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今だからカミュの小説「ペスト」を読んでみる

小説の舞台と、世界中で起こっていること

「1940年代のアルジェリアにある港湾都市オラン市。ペストの蔓延により、次々と人々の命を失っていき、オラン市は感染拡大防止のため外界から完全に遮断を行った」
これは小説の中の話ですが、今、世界中で新型コロナウイルスの蔓延によるロックダウン(都市封鎖)が次々と行われています。3月23日の東京都知事の会見でも、東京の首都封鎖の可能性が示唆されました。

アルベール・カミュ

アルベール・カミュは、1956年にノーベル文学賞を受賞したフランスの小説家・哲学者です。作品としては「異邦人」のほうが有名かもしれません。私も中学生か高校生の頃に読みました。カミュの著作は「不条理」という概念により特徴づけられている、と言われています。

カミュの言う不条理とは、明晰な理性を保ったまま世界に対峙するときに現れる不合理性のことであり、そのような不条理な運命を目をそむけず見つめ続ける態度が「反抗」と呼ばれる。そして人間性を脅かすものに対する反抗の態度が人々の間で連帯を生むとされる。

小説「ペスト」

そのカミュの作品である「ペスト」は1947年に書かれました。カミュが生まれ育ったフランスの植民地である1940年代のアルジェリアが舞台となっています。
突然ペストの猛威にさらされた北アフリカの港湾都市オラン市。ペストの蔓延により、次々と人々の命を失っていきます。その一方で、オラン市は感染拡大防止のため外界から完全に遮断。医師リウーは、友人のタルーらと共に極限状態に立ち向かっていきますが、ペストは拡大の一途をたどります。後手に回り続ける行政の対応、厳しい状況から目をそらし現実逃避を続ける人々、人々の相互不信、増え続ける死者。そのような中でも、それぞれの決意を持って戦い続ける人々。これらを群像劇のように様々な人物が静かに淡々と描かれています。

圧倒的な絶望状況の中、職務にあたった医師リウー

このようなセリフが印象に残りました。

ヒロイズムなどという問題じゃないんです。これは誠実さの問題なんです。こんな考え方はあるいは笑われるかもしれませんが、しかしペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです。
 〜 中略 〜
一般にはどういうことか知りませんがね。しかし、僕の場合には、つまり自分の職務を果すことだと心得ています。

医師リウーはヒーローのようには描かれていなくて、淡々と、多くの登場人物とともに書かれています。
小説の中の最後には、猛威をふるったペストが沈静化し始めます。しかし、そんな中、リウーを支えてきた友人のタルーが発病し、静かに亡くなりました。追い打ちをかけるように、遠隔地で結核の治療を続けていたリウーの妻も他界したという知らせが届きます。それでもなお、リウーは後世のためにこれら全ての記録を自ら残していこうと決意して物語は終わります。

人間は「不条理」にどう向き合い、どう生きていくべきか

罪なき人々の死、災害や病気などの避けがたい苦難。私たちの人生は「不条理」としかいいようのない出来事に満ち溢れています。世界は複雑で、シンプルに色分けして理解できるわけはないのに、善と悪という二色で塗り分けて、その論理を振り回している人もたくさんいます。
小説の中では、発生から9ヶ月が経ち、猛威をふるったペストが沈静化しました。パンデミックが発生し、株価が暴落し、各国でロックダウンが発生しているこの世界が、いつ平穏な日々に戻るのかはわかりません。
それでもなお、「不条理」にどう向き合っていくのか、を深く考えさせられる小説だと思います。

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