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禍話:布かぶってる人

これは私の子どもの頃の記憶なので、細かい部分で間違っているかもしれないし、勝手に記憶を補填している箇所もあるかもしれない。

幼稚園年長さんぐらいの時に、友だちのAちゃんの家にお泊まりさせてもらったことがあった。夕ご飯はAちゃんのお母さんが作ってくれたごはんをごちそうになった。
Aちゃん、お父さん、お母さん、お姉ちゃんと一緒に食卓を囲んでいる時に、テレビでは「夏の恐怖特集」というバラエティ番組が放送されていた。
するとお父さんは
「○○の話のほうがよっぽど怖いけどなあ」
と言いだした。
○○、と呼んだその名前は一緒にご飯を食べている中学生のお姉ちゃんだ。
Aちゃんの家族みんなが口々に
「お姉ちゃんは怖い話がうまいんだよ」
「○○の話は怖くなって眠れないかもしれないぐらいだよ」
と教えてくれた。
Aちゃんは「怖いの聞きたくないよ~やだよ~」と怖がっていて、私も怖がりなので(へえ~そんなにこわいのやだなあ~)と思った。

それからリビングで食後のデザートにリンゴなんかをごちそうになって、Aちゃんと一緒にお風呂に入って遊んだあと、Aちゃんの部屋に布団を並べて寝ることになった。子どもだけでお泊まりなのでわくわくしていたが、わりとすぐ眠ってしまった。


夜中、揺さぶられて目を覚ました。
Aちゃんだった。
「起きて、これからおねえちゃんがこわいことするよ」
(???)
寝ぼけながら「ねむいんだけど…」と言って再び寝ようとしたが、Aちゃんのお姉ちゃんがぼろぼろの布を持って、電気をつけないままうれしそうに部屋に入ってきた。ニコニコしながら
「今から怖いことするよぉ~」
と言う。隣を見るとAちゃんもうれしそうにしていた。
食卓ではあんなに怖がっていたのに…。だんだんちゃんと目が覚めてきて、なんだろう?この状況?とますます不思議に思った。

「今からね、お姉ちゃんね、この布かぶるんだよ」
思わず「かぶるだけ?」と質問すると、お姉ちゃんはこう説明した。

「そう、かぶるだけなの。でも布かぶったら、ふたりから見えなくなるでしょ。ひょっとして、ひょっとしてだよ?手品とかできないけど、布の中の人がお姉ちゃんじゃなくなってたらさ、怖いと思わない?」
Aちゃんが答える。
「こわいこわい!ぜったいこわい!」
「そうでしょ、だってあたし手品できないもん」
手品なんてできないもんねー。ねー。声を揃え、姉妹で笑っている…が、自分はさっぱり笑えない。全くわけがわからず、頭が追いついていかない。
「手品はできなくてもー、全然違う人が出てきたら怖いよね」
(それは怖い…)と声には出せず硬直しているとAちゃんがすかさず
「すごいこわい!ぜったいこわい!」
「そんなの怖くて、夜も眠れないよねえ!」
Aちゃんとお姉ちゃんは嬉々としてそう言い合っているが、それがなんだかわざとらしく感じて、だんだん(お芝居みたいだな)と思い始めていた。

「かぶるよ~」
ついに、お姉ちゃんが体育座りの状態で布をかぶった。
「ほら、布かぶった~。まだあたしだよね」
時々ひょこっと顔を出して「まだあたしなんだけど~」
と、何度か布から顔をのぞかせる動作が、なんとなく気味が悪かった。
「こうやっておしゃべりしながら顔を出していって、それがあたしじゃない全然違う人の顔だったら怖いと思わない?」
すぐさまAちゃんが相槌を打つ。「こわいこわい!」

お姉ちゃんは布をかぶったまま、今度は姉妹の思い出話をし始めた。
「お父さんにドライブに連れてってもらった時にさ~」と、家族にしか知り得ない話をして、今思えばあたかもお姉ちゃんだよということを強調しているように思えた。
「あの時ジャングルジムで面白かったよね~」
「そうそうお父さんも笑ってたね~」
話している内容は普通なのに、どんどん怖くなって、ゾクゾクしてきたところで、急にピタッと会話が止まった。するとAちゃんがおもむろにギュンッとこっちを見て
「じゃあ、めくってみるね」
と、布に手をかけた。

その瞬間、怖くて、見たくなくてたまらず自分のほうが咄嗟に布団をかぶって目をギュッと閉じた。布団の向こうで、バサッと布をめくる音がした。

――――――無音。


(……???)
どうすることも出来ず、しばらく布団をかぶったまま息を凝らしてじっとしていると、足音がして「どうかしたの?」と、Aちゃんのご両親が部屋に入ってきた。
廊下にある、おそらく布を保管していたと思われる物置の扉と、今自分たちがいるAちゃんの部屋の扉が開けっ放しだったのを不審に思ったようだ。
その声にほっとして、やっと布団から出てみると、Aちゃんとお姉ちゃんは倒れて口から泡を吹いて失神していた。ご両親はあわてて救急車を呼び、運ばれていったふたりは救急車内で意識が戻ったらしい。ただ、夜中の出来事の記憶が一切なかったそうだ。

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それからも小学校、中学校と、Aちゃんとは交流こそあったものの、もう泊まりに行ったりするようなことはなかった。
小学校高学年ぐらいになったある時、Aちゃんが
「そういえば、なんかごめんねー。昔泊まりに来てくれた時、あたしは記憶ないんだけど救急車で運ばれちゃってさー」
と言ってきた。
「ああ、あの時ねーびっくりはしたけど全然大丈夫だよー。なんともなくてよかったね」
「あたしもお姉ちゃんも全然覚えてなかったんだよねー」
「そうだたしか、お姉ちゃんが怖い話上手なんだって言ってたよね?」
と思い出していると、Aちゃんからは意外な答えが返ってきた。
「ん?お姉ちゃんが?怖い話が上手ってなに?」
「…え?いやほら、ごはんご馳走になった時にさ、食卓で『お姉ちゃんは怖い話が上手だ』って」

Aちゃんは不思議そうに笑ってこう言った。
「いやいやうちのお姉ちゃんが怖い話なんか。全然したことないよ~」


それからもうその時の話はしないことにした。
お姉さんにも会っていない。


※この話はツイキャス「禍話」より、「リクエスト/布かぶってる人」という話を文章にしたものです。(2021年4月3日 シン・禍話 第四夜)

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この「布かぶってる人」の話は、禍話リライト本vol.3の購入特典として下記の参加方法により私がリクエストさせていただきました。
まさかの方向、スーパーこっくりハンターでおなじみのK君が、コックリさんの話ではないのに提供してくれたそうです。ありがとうございます!!コックリ集め、これからもがんばってください!

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