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#21 パラオでのダイビングインストラクター生活を経て約20年ぶりの故郷へ。いま農業に抱く「追いつかないほどたくさんの夢」

須藤農彩園
須藤佳英よしひでさん

郡山の市街地から東へ約25kmに位置する田村町田母神たもがみ地区。郡山で最も東にある集落の一つです。標高は500~600m。阿武隈高地の山あいに抱かれたこの土地には、これまで何代にもわたり受け継がれてきた豊かな農業の歴史が息づいています。

今回お邪魔した須藤佳英さんのお宅もそんなご家庭の一つ。庭には幹を中心に大きく左右に枝を張った樹齢300年ともいわれる松の古木が雄々しく根付き、苔むした姿が須藤家のその長い歴史を物語っています。

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(写真:お父様の大吉さん、お母様の瑩子えいこさんと)

この家に生まれ育った須藤さんが後継者としての道を歩み始めたのは2017年のこと。進学で故郷を離れてから約20年。長い年月を経て再びこの地に根を張るまでには、世界を股にかけた長い旅の半生がありました。

「地元産ブドウで造るワイン」に動いた心

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把握できているだけでこの家の5代目にあたるという須藤さん。ご両親やおじいさん、おばあさんから「家は継ぐものだ」と言われて育ったといいますが、ご本人には早くから海外志向があったそうです。

「継げと言われれば言われるほど反発したくなるもので、自分が農業をやることなど考えたこともありませんでした。本当に何もない場所ですし、いずれはここを出ていろんな経験を積みたいと思っていたんです。

おそらく、若い頃は農業と自分がまったく結びつかなかったんですね。いずれ帰ることになったとしても、60歳を過ぎて仕事をリタイアしてからとか、そんなイメージしか持っていませんでした。」

高校の社会の教科書に載っていたアフリカの砂漠の緑化の話に興味を持ち、森林資源について学ぶべく神奈川県内の大学へ進学。「親には頼りたくない」とアルバイトをしながら勉学に励みますが、湘南に近く、またアルバイト先にサーファーが多かったこともあって、たちまちサーフィンに没頭する日々へ。その後、海に関わる仕事がしたいとダイビングインストラクターの免許を取得し、横浜のダイビングスクールで10年働きます。海好きはさらに熱を帯び、世界でもトップクラスを誇る海の美しさに惚れ込んで日本から南へ約3,000kmの太平洋に浮かぶパラオへ。山に囲まれた実家とはまったく異なる環境で約6年間、インストラクターとして生活しました。

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ところが2016年の夏、1ヵ月のバケーションを取り帰省した際にたまたま手にした新聞の記事に目が留まります。前年に竣工したふくしま逢瀬ワイナリーで醸造するワイン用のブドウ作りに市内の農家が挑む記事。瞬間的に「おもしろい」と感じたと言います。それまで自らの力で自らの生きる道を切り拓いてきた男の血が騒ぎました。

パラオでの仕事を整理し帰国したのは、それから約1年が経った2017年10月。すでにブドウ栽培を始めていた市内の生産者を訪ねて情報を集めるなどしながら準備を重ねつつ、自宅の裏の土地をブドウ畑用に切り拓いて、2018年春に「シャルドネ」の栽培をスタートさせました。

せっかく作るなら自分が「おもしろい」と感じるものを

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「もともと資格を取ったりするのが好きなんですよね」と自らを語る須藤さん。就農にあわせて取得したのが野菜ソムリエの資格です。その勉強で得た新しい発見は、現在ブドウと並行して栽培している野菜のチョイスに活きているといいます。

「これから農業をやるというのに、野菜の種類についてはほとんど知識がありませんでした。野菜ソムリエの資格取得のテキストで、僕らが普段食べている野菜以外にも世の中にはいろいろな野菜があることを初めて知ったんです。そこから、せっかく作るなら人とは違う野菜を作ってみたいと思うようになりました。」

ブドウは、栽培を始めてから最初の出荷まで3年の歳月を要します。その間に須藤さんが手掛け始めた野菜の一つが、イタリアントマトの「サンマルツァーノ」です。

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「せっかく作るなら、お店に出荷するだけではなくネット販売や六次化のことも考えて個性を出せるものにしたいと考えました。イタリアントマトは普通のトマトよりも皮が厚く生食にはあまり向いていませんが、ジェル質が多いため調理をすると格段においしくなると聞いて、“おもしろい”と思ったんです。ブドウの記事を見て感じたのと同じ感覚でした。」

自らが直感的に「おもしろい」と思うその感覚に正直に行動する。それは、ダイビングから農業に生業が変わっても揺らぐことのない須藤さんの強いポリシーです。

阿武隈地域ならではのブランドを生み出したい

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イタリアントマト以外にもスティックセニョール(茎ブロッコリー)やカリフラワーの一種であるロマネスコなど個性的な野菜を手がける須藤さん。そこには、この地で農業をすることに対する彼ならではの考えもあります。

「ここは郡山といっても中心部からかなり離れていますし、地域としては小野町や田村市、平田村との結びつきも強いので、この阿武隈高原地域ならではのブランドを生み出していきたいという想いがあります。

実は、この周辺での新規就農者はここ10年で僕ともう1人ぐらいしかいないんです。このままでは、先祖たちが作り上げてきたこの地域の景観が保てなくなってしまう。そうならないためにも、僕のような立場の人間がみんなに先駆けて行動することで、“自分も農業をやろう”と思ってくれる人を地域に増やしたいと思っています。次の世代の人達を引っ張るような存在になれたらいいですね。」

コメ作りもご両親から引き継ぎつつ、2018年の春に植えたシャルドネはいよいよ初めての収穫へ。「地元のワイナリーでできたワインに自分のブドウが入っていたら絶対に感動するはず」と夢を膨らませます。2020年7月には、県が独自に定めた農業における食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組「FGAP」をトマト栽培において取得。さらに、海外での経験を活かしてインバウンド需要も見越した農家民宿の運営も計画しており、「やりたいことがありすぎて自分の夢に追い付かない」と笑います。

しかし、海を越えて自らの道を切り拓いてきたそのバイタリティを思えば、須藤さんはきっと農業の世界でもたくさんの夢を実現していくはず。今までにないまったく新しい名産品が郡山から全国へ、そして世界へはばたく日も、そう遠い話ではないかもしれません。

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須藤農彩園
Tel 070-2435-7919
Fax 024-975-2540
Instagram @sudonousaien

■須藤農彩園オンラインストア
https://sudonousaien.thebase.in/

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<須藤農彩園の野菜が買える場所>

■開成マルシェ
日時:令和2年8月22日(土)10:00〜15:00
場所:開成柏屋 中庭(福島県郡山市朝日1-13-5)
http://www.caan.jp/marche/198/

■ヨークベニマル 地場野菜コーナー
https://yorkbenimaru.com/store/
※店舗によります

■農産物直売所 おのげんき
福島県田村郡小野町飯豊坂東内前16-2
Tel 0247-72-5511
https://twitter.com/onogenki1

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取材日 2020.8.9
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Interview / Text by 髙橋晃浩Madenial Inc.
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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