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禍話:病院のビデオ

とある関西方面の大学にあるサークルに所属するA君は、代々受け継がれてきたサークル室にある、設立時からあるような古い本棚を整理することになった。OBの田中さんは、捨てられちゃ困るものもあるかもしれないからな!とやって来たがただ単に遊びに来ただけだった。
田中さんはおもむろに
「そういや昔、「病院」のテープがあってなー今あるかなー」
と言い出した。
「病院のテープ?なんすかそれ」
「古いVHSでさ、気持ち悪いテープなんだけどな…まあヤラセなんだよな。ヤラセヤラセ」
田中さんは観たが、ただ「気持ち悪い」としか言わない。
・交友関係が広いメンバーの誰かがどこからか譲り受けた
・元の持ち主が「捨てるのも厭だから預かってくれ」と押し付けてきた
・よくある廃墟探検のビデオとかではない
・病院が映っている
・とにかく内容はヤラセ
こんな話ばかりで、肝心の内容の詳細を全く教えてくれなかった。

数日後、A君たちが今度は普段全く手を付けてなかった学内の倉庫の大掃除に駆り出された。出てくるアルバムの写真もよくわからないふざけた学生たちのものばかり。ほかにも古いマンガや雑誌、何年物だよ!と言わんばかりの古い酒瓶、何に使うかもわからないガラクタが山ほど出てきて、参加したメンバーで面白がりながらほとんどかたっぱしから捨てていった。

ふと棚の奥を見ると、VHSが出てきた。
ラベルには、よく見れば[びょういん]とも読めるようなぐちゃぐちゃとした文字が書かれている。
「あれ?これって…」
A君は先日の田中さんの話を思い出した。きっとこれじゃないか?みんなで観てみようとも思ったが、テープの中までカビているようでおそらくこのままでは再生できないだろうと思った。
(ビデオテープのクリーニングとかそういうのに出せば観られるか?)
と一瞬思ったが、いやいやお金をかけてクリーニングに出してまでして観ることもないだろう。と思い直し、捨てた。

それから何日かたち、田中さんがまた遊びに来たのでA君は先日の倉庫掃除の時に見つけたテープのことを話した。田中さんは思いのほか気にしていたようだった。
「たぶんそれだよ!そのテープ結局どうした?」
「なんかめっちゃカビてて…どうにかして観ようかな、とは思ったんですけど、捨てました」
「捨てたんだ?良かったよ。あーでも、お前もやっぱり観たいと思ったんだ?みんなそうなるんだよ」
A君は(みんなそうなる?)と若干ひっかかりはあったものの、その後も田中さんはしきりに「あんまりいいもんじゃないよ」「ヤラセだけどな」と繰り返していた。やはり内容については、話してくれなかった。


そんなこともすっかり忘れ、A君たちも無事大学を卒業し、社会人となった。そしてサークル仲間で久しぶりに集まり、飲み会を開くことになった。

最初こそお互いの仕事の話や、大学当時の思い出などで盛り上がっていたが、お酒も進み「この世のタブー」「都市伝説」みたいな話題が出てきた。
飲み会に田中さんは来ていなかったが田中さんと同じぐらいの年代の先輩であるBさんが「病院の映像ってのがあるんだよね」と切り出した。
「VHSだったらしいんだけどデジタルにコピーしたやつを観させられたことがあってさ、それがすっげー気持ち悪くてさー。病院ぽいところの床に新聞が映りこんで…でもなんかきもだめし?とも違うんだよな…」
その映りこんだ新聞の地域が、このあたりの地方紙だったらしい。
A君は今まですっかり忘れていた、以前田中さんに聞いたビデオのことを瞬時に思い出した。おそらく同じビデオのことだろう。
飲み会自体パラパラと人も減って来ていて、残ったのがこういう気味の悪い話をしても良さそうな気の知れたメンバーだったこともあり、A君は聞いてみることにした。
「それ、ずっと気になってたんで教えてもらってもいいすか?」
Bさんは「後味悪いけど大丈夫?」と前置きした上で、内容を話し出した。

ノイズまじりの映像は病院の廊下から始まった。
「あいつ、大丈夫かなー」
男が2人、横並びに椅子に座って話している。
「怪我、けっこう出血してたけど大丈夫かな?」
「なんか静かだし、うまくいってんじゃない?」
映像が粗く詳細はわからないが、病院の廊下の待合の椅子で、緊急で運び込まれた友達の身を案じているという映像のようだ。
「ちょっと行ってくるわ」
とひとりが様子を見に行き、すぐ戻ってきて
「ご家族がわかるなら連絡してください、五分五分なんでって言われた」「どうなるのかな、心配だな…」

そこまで聞いてA君は「そんな大変そうな時なのに映像回してるんすね…」と若干ひいた。するとBさんがふいに
「あ、言い忘れたけど…その廊下、まっ暗やねん。懐中電灯ぐらいのあかりしかない中でそういう会話してんのよ」
と言う。A君はゾッとした。

ビデオの続き。
「どうですか先生!?」
目線の先にある、手術室みたいなところの扉が開く。真ん中に手術台もあるようだが、そちらも真っ暗で見えにくい。あちこちにガラスが割れていて、廃墟のようだ。手術台の周りに2~3人立っている。よく目を凝らすと、懐中電灯ぐらいのあかりが照らした手術台と思しき台の上に、血だらけの人が横たわって見える。

立っているうちのひとりが急に明るく
「ダメでしたぁ!」
と声を張り上げた。
するとさっきまで廊下で心配した様子だった2人が
「ダメかぁ~!」「やっぱダメかあ!」
と明るく返す。
「アハハだって俺医者じゃないもん~」
「ダメだった~あたしだって看護婦じゃないし~」
アッハッハ!
ダメだよねぇ~アハハハハ!
その場にいる全員が明るく笑い、カメラも笑いで揺れながら、どんどん手術台の上の血だらけの人らしきものをアップに映し出そうと近づき始めたので、耐えられなくなったBさんは観るのをやめたそうだ。

「ヤラセ、あくまでヤラセなんだよ、でもそれ観てから俺普通の病院もなんか厭になっちゃって…。なんかさ、ヤラセとか言ってさ、全部がヤラセだったとしても映ってるものがそんな演技力あるかよっていうぐらいのさ……

だからおまえたちはそのビデオ、観なくてよかったんだよ…」


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後日この話に関して、語り手のCさんと話を聞いたOさんは以下の見解を述べた。

よく山道で車を走らせて確実に人を轢いてしまったという衝撃や感覚、車の傷などが確かにあったのに、周辺を調べると何もない。警察を呼んだのに結局何も無かった、あれはなんだったんだろう?なんてことがあったりする。そんなことがあって例えば、地元の人しかわからないような窪みに落ち込んで亡くなっていた人を……もしくは、そういう発見されにくい山奥で自殺してしまった人を……
なんてことが、ひょっとしてあるのではないか?

いや、これは完全に妄想なんですけどね…
そういうことがあるのかな?なんてふと思っちゃって、気味が悪くてね…。



※この話はツイキャス「禍話」より、「病院のビデオ」という話を文章にしたものです。(2022/06/18 元祖!禍話 第八夜)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/735680415

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