敵わないな、と思う人

誰しも生きていれば、きっと、この人には敵わないなぁと思うような人が出てくるのでは無いだろうか。
どういった意味合いかは人によって違うだろうが。
例えばそれは、技能的に自分に出来ないことが出来る人への憧れや劣等感かもしれない。或いは、人間的に優れた人への羨望や妬みかも分からない。
でも、きっと自分の内側にないものを持つ人に対してしか、そういう気持ちは抱けないんだろう。

昨日、大学の後輩(仮にA君としよう)とそういう話になった。久しぶりにゆっくりとお茶をし、世間話の流れでごく自然に。これまでの人生の中で敵わないなぁと思った人はいるか、と、そう問うてみた。
彼は少し思案した後、大学時代のブラスバンド部での経験を挙げてくれた。自分の担当している楽器と同じものを演奏する同級生がいたそうだ。その同級生は(人間性はともかくとして)とてつもなく抜きん出た演奏技術で以て、周囲を圧倒していたという。
A君もその同級生に負けまいと努力を続け、時にはその子に教えを請うたというが、ついぞ敵うことは無かったらしい。A君曰く、練習量の差があったのだという。件の同級生君は、ギリギリ卒業できたそうだが、非常に単位を削りに削って、その全てを楽器に費やしていたという。
「僕にはそれだけの熱意が無かったってことでしょうかね。敵いませんよ、アレには」と。

卒業の危うくなるほどまで熱中できることがあるというのは確かに珍しいことなのかも知れない。そこまで情熱を燃やせるというのは、ある種の才覚なのだろう。
努力は才能というが、根底にある熱意もまた、誰にでも備わっているアイテムでは無いのかも。僕にはそういう、何を差し置いても全てを賭したいようなことって無いのだろうか。

前にもなんか、こんなことを考えていた気がする。
A君の話を聞いていると、これって意外とありふれた悩みだったりするのかもなぁと思って、ホッとした反面、何だか寂しい気もした。

(時間が無いので明日に続く)

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