町安子島で江戸時代から続く米農家の8代目として、春から秋にかけては米を、そして野菜に甘みが乗る冬にはブランド野菜を生産しています。

しかし、農家としての8代の歴史の中で本格的に野菜作りに取り組んだのは、藤田さんが初めてだと言います。なぜ藤田さんは米農家でありながらブランド野菜を手掛けることになったのでしょうか。そして、ブランド野菜を通してどんな農業の未来、郡山の未来を見据えているのでしょうか。

野菜なら父とは違うフィールドで勝負できる

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藤田さんは明治大学農学部を卒業後、東京で会社勤めを1年経験し帰郷しました。郡山市内で大規模に稲作を手掛ける会社で米作りを学んだ後、結婚を機に実家で新規就農。当然、そのはじめの一歩は米農家としてのスタートでした。

「米以外のものを作るなんて思いもしませんでした。大学時代にはサボテンすら枯らすような男でしたしね(笑)。

でも一方では、米農家としてやっているだけではダメだという危機感もあったんです。米作りでは父のほうが圧倒的に経験豊富ですから、どう頑張ったって超えることはできない。このままでは、自分はいつまでも“父の息子”としてしか認識されないんじゃないかと。」

そんな時に紹介され参加したのが、郡山市の農業青年会議所でした。農業青年会議所では、その2~3年前から有志によって「郡山ブランド野菜」の取り組みが始まっており、若い農家たちが郡山の新しい特産野菜を作るために動き始めた、まさにそんな時期でした。

「郡山でこんなことができるのか、これはおもしろい取り組みだなと思いましたね。それに、野菜なら父とはまったく別のフィールドで勝負できるわけですから、“自分がやった”という誇りも見出だせる。コンセプトのおもしろさと、自分のわがままを満たす要素と、その両方が郡山ブランド野菜にはあったんです。

作り手にとってブランド野菜のいいところは、作り方がしっかりとマニュアル化されていること。野菜作りってそれぞれの農家さんの勘に頼る部分が大きいので、明文化しにくいんですよね。それはそれでいい部分もありますけど、ある程度蓄積されたノウハウをまだ駆け出しの農家だった私にも公表してもらえたことが、自分にとっては大きかったです。もしブランド野菜がなかったら、今でもひたすら米だけを作っていたかもしれないですね。」

試行錯誤の末に考えたどり着いた“原点回帰”

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そうして野菜作りをスタートした藤田さんですが、やはり最初はいろいろな失敗や試行錯誤があったと言います。

「自分がラッキーだったのは、7代続いてきた米農家としての経営のベースがもう出来上がっていたこと。だから思い切って野菜にチャレンジできました。

でも、野菜を作るのが楽しすぎて季節を考えずにどんどん植えていたら、ベースである米の作業に充てる時間がなくなってしまったんです。経営を考えると、これではまずい。その経験があって、春から秋に米作りをやって冬場は野菜を生産するという今のサイクルが出来上がりました。

作り方に関してもいろいろやりましたね。農業に関わらず、すべての仕事において“独自色を出したい”と思う人は多いと思いますし、私も最初はそういう農家になりたいと思ってやっていました。でもある時から、それは果たして食べる人が求めていることなのか、自分がこだわるべきところは本当にそこなのかと思うようになったんです。

もちろん、自分が作って楽しいことよりも、食べる人がおいしいと思ってくださることが大事に決まっています。じゃあ、おいしいものを作るためにはどうしたらいいか。私の答えは“原点回帰”でした。先輩たちが積み上げてきたスタンダードな作り方が、結局は一番間違いなかった。いろいろ試してみた上で気づいたことです。」

土地の力でおいしく出来上がる手伝いをしているだけ

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そうした試行錯誤の中で辿り着いた野菜の一つが、郡山ブランド野菜である「御前人参」です。寒さが徐々に厳しくなる11月から収穫をはじめ、2月までの3~4ヶ月が出荷のシーズン。冬野菜ならではの甘さを湛えた、藤田さん自慢の人参です。

「御前人参は、まずフォルムが美しいですね。すらっとして。味も、人参特有の臭さがまったくありません。人参って昔から子供たちが嫌いな野菜のトップ3に必ず入っていたような野菜ですけど、御前人参なら子供たちがおいしいと言って食べてくれます。冬野菜の甘みを、子供たちもちゃんと感じてくれるんでしょうね。

この辺は郡山の中でもかなり寒い地域にあたりますから、うちの御前人参はその寒さのおかげでかなり上品な甘みに仕上がっていると思います。決して私が特別なことをしているわけではありません。育ちやすい環境を整えて、土地の力でおいしく出来上がるための手伝いをしているだけです。」

教育委員として子供たちに伝えたいこと

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藤田さんは現在、郡山市教育委員会の教育委員に選ばれ、子供たちに野菜や野菜作りの魅力を伝える取り組みにも参画しています。

「子供たち向けの授業では “栄養の話をしてほしい”とか“体のためにいかに野菜が大事かを話してほしい”と言われるんですけど、それよりも単純に野菜にいいイメージを持ってもらうことが大事だと思っています。だから、教えるのはごく簡単なことです。“野菜ってこんなにカラフルなんだよ”とか、“こんなふうにおもしろく育つんだよ”とか、普段なかなか見る機会のない野菜の花を見せてあげたりとか。

子供たちの反応は、すこぶるいいですね。こちらも話していて楽しいですし、その中で子供たちが、大人が考えもつかないようなおもしろい質問をたくさんしてくれるので、それに答えることが私にとっての勉強にもなっています。」

郡山ならいくらでもおもしろい農業ができる

人前で話すことが根っから好きだという藤田さん。教育委員以外に野菜ソムリエとしての顔も持ち、各地の講演会で、時にはテレビやラジオで野菜の魅力を積極的に発信しています。言わば、地元野菜の伝道師ともう言うべき存在です。

「野菜作りの技術では先輩方にかなわないぶん、私は私なりの特性を活かして、先輩たちが誇りを持って作っているものを紹介していきたい。野菜ソムリエになったのも、そんな想いからです。生産者はどんなふうに野菜を食べてほしいと思っているのかを伝え、食べる人は野菜の何を知りたいと思っているのか、どういうものが欲しいと思っているのかを聞き、それを生産者にフィードバックする。それが、人前に立つ上での自分の役割だと思っています。

以前は、“郡山ではおもしろい農業なんてできないだろう”と勝手に思っていました。でも、ブランド野菜の広がりを考えれば、そんなことはまったくない。震災だって、とてつもなくマイナスではあったけれど、それによって生まれた新しい出会いや交流もありました。

特に郡山はもともとの人口も多いですし、交流人口も多いですから、農業にもいろんな可能性がある。郡山ならいくらでもおもしろい農業ができるって、最近は思っているんです。」

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ふじた農園(藤田浩志)
E-mail kossyvege@gmail.com
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<藤田さんの野菜が買える場所>

■ベレッシュ 農産物直売所
福島県郡山市八山田西一丁目160
Tel 024-973-6388

■郡山市磐梯熱海観光物産館(ほっとあたみ内)
福島県郡山市熱海町熱海二丁目15-1
Tel 024-953-5408
https://www.kanko-koriyama.gr.jp/tourism/detail3-10-508.html

■愛情館
福島県郡山市朝日一丁目3-35
Tel 024-991-9080
http://www.fs.zennoh.or.jp/product/aizyokan/

取材日 2019.11.28
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Interview / Text by 髙橋晃浩Madenial Inc.
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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